登場人物それぞれのもつ意義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/20 06:52 UTC 版)
「深い河」の記事における「登場人物それぞれのもつ意義」の解説
登場するメインの5人の人間のうち、大津と沼田は、遠藤の人生の一部をそれぞれ切り取って作られた存在である。遠藤自身がカトリックの家に生まれ(大津)、満州で少年期を過ごし(沼田)、両親が離婚し(沼田)、青年期にフランスに留学し(大津)、結核を患う(沼田)などした経験を持つ。また、妻への「愛」に妻を失うまで鈍感だった磯辺は「愛」を意識するのが苦手な一般的な日本人としての性格も持ち合わせる。大津、沼田、磯辺の3人は「母」と「恋愛」(大津)、「妻」(磯辺)、「友」(沼田)を喪失する。 また一方、美津子はやはり「愛」を知らない人間として登場する。若い頃の美津子は思慮も浅くそれが平気だったが、離婚を経て自分に愛が欠けていることを意識し、それを偽りに求めることもある。大津は美津子が本当は何が欠けているのか映し出す鏡として登場する。 そして木口は遠藤の世代のたくさんの人間が実際に体験した、人間の起きうる中でも究極と思われる死と絶望の世界を経験した人間である。ひとりの友人、塚田がその中でやむを得ないとはいえ人間の肉を食い、後の人生をその業苦に苛まれ潰してしまったことに深い衝撃を受ける。木口と塚田はゴルゴダの丘を登るキリスト(ナザレのイエス)にも匹敵するほどの苦しみを受けた人間として描かれている。木口と塚田は遠藤の同世代にいた多くのゴルゴダを知った日本人の代表として登場する。 このメインの人間たちは全て、ほとんどの日本人同様、「ヨーロッパ人の持つキリスト教を理解できない日本人」だが「キリスト教にでてくるテーマを人生に抱える日本人」として登場している。
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