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舘暲

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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/09 23:53 UTC 版)

舘 暲
(たち すすむ)
生誕 (1946-01-01) 1946年1月1日(79歳)
東京都新宿区
居住 日本
国籍 日本
研究分野 バーチャルリアリティ
ロボット
研究機関 東京大学
慶應義塾大学
旧通産省機械技術研究所
マサチューセッツ工科大学
出身校 東京大学工学部卒業
東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士)
博士課程
指導教員
磯部孝
博士課程
指導学生
稲見昌彦
主な業績
プロジェクト:人物伝
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舘 暲(たち すすむ、1946年1月1日 - )は、日本システム工学者。工学博士東京大学名誉教授

専門はシステム情報学で、特にロボット工学バーチャルリアリティ計測工学制御工学

略歴

〈出典:[1][2]

東京都生まれ。1964年東京都立戸山高等学校卒業。1968年東京大学工学部計数工学科卒業。1973年東京大学大学院工学系研究科計数工学専攻博士課程修了。その後、1973年4月より、東京大学工学部計数工学科助手、1975年5月より、通商産業省工業技術院機械技術研究所研究員。主任研究官、遠隔制御課長、バイオロボティクス課長を歴任。この期間中、1979年7月から1980年7月、マサチューセッツ工科大学客員研究員

1989年9月から、東京大学助教授を併任、1991年1月に東京大学先端科学技術研究センター助教授に転任、1992年4月に同センター教授、その後1994年4月に工学部教授、2001年4月には東京大学大学院情報理工学系研究科教授に就任し、2009年定年退職、名誉教授、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。2011年特任教授。2016年より東京大学高齢社会研究機構。

日本バーチャルリアリティ学会初代会長。計測自動制御学会第46期会長。日本ロボット学会設立発起人。

テレイグジスタンスバーチャルリアリティ、臨場感コミュニケーション、再帰性投影技術、ハプティクスなどの研究分野における日本の先駆者的研究者。R3(Rキューブ)=リアルタイム・リモート・ロボティクスによるユビキタス・コンピューティングとの融合なども提唱している。

人物

  • 舘の生い立ちの中で最も影響力があり、彼を知的探求に向かわせた人物は母方の祖父だった。 祖父は、日本人初の東京帝国大学外科学教授となった佐藤三吉の甥であった。 曽祖父が若くして亡くなったため、祖父は、曽祖父の弟である佐藤三吉に引きとられ深い学問的雰囲気の家庭で育った。その家庭環境が、祖父の家にも引き継がれていて、幼少の舘は、佐藤三吉の話を何度となく祖父から聞いて育った[3]
  • 東京大学に入学して1年余の1965年の夏、進振りの締め切りが近づくなか、舘は、物理に進もうと思っていたが、一方で人間に興味があり人が関わっている研究がしたいと漠然と考えて進路を決めかねていた。そんな中、偶然ならしたラジオから流れてきたのがノーバート・ウィーナーの『サイバネティクスはいかにして生まれたか』の朗読であった。聞いたとたん雷に打たれたような感覚が全身を走ったのを鮮明に覚えているという。すぐに総合図書館に走りウィーナーの著書を探して読み、その結果、サイバネティクスの研究に身を投じることを決意し、当時、唯一サイバネティクスを学べる工学部の計数工学科に進学した[3][4][5]
  • 次男は、折り紙工学者で東京大学教授の舘知宏[6]
  • 1993年に、学生にVRを普及し若手研究者を育成する目的で国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)を創設した。このコンテストは、現在各界で活躍する数多くのVRや人間拡張工学など身体性科学分野の研究者や技術者、また芸術家あるいは起業家や経営者を輩出している[7]
  • サイバネティクスの本質ともいえる「人間が人間らしく生きるための科学技術」の考え方を直伝で継承してゆくことを目的として、「サイバネティクス研究会」を2004年にはじめて、現在、80名を超える博士が会員として集っている[8]

研究成果ビデオ

  • 盲導犬ロボット MELDOG [9]
  • テレイグジスタンス Telexistence[10]
  • 光学迷彩 Optical Camouflage[11]
  • 透明コックピット The Transparent Car[12]
  • 裸眼立体視コミュニケーションTwister[13]
  • 裸眼立体視と触覚の融合HaptoMirage[14]
  • フルパララック裸眼立体視 RePro3D[15]
  • 触原色 Haptic Primary Colors[16]
  • Tachilab YouTube[17]

業績

1. テレイグジスタンス (Telexistence) の提唱と推進[18]

  • 人間が遠隔地にあるロボットと一体化し、あたかもその場所にいるかのような感覚で作業や体験ができる「テレイグジスタンス」(遠隔存在)という概念を1980年に提唱した。これは、現在のVRやアバターロボット技術の先駆けとなる重要な概念であり、その実現に向けた研究開発を長年にわたり牽引した。
  • 視覚、聴覚、触覚などの感覚を通して遠隔地の情報をリアルタイムに感じながら、ロボットを操作する[19]だけではなく、コンピュータの創成した世界にもテレイグジスタンスしたり[20]、その世界を実世界に重畳したりすることで、人間自身の能力を拡張することを目指した。
  • この概念を実現するために、長年にわたり人間が三次元空間を認識するメカニズムの解析や、アバターロボットシステム「TELESAR」などの開発に取り組み、テレイグジスタンスの工学的実現を推進した。
  • テレイグジスタンス技術は、ロボットの身体を自分の身体とすることで人間能力を拡張することにとどまらず、知能ロボットにテレイグジスタンスすることで、危険な場所での作業、災害救助、宇宙開発、医療、教育、エンターテイメントなど、多岐にわたる分野での応用が期待される。
  • 2017年には、この技術の社会実装を目指してテレイグジスタンス株式会社(Telexistence inc.)を共同で設立した[21]

2. バーチャルリアリティ (VR) 学への貢献[22]

  • 日本バーチャルリアリティ学会の創設に先導的な役割を果たし、初代会長を務めた[23][24]
  • VRを「コンピュータが作り出した世界へのテレイグジスタンス」と捉え、テレイグジスタンス技術と表裏一体のものとして研究開発を進めた。
  • VRの基礎理論、システムの構成要素、人間の認知や行動との関わりなどについて深く探求し術的体系化することでVR学の確立に貢献した。
  • 『バーチャルリアリティ学』や『バーチャルリアリティ入門』などの著書や、人工現実感とテレイグジスタンス研究委員会(1990-1997)、人工現実感とテレイグジスタンス国際会議:ICAT(1991年-現在)、産業用バーチャルリアリティ展:IVR(1993-2022)、国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト:IVRC(1993-現在)、バーチャルリアリティ産学研究開発推進委員会(1993-2004)、重点領域研究「人工現実感」(1995-1998)などを創設あるいは組織し、それらを通じて、VRの普及と教育・人材育成そして産業応用・社会実装に力を注いだ[25]

3. その他の独創的な研究開発

  • テレイグジスタンス以外にもVRや人間能力の補綴と拡張に関連して、以下のような独創的な研究テーマに取り組んだ。
  • 盲導犬ロボット: 盲導犬ロボットという概念を世界で初めて提唱するとともに、このアイディアの工学的な実現法を理論的に研究し[26]、この方法で実際に実現可能であることを、MELDOGと呼ぶ実験用ロボットを試作し具体的に示した[9]
  • 再帰性投影技術: 再帰性反射材を用いて物体と情報を一体化する技術であり、物体の表面に映像を投影することで、その物体が透明に見えたり、別の質感に見えたりする。光学迷彩[11]や透明コックピット[12]、相互テレイグジスタンス[27]などに応用される。
  • 触原色: 触覚情報を光の三原色のような基本要素に分解・合成することで、多様な触感を再現しようとするハプティクスの基本原理の提案[28]
  • 裸眼立体VR: 新しい原理を着想し、専用のゴーグルなしで立体映像を体験できるVR技術を研究開発。回転式バリア方式によるTWISTER[13]やバーチャルシャッター眼鏡方式によるHaptoMirage[14]、再帰性投影方式によるRepro3D[15]などが好例。

著書

  • 『メカトロニクスのはなし』日刊工業新聞社 1984 ISBN 4526017930
  • 『人工現実感』日刊工業新聞社 1992 ISBN 4-526-03189-5
  • 『ロボットから人間を読み解く』(NHK人間講座)日本放送出版協会 1999 ISBN 4141890243
  • 『バーチャルリアリティー入門』ちくま新書、2002 ISBN 4480059695
  • 『ロボット入門 つくる哲学・つかう知恵』ちくま新書 2002 ISBN 4-480-05938-5
  • 『Telexistence』World Scientific 2010 ISBN 981-283-633-0

共編著

翻訳

  • David E.Johnson, John L.Hilburn『図表によるアクティブフィルタの実用設計法』谷江和雄共訳 日刊工業新聞社 1978

脚注

  1. ^ メンバー - Tachi Lab”. tachilab.org. 2024年2月22日閲覧。
  2. ^ Tachi_Lab - 舘 暲 名誉教授”. tachilab.org. 2024年2月22日閲覧。
  3. ^ a b Adrian Scoica, ACM Crossroads vol.22 no.1, pp.61-62, 2015. Susumu Tachi: The Scientist who Invented Telexistence.
  4. ^ 究める ’84 人間・ロボット システム、毎日新聞11面1984年2月27日(月)
  5. ^ 有馬朗人監修『研究者』、pp.51-80、東京図書 (ISBN4-489-00601-2)
  6. ^ 五十嵐才晴『超・東大脳のつくりかた』、p.150、あさ出版(ISBN978-4-86667-357-8)
  7. ^ Tachi Lab - IVRC”. tachilab.org. 2025年5月8日閲覧。
  8. ^ Tachi Lab - サイバネティクス研究会”. tachilab.org. 2025年5月8日閲覧。
  9. ^ a b 盲導犬ロボット MELDOG”. youtube.com. 2025年5月13日閲覧。
  10. ^ テレイグジスタンス Telexistence”. youtube.com. 2025年5月13日閲覧。
  11. ^ a b 光学迷彩 Optical Camouflage”. youtube.com. 2025年5月13日閲覧。
  12. ^ a b 透明コックピット The Transparent Car”. youtube.com. 2025年5月13日閲覧。
  13. ^ a b 裸眼立体視コミュニケーションTwister”. youtube.com. 2025年5月13日閲覧。
  14. ^ a b 裸眼立体視と触覚の融合HaptoMirage”. youtube.com. 2025年5月13日閲覧。
  15. ^ a b フルパララック裸眼立体視 RePro3D”. youtube.com. 2025年5月16日閲覧。
  16. ^ 触原色 Haptic Primary Colors”. youtube.com. 2025年5月13日閲覧。
  17. ^ Tachilab YouTube”. youtube.com. 2025年5月13日閲覧。
  18. ^ Tachi_Lab - テレイグジスタンス”. tachilab.org. 2025年6月4日閲覧。
  19. ^ 舘 暲, 谷江和雄, 小森谷清、感覚情報呈示機能をもったマニピュレータの操縦方法、特願昭56-004135 (1981-01-14)、特許第1458263号 (1988-09-28)
  20. ^ 小森谷清, 谷江和雄, 舘 暲、遠隔操作における作業状況フィ−ドバック装置、特願昭58-186396 (1983-10-05)、特許第1525399号 (1989-10-30)
  21. ^ 会社情報 – TELEXISTENCE inc.”. tx-inc.com. 2025年6月4日閲覧。
  22. ^ Tachi_Lab - バーチャルリアリティ”. tachilab.org. 2025年6月4日閲覧。
  23. ^ Tachi_Lab - 日本バーチャルリアリティ学会”. tachilab.org. 2025年6月10日閲覧。
  24. ^ 「日本バーチャルリアリティ学会」発足、読売新聞7面、1996年5月29日(水)
  25. ^ Tachi_Lab - VR黎明期”. tachilab.org. 2025年6月4日閲覧。
  26. ^ Tachi_Lab - 盲導犬ロボット”. tachilab.org. 2025年6月4日閲覧。
  27. ^ Telesar2 – YouTube”. youtube.com. 2025年6月4日閲覧。
  28. ^ Tachi_Lab - 触原色”. tachilab.org. 2025年6月4日閲覧。

関連項目

外部リンク

先代
設立
日本バーチャルリアリティ学会会長
1996年 - 2001年
次代
原島博
先代
永島晃
計測自動制御学会会長
2007年 - 2008年
次代
久間和生




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