tunnelling effectとは? わかりやすく解説

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トンネル効果

(tunnelling effect から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/11/16 18:10 UTC 版)

矩形ポテンシャル障壁を越える量子トンネル。トンネル抜け前後で粒子のエネルギー(波長)は変わらないが確率振幅は減少する。

トンネル効果(トンネルこうか、: tunnelling effect)は、量子力学において、波動関数ポテンシャル障壁を超えて伝播する現象である。

20世紀初頭に予言され、20世紀半ばには広く認知される物理現象となった[1]。トンネル効果は、ハイゼンベルクの不確定性原理と、物質における粒子と波動の二重性を用いて説明できる。

トンネル効果は、原子核崩壊核融合など、いくつかの物理現象において欠かせない役割を果たしている[2][3]。また、トンネルダイオード[4]量子コンピュータ走査型トンネル顕微鏡フラッシュメモリなどの装置において応用されているという意味でも重要である。

歴史

1901年、ロバート・フランシス・イアハートは、電極間の距離を測定することができるマイケルソン干渉計を用いて、非常に近接した電極間における気体の電気伝導性を研究していたところ、予想に反して大きな電流が流れることを発見した。1911年から1914年にかけて、当時大学院生であったフランツ・ロターは、イアハートの手法を応用して、電極間の距離を制御及び測定する方法について研究した。ロターは、感度の高い検流計を用いて、電極間を流れる電流を測定することにより、電極間の距離を測定する方法を発案した。1926年、ロターは 26 pA(ピコアンペア) の感度をもつ検流計を用いて、高真空の環境下において、近接させた電極間を流れる電流を計測した[5]

トンネル効果に係る理論は、放射能及び原子核物理学の研究によって発展した。フリードリッヒ・フントは1927年、二重井戸ポテンシャル英語版の基底状態の研究において、トンネル効果について初めて言及している[6]。1928年、ジョージ・ガモフと、彼とは独立にロナルド・ガーニー英語版エドワード・コンドン英語版により、アルファ崩壊の説明において、トンネル効果が応用された[7][8][9][10]。彼らは、核ポテンシャルをモデル化したシュレーディンガー方程式を解き、粒子の半減期と、放出されるエネルギーとの関係式が、トンネル効果の起こる確率と直接関係していることを導いた。

マックス・ボルンは、ガモフのセミナーに参加した際に、トンネル効果が原子核物理学の範囲内に留まらず、もっと普遍的な現象であることに気付いた[1]。その直後、両グループは、トンネル効果によって粒子が原子核に取り込まれることについて考察した。1957年までに、半導体の研究とトランジスタダイオードの開発を通じて、電子のトンネル効果が広く認知されるようになった。江崎玲於奈アイヴァー・ジェーバーブライアン・ジョゼフソン超伝導クーパー対のトンネル効果を予言し、1973年のノーベル物理学賞を受賞した[1]。2016年、水の量子トンネリング英語版が発見された[11]

基礎

トンネル効果とそのSTMへの応用を図示したアニメーション
電子波束がポテンシャル障壁とぶつかる様子。右側へ抜ける淡い点がトンネル抜けをした電子を表わす。
障壁を越える量子トンネル。原点 (x=0) に非常に高く狭いポテンシャル障壁が存在する。顕著なトンネル効果が見られる。

トンネル効果は、非常に微細な領域で発生する現象であるため、我々が直接知覚することはできない。また、古典力学では説明することができず、量子力学により取り扱う必要がある。

例えば、ポテンシャル障壁に向かっている粒子を、丘を転がり上がるボールに喩えて考えた時、古典力学においては、障壁を乗り越えるだけのエネルギーを粒子が持っていない限り、粒子は障壁の向う側には到達できない。つまり、丘を乗り越えるだけのエネルギーを持たないボールは、途中で止まり丘を転がり落ち戻っていく。別の喩えを用いれば、壁を貫通するだけのエネルギーを持たない銃弾は跳ね返されるか、壁の中で止まる。ところが、量子力学においては、ある確率で粒子は障壁を貫通する。この場合、「ボール」は環境からエネルギーを「借りて」丘を乗り越え、反射電子のエネルギーを高くすることによってそれを返済する[12]

このような違いは、量子力学における粒子と波動の二重性に起因する。この二重性により導かれるハイゼンベルク不確定性原理によれば、粒子の位置と運動量は確定することができない[6]。このことは、粒子はぼんやりとした雲のように存在している(存在確率に空間的な広がりがある)ことを意味しており、また、その確率が厳密に0(もしくは1)になるような解はない。したがって、障壁に粒子が衝突する時、障壁を挟んだ反対側には粒子の存在確率があり、障壁が薄ければ薄いほど、その存在確率は無視できないものとなる。

量子トンネリングを相空間上に表現した図。
ポテンシャル障壁の量子トンネルに基く共鳴トンネルダイオードの動作原理。

トンネルダイオード

ダイオードとは、電流を一方向にしか流さない半導体素子である。この素子はn型p型の半導体の接合面に生じる空乏層に依存して動作している。半導体のドープ率を極めて高くすると、空乏層が量子トンネリングが生じるほど薄くなる。すると、順バイアスが小さい場合にはトンネリングによる電流が支配的となる。この電流はバイアス電圧がp型およびn型の伝導帯エネルギー準位が一致するような値のとき最大となる。バイアス電圧をさらに増していくと、伝導体がもはや一致しなくなり通常のダイオードと同様の動作を示すようになる[27]

トンネル電流は急速に低下するため、電圧が増すと電流が減るような電圧領域を持つトンネルダイオードを作成することが可能である。このような特異的特性は、電圧の変化の速さに量子トンネル確率の変化が追従できるような高速素子などにおいて応用されている[27]

共鳴トンネルダイオードは同じような結果を達成するが、量子トンネリングを全く異る方法で応用している。このダイオードは伝導体のエネルギー準位が高い薄膜を複数近接して配置することにより、特定の電圧で大きな電流が流れる共鳴電圧を持つ。このような配置により最低エネルギー準位が不連続に変化する量子ポテンシャル井戸が形成される。このエネルギー準位が電子のエネルギー準位よりも高い場合はトンネリングは起こらず、逆バイアスのかかったダイオードのように動作する。二つのエネルギー準位が一致したとき、電子は導線で繋がれたかのように流れる。電圧をさらに高くするとトンネリングが起こらなくなり、あるエネルギー準位からはまた通常のダイオードのように動作しはじめる[28]

トンネル電界効果トランジスタ

ヨーロッパの研究プロジェクトにより、ゲート(チャネル)を熱注入ではなく量子トンネリングで制御することにより、ゲート電圧を ~1 ボルトから 0.2 ボルトに低減し、電力消費量を 100分の1以下に抑えた電界効果トランジスタが実証された。このトランジスタをVLSIチップ英語版にまでスケールアップすることができれば、集積回路の電力性能効率を大きく向上させることができる[29]

量子伝導

電気伝導におけるドルーデモデルは金属中の電子の伝導について優れた予言を行うが、電子の衝突時の性質について量子トンネルを考慮して改良することができる[25]。自由電子波束が等間隔に並んだ長い障壁の列に遭遇すると、反射された波束と透過する波束が均一に干渉して透過率が100%となる場合がある。この理論によれば、正に帯電した原子核が完全な長方形格子を構成する場合、電子は金属中を自由電子のようにトンネリングし、極めて高い伝導度を示すこと、および金属中の不純物によりこれが大きく阻害されることが予言される[25]

走査型トンネル顕微鏡

ゲルト・ビーニッヒハインリッヒ・ローラーにより発明された走査型トンネル顕微鏡 (STM) は、金属表面の個々の原子を判別できる画像を撮像できる[25]。これは量子トンネル確率が位置に依存する性質を利用したものである。バイアス電圧を掛けたSTM針の針先が伝導体表面に近付くと、針から表面へと電子がトンネリングし、これを電流として計測することができる。この電流により、針と表面の距離を計測できる。圧電素子に印加する電圧を制御して、針が表面と一定距離を保つように伸び縮みさせることができる。圧電素子に印加した電圧の時間変化を記録すれば、表面の像を得ることができる[25]。STMの精度は 0.001 nm、すなわち原子直径の 1% に及ぶ[28]

超光速

スピンゼロ粒子がトンネリングするとき、光速を超えて移動することがある[1]。これは一見相対論的因果律に反しているように見えるが、波束の伝播を詳しく解析すると、相対性理論に反していないことがわかる。1998年、フランシス・E・ロー英語版はゼロ時間トンネリングについてのレビューを執筆した[30]フォノン光子電子のトンネル時間についてのより新しい実験データはギュンター・ニムツ英語版により発表されている[31]

量子トンネルの数学的表現

以下の節では量子トンネルの数学的公式化について論じる。

シュレーディンガー方程式

一粒子・一次元時間非依存シュレーディンガー方程式は以下のように書ける。

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