進化医学的アプローチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/26 03:49 UTC 版)
マラリア患者が疲労し、倒れて動けなくなるとカに刺されやすくなり、マラリア原虫はカを通じて新しい宿主に移動することが出来る。マラリアは一般に、重症化する方向に進化する(してきた)が、それは、患者がカに刺されやすいほどマラリア原虫の繁殖に役立つからである。そこで、蚊帳の使用によりマラリア原虫の移動ルートを閉ざすことは、マラリア原虫に対して重症化が繁殖に役立たない、軽症化が繁殖に役立つ新しい淘汰圧をかけることになる。 実際に、感染ルートと感染症の症状の程度には関連性があり、宿主自身が動き回ることが感染生物の繁殖に役立つ場合は軽症化する方向に、宿主以外の生物の行動が感染生物の繁殖の役立つ場合には重症化する方向に進化する。風邪(アデノウイルスなどのウイルス感染)では咳がおもな感染ルートであるため、宿主が動き回ることがウイルスの繁殖に役立つので軽症化する方向に、マラリアでは上記の通り重症化する方向に進化する。 細菌の感染症に対する従来の医学的対応はおもに抗生物質に依存している。抗生物質の使用は、細菌に対して抗生物質抵抗性を獲得するように淘汰圧をかけることと等しい。したがって、遅かれ早かれ、必ず抗生物質耐性菌が出現することになる。進化医学的アプローチでは、細菌の進化の方向を軽症化する方向に、つまり、人間と細菌が共存する方向に進化の淘汰圧をかけることを意図している。もちろん、これで全ての感染症が解決するわけではなく、TPOに応じて適切な治療方針を立てることが最も重要であり、進化医学的アプローチは新しい選択肢の一つであるといえる。
※この「進化医学的アプローチ」の解説は、「進化医学」の解説の一部です。
「進化医学的アプローチ」を含む「進化医学」の記事については、「進化医学」の概要を参照ください。
- 進化医学的アプローチのページへのリンク