内殻電子
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/02/02 13:25 UTC 版)
内殻電子(ないかくでんし、英語: Core electron)は、原子中の電子のうち、価電子でなく、化学結合に直接関わらない電子である[1]。原子核と原子中の内殻電子は、原子芯と呼ばれる。内殻電子は原子核と強く結びついているため、価電子とは異なり、原子核の正電荷を価電子から遮蔽することにより、化学結合や化学反応で二次的な役割を果たす[2]。
- 典型元素の価電子数は1から8(nsおよびnp電子軌道)
- 遷移元素の価電子数は3から12(nsおよび(n-1)d電子軌道)
- ランタノイドおよびアクチノイドの価電子数は3から16(ns、(n-2)fおよび(n-1)d電子軌道)
この他の価電子でない電子が、内殻電子である。
軌道理論
内殻電子と価電子のより複雑な違いは、原子軌道法によって説明される[要出典]。
電子を1つ持つ原子における軌道エネルギーは、主量子数nにより決まる。n=1の軌道は、その原子において可能なもっとも低いエネルギーを持つ。よりnが大きい場合では、エネルギーが増加するため、電子は簡単に原子から脱離する。電子を1つ持つ原子では、量子数が同じすべてのエネルギー準位は縮退しており、同じエネルギーを持つ。[要出典]
複数の電子を持つ原子では、電子のエネルギーはその電子の存在する軌道の性質だけでなく、他の軌道の他の電子との相互作用にも依存し、方位量子数ℓを考慮する必要がある。ℓが大きいほどエネルギーが高く、例えば2p軌道は、2s軌道よりもエネルギーが大きい。しかし、nおよびℓが大きく、軌道エネルギーが十分に大きくなると、次の電子殻のs軌道のエネルギーを上回る場合がある。このため、例えば3d軌道は、4s軌道が閉殻するまでは電子が収容されず、4f軌道および5d軌道は、6s軌道が満たされるまでは電子が収容されない。[要出典]
より大きな原子において角運動量が増加する副電子殻(小軌道)のエネルギーの増加は、電子間の相互作用効果によるものであり、具体的には低角運動量電子が中間電子の電荷による遮蔽が弱まる原子核方向へより効果的に浸透する能力に関連している。このため、原子番号の大きい原子においては、nよりもℓがエネルギーを決定する要因としてますます重要となる。最初の35個の副電子殻(1s,2s,2p,3s…)のエネルギー順序は下図の通りである。[要出典]
原子芯
原子芯(英語: atomic core)は、原子のうち価電子を除いた部分、すなわち原子核および内殻電子を指す[3]。原子芯は芯電荷(英語: core charge)と呼ばれる正電荷を持ち、これは最外殻電子が感じる有効核電荷である。つまり、芯電荷は内殻電子の遮蔽効果を考慮した上での、価電子が原子芯から受ける引力を表す。芯電荷は原子核中の陽子数(原子番号)から内殻電子数を減算して計算され、中性原子では常に正の値をとる。例えば、塩素(原子番号17、電子配置1s2 2s2 2p6 3s2 3p5)は、17個の陽子と10個の内殻電子を持つため、芯電荷は +7 と計算される。
原子芯の質量は、原子の質量にほとんど一致する。原子芯は十分な精度で球対称とみなすことができる。原子芯の半径は、同じ方法で計測する場合、少なくとも原子半径よりも3倍は小さい。重い原子では、原子芯の半径は電子数が増えるほどわずかに増加する。しかしながら、最も重い天然元素であるウランの原子芯の半径は、電子を3つしか持たないリチウムとほとんど同じである。
化学的な方法では、原子から内殻電子のみを分離することはできない。炎や紫外線によりイオン化されたとしても、通常原子芯はそのままの状態である。
芯電荷は周期表における法則を説明する簡便な方法である[4]。周期表の行(周期)を右に移動するにつれて芯電荷は増加するため、最外殻電子は原子核により強く引きつけられ、原子半径は減少する。このことは、原子半径、第一イオン化エネルギー、電気陰性度、酸化力といった様々な周期律を説明することができる。
相対論的効果
大きい原子番号Zの元素では、内殻電子において相対論的効果を観測することができる。s軌道の電子の速度は相対論的運動量に達し、5d軌道に対する6s軌道の収縮を引き起こす。この相対論的効果による影響を受ける物理的性質には、水銀の低い融点や、金、セシウムの狭いエネルギーギャップによる金色の呈色などが含まれる[5]。金が金色を呈するのは、他の可視光波長よりも青色の可視光を吸収し、黄色の可視光を反射するためである。
電子遷移
電磁放射を吸収すると、内殻電子はその内殻準位から分離される。これにより電子は空の価電子殻へ励起されるか、光電効果により光電子として放出される。その結果、原子は内殻電子殻が一部空の状態となり、コアホールと呼ばれる。この状態は準安定状態であり、10-15秒以内に崩壊し、過剰なエネルギーをX線蛍光(固有X線)として、またはオージェ効果によって放出する[6]。低エネルギー軌道へ遷移する価電子が放出するエネルギーの検出は、物質の電子構造および局所格子構造に関する有用な情報となる。このエネルギーはほとんどの場合光子として放出されるものの、他の電子に遷移し、原子から間接的に放出される場合もある。後者の場合の電子を、オージェ電子と呼び、この間接的な放出を伴う電子遷移をオージェ効果と呼ぶ[7]。
水素以外のすべての原子は、結合エネルギーが明確に定義された内殻準位の電子を持つ。このため、X線のエネルギーを適切に調整することで、分析する対象の元素を選択することができる。放出される放射線のスペクトルは、物質の元素組成を決定するために用いられる。
脚注
- ^ Rassolov, Vitaly A.; Pople, John A.; Redfern, Paul C.; Curtiss, Larry A. (2001-12-28). “The definition of core electrons”. Chemical Physics Letters 350 (5–6): 573–576. Bibcode: 2001CPL...350..573R. doi:10.1016/S0009-2614(01)01345-8.
- ^ Miessler, G. L. (1999). Inorganic Chemistry. Prentice Hall
- ^ Harald Ibach, Hans Lüth. Solid-State Physics: An Introduction to Principles of Materials Science. Springer Science & Business Media, 2009. P.135
- ^ Spencer, James; Bodner, George M.; Rickard, Lyman H. (2012). Chemistry : structure and dynamics (5th ed.). Hoboken, N.J: John Wiley & Sons. pp. 85–87. ISBN 978-0-470-58711-9
- ^ “Quantum Primer”. www.chem1.com. 2015年12月11日閲覧。
- ^ IUPAC, Compendium of Chemical Terminology, 2nd ed. (the "Gold Book") (1997). オンライン版: (2006-) "auger effect".
- ^ “The Auger Effect and Other Radiationless Transitions”. Cambridge University Press. 2015年12月11日閲覧。
関連項目
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