多元数とは? わかりやすく解説

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多元数

(超複素数 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/02 01:16 UTC 版)

数学における多元数(たげんすう、: hyper­complex number; 超複素数)は、実数上の単位的多元環の元を表す歴史的な用語である。多元数の研究は19世紀後半に現代的な群の表現論の基盤となった。

歴史

19世紀には、数学の文献において四元数 (quaternion), 双複素数 (tessarine), 余四元数英語版 (coquaternion), 双四元数英語版 (biquaternion) および八元数 (octonion) と呼ばれる体系が実数複素数に加えて確立された概念となっていた。多元数 (hypercomplex number) の概念はこれらすべてを包含するものであり、またこれらを説明し分類するための指針を示唆する呼称である。

カタログ化の試みは1872年にベンジャミン・パースが著書 Linear Associative Algebra(『結合線型環』)を初版した時に始まり、それは息子のチャールズ・サンダース・パースに引き継がれた[1]。最も著しい点は、かれらが分類に有効な多元数として冪零元および冪等元を同定したことである。ケーリー=ディクソン構成では、対合を用いて実数の体系から複素数、四元数、八元数が作り出される。フルヴィッツとフロベニウスはこのような超複素数性に限界があることを述べる定理を証明している(フルヴィッツの定理 (合成代数)英語版およびフロベニウスの定理 (代数学)の項を参照)。最終的に、1958年にJ・フランク・アダムズが位相的な方法を用いて有限次元実多元体が四種類(実数体 R, 複素数体 C, 四元数体 H, 八元数体 O)に限り存在することを証明した[2]

多元数の体系(超複素数系)の手綱をとったのは行列論であった。まず行列を用いて、実二次正方行列のような新たな多元数が供給される。すぐに、行列のパラダイムは、行列とその演算を用いて表現することでほかの多元数を説明するようになる。1907年にジョセフ・ウェダーバーン英語版は結合的な超複素数系は必ず行列環か行列環の直和として表現されなければならないことを示した(アルティン・ウェダーバーンの定理)。これ以降、ウェダーバーンのエディンバラ大学での修士論文タイトルにも見られるように、このような超複素数系を言い表す用語として結合多元環 (associative algebra) が用いられるようになっていった[3]。それでもなお、八元数や双曲四元数英語版のような非結合的な体系の表す別種の超複素数系があることに注意すべきである。

ホーキンスの説明によれば、超複素数系はリー群およびその表現論を学ぶための布石である[4]。例えば、1929年にエミー・ネーター„Hyperkomplexe Größen und Darstellungstheorie“(『超複素数量および表現論』)を書き下ろした[5]。1973年に書かれた多元数に関する教科書 Гиперкомплексные числа Кантор & Солодовников (1973) は各国語で翻訳が出ている[6]

カレン・パーシャル英語版[7]テオドール・モリーン英語版[8]エデュアルト・シュテューディ英語版[9]らの著名な役割を含む、多元数の黄金時代の詳細な説明を書いている。現代代数学への移り変わりについて、B・L・ファン・デル・ヴェルデンは自身の著書 History of Algebra(『代数学の歴史』)において多元数について30頁の紙幅を割いている[10]

定義

Кантор & Солодовников (1973)によれば、多元数あるいは超複素数は、実数R 上有限次元の単位的分配多元環結合的である必要はない)の元として定義されている。n-次元の各多元数(n-元数)x は、実数係数 a0, …, an−1 を用いて基底 {1, i1, …, in−1} の一次結合

  1. ^ Peirce, Benjamin (1881). Linear Associative Algebra. 4. 221–6. doi:10.2307/2369153. JSTOR 2369153. http://archive.org/details/linearassocalgeb00pierrich 
  2. ^ Adams, J. F. (1960-07). “On the Non-Existence of Elements of Hopf Invariant One”. Annals of Mathematics 72 (1): 20–104. doi:10.2307/1970147. JSTOR 1970147. http://www.math.rochester.edu/people/faculty/doug/otherpapers/Adams-HI1.pdf. 
  3. ^ Wedderburn (1908)
  4. ^ Hawkins, Thomas (1972). “Hypercomplex numbers, Lie groups, and the creation of group representation theory”. Archive for History of Exact Sciences 8 (4): 243–287. doi:10.1007/BF00328434. 
  5. ^ Noether, Emmy (1929). “Hyperkomplexe Größen und Darstellungstheorie” (ドイツ語). Mathematische Annalen 30: 641-692. doi:10.1007/BF01187794. オリジナルの2016-03-29時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160329230805/http://gdz.sub.uni-goettingen.de/index.php?id=11&PPN=GDZPPN002371448&L=1. 
  6. ^ 独訳: Hyperkomplexe Zahlen. Leipzig: BSB B.G. Teubner Verlagsgesellschaft. (1978) ;
    英訳: Hypercomplex numbers. Berlin, New York: Springer-Verlag. (1989). ISBN 978-0-387-96980-0. MR996029. https://archive.org/details/hypercomplexnumb0000kant ;
    日本語訳:浅野洋、笠原久弘 訳『超複素数入門: 多元環へのアプローチ』森北出版、1999年。 
  7. ^ Parshall, Karen (1985). “Joseph H. M. Wedderburn and the structure theory of algebras”. Archive for History of Exact Sciences 32 (3–4): 223–349. doi:10.1007/BF00348450. 
  8. ^ Molien, Theodor (1893). “Über Systeme höherer complexer Zahlen”. Mathematische Annalen 41 (1): 83–156. doi:10.1007/BF01443450. https://zenodo.org/record/2029540. 
  9. ^ Study, Eduard (1898). “Theorie der gemeinen und höhern komplexen Grössen”. Encyclopädie der mathematischen Wissenschaften. I A. pp. 147–183 
  10. ^ van der Waerden, B.L. (1985), “Chapter 10: The discovery of algebras, Chapter 11: Structure of algebras”, A History of Algebra, Springer, ISBN 3-540-13610X 
  11. ^ Yaglom, Isaak (1968), Complex Numbers in Geometry, pp. 10–14 
  12. ^ Ewing, John H., ed. (1991), Numbers, Springer, p. 237, ISBN 3-540-97497-0 
  13. ^ Кантор & Солодовников (1973), 14,15
  14. ^ Porteous, Ian R. (1995). Clifford Algebras and the Classical Groups. Cambridge University Press. pp. 88–89. ISBN 0-521-55177-3 

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