軌間可変
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/20 08:59 UTC 版)
軌間可変(きかんかへん)は、鉄道車両が軌間の異なる鉄道線路へ直通運転するため、走行する軌間に合わせて車輪の左右間隔を変換する機構である。
背景
19世紀に鉄道が出来て以来、様々な軌間の線路が敷設されたが、鉄道車両は軌間の異なる線路には直通運転が出来なかった。対処法としては、乗客の乗換、貨物の積み換え、車輪と車軸の交換、台車ごとの交換等があった。
軌間可変は、線増して三線軌条にすることなしに、軌間の相違(break of gauge)の問題を解決するためのシステムとして開発された。
各地の事例
軌間可変可能な車軸と、車軸をスライドさせるための軌間変換装置からなるシステムであり、世界では複数開発されている。
スペイン
青:高速新線(1,435mm)
緑:在来線(1,668 mm)
黄:変換装置
- 在来線は1,668mm軌間を採用しており、フランスの1,435mm軌間との直通運転を行うタルゴの軌間可変列車が1969年より運行されている。フランスとの国境駅であるカタルーニャ州ジローナ県のポルトボウ駅やバスク州ギプスコア県のイルンに軌間変換設備が設置されている[2]。
- BRAVA
- CAFの「BRAVA」は、スペイン国鉄(レンフェ)の120形電車など、電車・気動車向けに開発された。車体の電動機からシャフトで動力を伝達する方式を採用している[1]。当初はスイス・ヴェヴェイ市のACMV社(後にボンバルディア・トランスポーテーション社に吸収)により1968年に設計され、 当時、"Vevey axle"(Vevey車軸)と呼ばれた[3]。設計はCAF社によって続けられ改良された。3秒で軌間変換できる。
1992年に開業したAVEの高速新線では1,435mm軌間を採用したため、高速新線と在来線が連絡する地点にも軌間変換設備が設置されている[4]。
中国
中華人民共和国では2017年5月に開催した「一帯一路」の会議で、モンゴルやロシアなど近隣諸国に直通できる最高時速400kmの軌間可変式高速車両を開発すると発表しており、2020年11月にはCRRC長春が完成したプロトタイプの車両を公開し[5][6]、世界の9割の鉄道網で走行が可能と発表した[7]。また、2022年までの営業運転開始を目指すともしている。
ロシア・北欧
ロシア・フィンランドの1520mm・1524mmとスウェーデンの1435mmとの間で軌間変換をするために、タルゴ方式でスウェーデンのハパランダに軌間変換装置を備えて試験を行ったことがある。また、モスクワのロシア連邦鉄道省(当時)の施設でも試験が行われた。
カザフスタン
カザフスタンの1520mmと中国の1435mmとの間で軌間変換をするために、カザフスタン鉄道Kazakhstan Temir Zholy (KTZ)はタルゴの軌間可変車両を導入した。しかしながら、カザフスタンでは2006年より標準軌への改軌や新線建設の計画が進み、4年ほどで建設が終わるとされている。
日本
- 軌間可変電車
- 動力を有しない貨客車での実用化は他の国で見られるが、日本では電車での軌間可変車両の開発を目指している。鉄道総合技術研究所による軌間可変電車(フリーゲージトレイン、FGT)は、新幹線の1,435mm(標準軌)と在来線の1,067mm(狭軌)の両方の軌間を走行可能な車両として開発された[8]。1998年の第一世代車両から数世代に渡って走行試験が行われているが、実用化の目処は立っていない。最高速度は新幹線区間で270km/h、在来線で130km/hを目標としている[8]。軌間変換には1分以上かかる。
2022年に開業を予定する九州新幹線の西九州ルートでフリーゲージトレインを採用する方針であったが、2018年7月に採用を正式に断念した[9]。
仕組みは軌間変換装置上を走行中、台車の軸箱が装置の軸箱支持レール上に乗ることで車輪のロックが外れ、車輪が案内レールに従って動き幅が変化。軸箱支持レール区間が終わると車輪がロックされることで変換する[10]。
日本において実用化が難しい理由は標準軌と狭軌との変換で台車内部の空間が狭い(スペインは広軌と標準軌との変換)からである。さらに電車用とのことで台車内部に主電動機など走行機器を設けなければならず難易度が上がった。さらに開発当初、新在直通運転(新幹線と在来線の直通)との走行環境が違う区間に対応するものとしていたためにさらにハードルがが上がった。よって、在来線同士の直通に目標を変え[11]、近畿日本鉄道(近鉄)京都線・橿原線と吉野線や蒲蒲線(東急多摩川線と京急空港線)の直通方法として導入が検討されている[12][13][14][15]。
ポーランド
- SUW 2000
- ポーランド国鉄(PKP)は2000年に客貨車用の軌間変換装置「SUW 2000」を開発[1]、実用化した。標準軌のポーランドと軌間1,520mmのウクライナ、リトアニアほか旧ソ連諸国への直通に使用される。軌間変換に30秒かかる。
ポーランド南部の大都市クラクフとウクライナの首都キエフの間を、ポーランド国鉄の子会社PKPインターシティーとウクライナ鉄道が、SUW 2000を使った軌間可変車両による夜行列車や貨物列車を直通運行している。ウクライナリヴィウ州の国境の駅であるMostiska II駅に軌間変換装置がある。
ポーランドの首都ワルシャワとリトアニアの首都ビリニュス間を、PKPインターシティーがSUW 2000を使った軌間可変車両により直通運転している。リトアニア西部の国境の駅であるMockava駅に軌間変換装置が設置されている。
スイス
- GoldenPass Express
1,435mmと1,000mm軌間の区間を有する観光路線のゴールデンパス・ラインへの導入が計画され[1]、モントルー・オーベルラン・ベルノワ鉄道(MOB1,000mm軌間)とBLS(1,435mm)の境界となるツヴァイジンメン駅で軌間を変更し、モントルーからインターラーケン・オストまで直通する「GoldenPass Express」が2022年12月11日より運行開始した[16]。
ドイツ・ロシア間
ドイツ
脚注
- ^ a b c d 日本と世界各国の「フリーゲージトレイン」その違いは? レスポンス、2014年4月24日
- ^ 鉄道ジャーナル編集部 (2017年4月24日). “フリーゲージトレイン「試乗」で見えた問題点”. 東洋経済オンライン. 東洋経済新報社. 2017年4月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年2月10日閲覧。
- ^ La Vie du Rail, No. 1415, 4 November 1973, ECARTEMENTS VARIABLES: L' "ESSIEU MIRACLE" EST-IL NE DANS LE CANTON DE VAUD? [1] in French or [2] in English)
- ^ さかい もとみ (2017年6月16日). “フリーゲージ列車がスペインで成功したワケ”. 東洋経済オンライン. 東洋経済新報社. 2017年6月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年2月10日閲覧。
- ^ “China develops high-speed train to run on different rail systems”. 新華網. 新華社 (2020年10月22日). 2020年12月6日閲覧。
- ^ 橋爪 智之 (2020年11月15日). “中国製「フリーゲージトレイン」は"本物"なのか”. 東洋経済オンライン. 東洋経済新報社. 2020年12月6日閲覧。
- ^ “New type of train adapts to different gauge tracks”. チャイナデイリー (2020年10月23日). 2020年12月6日閲覧。
- ^ a b 軌間可変電車 - 国土交通省
- ^ 長崎新幹線、フリーゲージを正式断念 フル規格かミニ新幹線で整備へ 与党検討委が表明 乗りものニュース、2018年7月19日
- ^ 図解鉄道と科学 p.195
- ^ 図解鉄道と科学 p.196
- ^ “平成26年活動状況『新空港線「蒲蒲線」整備案説明資料』” (PDF). 大田区新空港線「蒲蒲線」整備促進区民協議会. 大田区. p. 6 (2015年1月19日). 2018年5月15日閲覧。
- ^ “都予算案、鉄道新設へ基金 財政需要25年で15兆円増”. 日本経済新聞. 日本経済新聞社. 26 January 2018. 2018年1月26日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2019年2月10日閲覧.
{{cite news}}: CS1メンテナンス: 先頭の0を省略したymd形式の日付 (カテゴリ) - ^ 『フリーゲージトレイン開発推進に向けて』(PDF)(プレスリリース)近畿日本鉄道、2018年5月15日。2018年5月15日閲覧。
- ^ “フリーゲージトレインの開発継続判明、新技術が続々「鉄道技術展」”. 日経XTECH (2022年5月27日). 2022年6月7日閲覧。
- ^ 狭軌・標準軌直通、スイスフリーゲージ列車の実力 観光路線で実用化、日本と仕組みはどう違う?
- ^ Janes World Railways 2002-2003 p165.
- ^ International Railway Journal, July, 1999 Variable-Gauge Wagon Wheelsets - Brief Article
- ^ Gauge change technology hopes to overcome European differences
参考文献
- 川辺謙一 『最新図解 鉄道の科学 -車両・線路・運用のメカニズム-』 講談社 2024年 ISBN 978-4065363461
外部リンク
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