穴を掘って埋める公共事業
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/18 06:28 UTC 版)
「財政政策」の記事における「穴を掘って埋める公共事業」の解説
国民の経済的幸福度を測るには本源的には効用ベースによるものであるが、それを実際に計測すること及び国民全体の効用として統合することは非常に困難であり、代替変数として消費の大小でもって国民の幸福度を測ることが次善の策となる。そして、投資(公共事業の一部や民間投資)は生産力増大により将来の消費を増加させることにこそ意味があり、現在の消費と、将来の消費に関わる投資を足し合わせたものであるという点において、GDP統計を国民の幸福度を表すものとして見る意味がある。 以上のことを前提とすると、本当に穴を掘って埋めるだけで生産性ゼロの公共事業は、確かにGDPを増加させるものの、現在の消費も将来の消費も直接には増やさないという点で、望ましいとも望ましくないとも言えない。GDPと公共事業はパラレルに変化し、消費+民間投資は一定なので、現在および将来分を考えた消費は増えない。ただし、所得再分配が起きることから低所得者層の消費が増えるという点で意味はある。 さらに、穴掘って埋めもしないような公共事業の場合、生産性を低下させてしまうことも考えられる(現実的には、生産性がほぼゼロの道路や箱物なのに、その維持に労力が必要となり、機会費用が発生してしまう場合や、単純に生産活動を妨げるような設備への投資など)。このような時には、現在の消費は変わらず、将来の消費は生産性の低下から減少してしまうので望ましい状態とは言えない。 非自発的失業という社会的な無駄が発生している場合に公共事業でもってその無駄を無くすということは一般的には望ましいが、それでもその労働力をどのようなものに向けるかによって望ましさは大きく異なることとなる。このことは、どのような事業が好ましいかが昔ほど明確ではない2013年現在において、その事業の内容を問わず公共事業でもって有効需要を増やせば良いとする考え方の問題点が大きくなってきていることを意味する。 結局、有効需要の理論は、投資先によってその優劣があるという当然のことが「穴掘って埋めてもいい」の言葉でうやむやにされたこと、本来は現在および将来に渡る消費こそが問題であるのに、そことは関係なくGDPを増やせば良いという見方をされるようになったこと、などの問題点を持つ。
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