青酸中毒とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > 青酸中毒の意味・解説 

シアン化物中毒

(青酸中毒 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/19 07:03 UTC 版)

シアン化物中毒
別称 シアン化物毒性(cyanide toxicity)、青酸中毒[1]
シアン化物イオン
概要
診療科 毒物学、救命医療(critical care medicine)
症状 初期症状頭痛めまい、頻拍(fast heart rate)、息切れ嘔吐[2]
末期症状:発作(seizures)、心拍数低下(slow heart rate)、低血圧、意識消失(loss of consciousness)、心停止[2]
発症時期 数分間[2][3]
原因 青酸化合物(cyanide compounds)[4]
危険因子 住宅火災、金属研磨(metal polishing)、特定の殺虫剤、リンゴの種を食べること[3][2]
診断法 症状および血中乳酸塩の増大(high blood lactate)に基づく。[2]
治療 除染した上での支持療法(100%酸素の吸入)、ヒドロキソコバラミン[2][3][5]
分類および外部参照情報

シアン化物中毒(シアンかぶつちゅうどく、: cyanide poisoning)は多くの種類のシアン化物にさらされることによって起こる中毒である[4]シアン化合物中毒(シアンかごうぶつちゅうどく)、シアン中毒(シアンちゅうどく)、青酸中毒(せいさんちゅうどく)とも呼ばれる。

概説

中毒の初期症状には、頭痛、めまい、頻脈息切れ、そして嘔吐が含まれる。その後に発作、徐脈低血圧、意識消失、心停止になることがある[2]。症状は通常、数分以内に出始める[3]。たとえ一命を取りとめたとしても、長期にわたる神経学的問題が残ることがある[2]

シアン化物を含む有毒な化合物にはシアン化水素ガスや多くのシアン化物が含まれる[2]。この中毒は住宅火災で生じた煙を吸ったあとで比較的よく起こる[2]。シアン化物にさらされる可能性のあるその他のルートには金属研磨、特定の殺虫剤、医薬品のニトロプルシドにかかわる仕事場、そしてリンゴアンズの種子のような特定の種子が含まれる[6][7]。液体状のシアン化物は皮膚を通して吸収されうる[8]。シアン化物イオン細胞呼吸を妨げ、身体の組織に酸素を使えなくさせる[2]

この中毒を診断するのは難しいことが多い[2]。住宅火災にあった人のうち意識レベルが低下し、低血圧になり、あるいは血中乳酸塩が高くなっている人はこの中毒が疑われることがある[2]。シアン化物の血中濃度を測定することはできるが時間がかかる[2]。血中濃度が0.5~1 mg/Lの場合中毒は軽度であり、1~2 mg/Lの場合は中度、2~3 mg/Lの場合は重度、3 mg/L以上の場合は死亡に至る[2]

もし誰かが、シアン化物にさらされたのではないかと疑われる場合、その人を暴露物質の出所から移動させて浄化する[3]。治療には、支持療法や100%酸素の吸入が含まれる[2][3]

ヒドロキソコバラミン(ビタミンB12a)は解毒剤として有用だと思われていて、最初の治療法として使われる[5]チオ硫酸ナトリウムも投与されることがある[2]。歴史的にシアン化物は、集団自殺ナチス大量殺戮をするときに使われてきた[3]

歴史

自殺

シアン化物は効くのが速い自殺の手段としてときおり使われる。シアン化物は強い胃と比較的高い水準で反応する。

  • 1937年2月、ウルグアイ人の短編小説家オラシオ・キロガ(Horacio Quiroga)はブエノスアイレスの病院でシアン化物を飲むことによって自殺した。
  • 1937年、ポリマー化学者のウォーレス・カロザースはシアン化物を使って自殺をした。
  • 1943年、第二次世界大戦中にヴェモーク(Vemork)重水工場を破壊するために行われたガンナーサイド作戦(ドイツによる原子爆弾の開発を止めようとする、あるいは遅らせようとする試み)で、特殊部隊員たちは口の中で保持するように作られたシアン化物の錠剤(ゴムの中に封入されたシアン化物)を与えられた。特殊部隊員たちはドイツ側に捕らえられた場合、その錠剤を噛んで飲み込むよう指示されていた。その錠剤は3分以内に必ず死ねるように作られていた。
  • シアン化物の中でも特にシアン化水素の純正液体は、ドイツ第三帝国で自殺の手段として好まれた。エルヴィン・ロンメル(1944年)、そしてアドルフ・ヒトラーの妻のエヴァ・ブラウン(1945年)が、さらにナチスのリーダーだったハインリヒ・ヒムラー(1945年)が、そしておそらくマルティン・ボルマン(1945年)およびヘルマン・ゲーリング(1946年)もこのシアン化水素を自殺するときに使った。
  • 1954年、アラン・チューリングは――当時のイギリスでは違法だった――同性愛関係を持ったという有罪判決を受けてホルモンの去勢を受けることを強制された後、自殺するためにシアン化物溶液を注入したリンゴを使ったと考えられている。
  • 1978年11月18日、ジョーンズタウンジム・ジョーンズと何人かの人民寺院のメンバーが「革命を起こす自殺」(revolutionary suicide)と呼ばれるイベントを開いた。そのイベントの中で、さらにはそのイベントの録音テープに基づいて、そしてそのイベントの前に行なわれた討議の中で総勢909人が亡くなった。その際、2人以外の全員は明らかにシアン化物中毒によって亡くなった。ジョーンズタウンでの服毒自殺の後、人民寺院のメンバーたちはガイアナのポート・ケイトゥマ(Port Kaituma)で他の5人を殺害した。5人の中にはアメリカ下院議員のレオ・ライアンも含まれていた。それらの殺害はジョーンズが命じたものだった。人民寺院の他の4人のメンバーはジョーンズの命令に従ってジョージタウンで殺人や自殺を行った。
  • スリランカのLTTE(タミル・イーラム解放のトラ。彼らの反政府活動は1983年から2009年まで続いた)のメンバーたちは、政府軍に捕えられた場合には自殺をするつもりで、首の周りにシアン化物の入った複数の小瓶を着用していた。
  • 1985年6月6日、拘留されていた連続殺人犯のレナード・レイク(Leonard Lake)は自分の服に縫いつけて隠し持っていたシアン化物の錠剤を飲み込んだのち亡くなった。
  • 2012年6月28日、ウォール街のトレーダーだったマイケル・マリン(Michael Marin)はアメリカのアリゾナ州フェニックスで開かれていた自分の放火罪を審理する裁判で有罪の評決が読み上げられた数秒後、シアン化物の錠剤を飲み込んだ。彼が亡くなったのは数分後のことだった。
  • 2015年6月22日、時計学者でありポッドキャストS-Town」の中心人物であったジョン・B・マクルモア(John B. McLemore)はシアン化物を飲み込んだのちに亡くなった。
  • 2017年11月29日、スロボダン・プラリャク旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷戦争犯罪の有罪判決を受けたのち、シアン化カリウムを飲むことによって亡くなった。

出典

  1. ^ Waters, Brenda L. (2010) (英語). Handbook of Autopsy Practice (4 ed.). Springer Science & Business Media. p. 427. ISBN 9781597451277. オリジナルの8 September 2017時点におけるアーカイブ。. https://books.google.com/books?id=JN4DJu_pzoMC&pg=PA427 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q Anseeuw, K; Delvau, N; Burillo-Putze, G; De Iaco, F; Geldner, G; Holmström, P; Lambert, Y; Sabbe, M (February 2013). “Cyanide poisoning by fire smoke inhalation: a European expert consensus.”. European Journal of Emergency Medicine 20 (1): 2–9. doi:10.1097/mej.0b013e328357170b. PMID 22828651. 
  3. ^ a b c d e f g Hamel, J (February 2011). “A review of acute cyanide poisoning with a treatment update.”. Critical care nurse 31 (1): 72–81; quiz 82. doi:10.4037/ccn2011799. PMID 21285466. 
  4. ^ a b (英語) Dorland's Illustrated Medical Dictionary (32 ed.). Elsevier Health Sciences. (2011). p. 1481. ISBN 1455709859. オリジナルの8 September 2017時点におけるアーカイブ。. https://books.google.com/books?id=mNACisYwbZoC&pg=PA1481 
  5. ^ a b Thompson, JP; Marrs, TC (December 2012). “Hydroxocobalamin in cyanide poisoning.”. Clinical Toxicology 50 (10): 875–85. doi:10.3109/15563650.2012.742197. PMID 23163594. 
  6. ^ Hevesi, Dennis (1993年3月26日). “Imported Bitter Apricot Pits Recalled as Cyanide Hazard”. The New York Times. オリジナルの2017年8月18日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170818175203/http://www.nytimes.com/1993/03/26/nyregion/imported-bitter-apricot-pits-recalled-as-cyanide-hazard.html 2017年6月2日閲覧。 
  7. ^ Sodium Nitroprusside”. The American Society of Health-System Pharmacists. 2016年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年12月8日閲覧。
  8. ^ Hydrogen Cyanide - Emergency Department/Hospital Management”. CHEMM (2015年1月14日). 2016年11月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年10月26日閲覧。

関連項目

外部リンク


「青酸中毒」の例文・使い方・用例・文例

  • 青酸中毒
Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「青酸中毒」の関連用語

青酸中毒のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



青酸中毒のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのシアン化物中毒 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS