燕の童女
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/04 07:59 UTC 版)
新婚旅行の帰りの展望車「燕」の中、牧田は日光にさらされている妻・章子の首の産毛を見た。その産毛は、牧田のするがままにおとなしく従っていた章子の体に、かくれているものを感じさせた。章子の髪の毛もまた、少し赤茶けて見えた。牧田は目を閉じると、しびれるような甘い疲れが体の芯にあって、行きの船旅で見た無数の海月が頭に浮かんだ。その時の章子は両親との別れに涙ぐんでハンカチを振っていた。 東京へ戻る帰りの汽車の前の席には、赤茶けた髪の毛のあいの子らしい7歳くらいの幼い女の子が座っていた。女の子は一人で絵本も見たり、紙風船を膨らませたり、折り紙を折ったりして遊んでいた。少し離れたところにいる母親は本を読んでいたが、女の子は一人でも平気そうだった。牧田夫婦はその可愛らしい女の子を観察していた。章子はふと夫に、「私達、一生この子のことを思い出すでしょうね。もう二度と会うことはないでしょうけれど」と言った。牧田は、世界中の人種が雑婚の平和な時代は、遠い未来に来るであろうかと、ぼんやり考えた。
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