精神障害の発症と死
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/08 09:17 UTC 版)
「ドナルド・クローハースト」の記事における「精神障害の発症と死」の解説
航海日誌に記載されたクローハーストの行動は、多くの葛藤を抱えている複雑な精神状態を如実に示していた。捏造の仕方は真剣さを疑わせるもので、自滅的ですらあった。彼は確実に強い疑念を呼び起こすと考えられる非現実的な速さの航海記録をつけていたのである。それにもかかわらず、彼は多くの時間を虚偽の航海日誌の作成に費やしていた。たびたび指摘されることではあるが、天体を用いた航行法(天測航法)で辻褄を合わせる必要があるため、単純に事実を記録するよりも、偽造した航海記録を作成することの方が困難である。 最後の数週間分の航海日誌の記述からは、現実に賞金を手にする可能性が見えて以来、クローハーストがそれまで以上に精神状態を悪化させていったことが読み取れる。航海日誌の記述は、詩や引用文、虚実入り乱れた航海記録、その他の雑感といったものからなり、最終的に25,000ワードを超える量となった。航海日誌には、クローハーストが何の希望もない状況から抜け出すため、哲学的な再解釈を構築しようとした形跡もあった。しかし、テトリーの脱落により自身の勝利と航海日誌の精査が確定し、事態を切り抜けることが不可能になったという認識が、彼にとって決定打となったと考えられる。 クローハーストの日誌の最後の記述は1969年7月1日のものであった。そして、クローハーストが船外へと投身自殺にいたったことを示唆していた。発見された船には、荒波の中を航海したり、クローハーストが船外に投げ出されたりするようなアクシデントが発生したような形跡はなかった。クローハーストは、自身の捏造した航海日誌1冊と船の時計とともに大西洋へと身を投げたと考えられている。船には、3冊の記録簿(2冊の航海日誌と1冊の無線記録)と大量の紙片が残されていた。それらの内容は、クローハーストの哲学的な考えを記録していることに加えて、彼が実際にたどった航程記録を白日の下に曝したのである。伝記作家のトマリンとホールは、実際には考えづらいとしながらも、何らかの食中毒がクローハーストの精神障害の発症を助長した可能性を否定できないと述べている。またこれ以外にも仮説がいくつか存在する。
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