破壊包絡線
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/19 01:18 UTC 版)
ポリマーの一軸引張破壊において、破壊時応力 σB と破壊時伸長比 λB の関係曲線は反時計回りの包絡線(破壊包絡線、failure envelope)となる。ここで破壊とは、ゴムなど架橋ポリマーでは破断や切断である。非架橋ポリマーでは、応力印加を止めても復元しないひずみ量が急激に増大したときの状態(破損)である。ただし、非架橋ポリマーにおいて破壊包絡線が観測される条件はひずみ速度が低・中程度のとき、および結晶状態で高速であるときである。 破壊包絡線は温度とひずみ速度によって変化し、かつ時間-温度換算則は成り立つ。温度を低下させたとき、またはひずみ速度を増加させたとき、破壊包絡線は反時計回りに移動する。すなわち、σB に対して λB が大きくなる。σB - λB 曲線が包絡線となるには、破断までの変位が平衡状態に近いときに限られる。高温、または平衡状態に近いような遅い伸長速度では σB - λB 曲線は包絡線と一致する。一方、低温または高速では曲線は包絡線とならなくなる。これは、低温または高速ではネッキングが発生したり伸長が不均一となったりして破壊時応力の測定値のばらつきが大きくなるためである。 ポリマーの破壊包絡線の概形は分子モデルまたは力学モデルである程度予測できる。例えば、分子モデルにはBuecheとHalpinの分子論や古川の擬網目理論があり、力学モデルには畑の並列マックスウェル要素を用いたモデル理論がある。破壊包絡線は、σB を破壊時応力、εB を破壊時ひずみ、G を弾性率、εC を臨界ひずみ、 α を臨界ひずみでのポリマーの分子量ないし架橋密度依存性のパラメータとして、次式で表される。ただし、α ≠ 1 である。この式ではひずみが αεC になったときに材料は全面的に粘性破壊されるものとする。 低ひずみ速度域での粘性破壊様式 σ B ≈ G ( ε B − α ε C ) {\displaystyle \sigma _{\mathrm {B} }\approx G(\varepsilon _{\mathrm {B} }-\alpha \varepsilon _{\mathrm {C} })} 中ひずみ速度域での粘性破壊様式 σ B ≈ 4 G ( ε B − 3 2 α ε C ) {\displaystyle \sigma _{\mathrm {B} }\approx 4G\left(\varepsilon _{\mathrm {B} }-{\frac {3}{2}}\alpha \varepsilon _{\mathrm {C} }\right)} 高ひずみ速度域での粘性破壊様式 σ B ≈ G ε B {\displaystyle \sigma _{\mathrm {B} }\approx G\varepsilon _{\mathrm {B} }} 高ひずみ速度域での弾性破壊様式 σ B ≈ G a { a 2 β ( ε B − a ) + 1 } {\displaystyle \sigma _{\mathrm {B} }\approx Ga\left\{{\frac {a}{2\beta (\varepsilon _{B}-a)}}+1\right\}} ここで、a は界面の切り離れが生じて材料が弾性破壊されたときのひずみ、β は粘度の係数である。ポリマー中の非架橋の低分子量体の粘度を η とすると、高分子量の粘度を βη と表す。
※この「破壊包絡線」の解説は、「重合体」の解説の一部です。
「破壊包絡線」を含む「重合体」の記事については、「重合体」の概要を参照ください。
- 破壊包絡線のページへのリンク