ABCモデルの概要
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/30 07:18 UTC 版)
ABCモデル図 B A C がく 花弁 雄蕊 心皮 花器官形成のABCモデルはアメリカのE. MeyerowitzのグループおよびイギリスのE. Coenのグループが、それぞれシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)とキンギョソウ(Antirrhinum majus)での研究に基づき独立に確立し、両者の共著で1991年に提唱されている。シロイヌナズナはバラ類、キンギョソウはキク類に属し、両種とも4つのwhorlに4種の花器官(萼、花弁、雄蕊、心皮)を作る。それぞれのwhorlのアイデンティティーはホメオティック遺伝子の発現の差によって定義される。すなわち、萼はAクラス遺伝子のみの発現によって特徴づけられ、花弁はAクラスとBクラスの遺伝子が同時に発現することにより作られる。Bクラス遺伝子とCクラス遺伝子の同時発現は雄蕊のアイデンティティーを与え、心皮の形成にはCクラス遺伝子のみが活性化している必要がある。また、タイプAの遺伝子とタイプCの遺伝子はお互いの発現を抑制しあっている。 これらのホメオティック遺伝子が器官のアイデンティティーを決定している事実は、ある特定の機能を持つ遺伝子、例えばAクラスの遺伝子が発現していない時に明確になる。シロイヌナズナにおいてはこの欠失によって、最も外側のwhorl(whorl 1)に心皮が、そのひとつ内側のwhorl(whorl 2, whorl 3)に雄蕊のwhorlが、最も内側(whorl 4)には再び心皮が形成されることになる(次節図の「Aクラス変異体」を参照)。 A, B, Cクラスに加えて、Dクラス、Eクラスという補足的な機能を持つ遺伝子の存在もすでに議論されている。Dクラス遺伝子は心皮の運命の決定に続いて胚珠のアイデンティティーを特定する機能を持つとされる。Eクラスの遺伝子ははじめ内側3つのwhorlにおいて花器官のアイデンティティーを決定する働きを果たすとされた。しかしながら、現在ではEクラスの働きは広義に捉え直され、4つのwhorl全てに花器官としてのアイデンティティーを与えるのに働くと考えられている。したがって、Dクラスの遺伝子の働きが失われると胚珠の構造は葉のそれと類似したものとなり、広義のEクラス遺伝子が失われると全てのwhorlに葉のような構造がみられるようになる。 興味深いことに、A, B, Cクラスの遺伝子のほとんどに加え、D, Eクラスの遺伝子もその産物はMADSボックス型の転写因子である。
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