枚挙的帰納法の欠点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/12/03 01:24 UTC 版)
確証性の原理をとるにせよ、斉一性の原理をとるにせよ、枚挙的帰納法で仮説を正当化する企ては、なんらかの壁にぶつかるのである。 特によくあるのは、早すぎる一般化である。枚挙的帰納法が間違う有名な例として、"「ビールには水が入っている」、「ウィスキーにも水が入っている」、「ブランデーにも水が入っている」、よって「水を飲むと酔っ払う」" というものがある。また、枚挙的帰納法の危険性を表現した次のような寓話も知られている。(この帰納主義の七面鳥の寓話はバートランド・ラッセルの作とも言われている。) ある七面鳥が毎日9時に餌を与えられていた。それは、あたたかな日にも寒い日にも雨の日にも晴れの日にも9時であることが観察された。そこでこの七面鳥はついにそれを一般化し、餌は9時になると出てくるという法則を確立した。そして、クリスマスの前日、9時が近くなった時、七面鳥は餌が出てくると思い喜んだが、餌を与えられることはなく、かわりに首を切られてしまった。 帰納の欠点は、下記の3つである。 事実の理論負荷性。ノーウッド・ラッセル・ハンソンによって提示された。その事実の成立を可能とする理論的文脈や社会的背景なしに、事実は存在し得ない。「思い込みや先入観のない事実」は存在しない、絶対的客観性はあり得ない、ということである。帰納の前提となる事実は、完全には信頼できないものである。 帰納の飛躍。ジョン・スチュワート・ミルによって提示された。どれだけデータ(事実)を集めてもその数は有限であり、無限の事柄を言い当てる全称命題は導出できない。帰納には、有限から無限への無理な飛躍がある。 簡潔性原理の前提。「自然法則は簡潔な構造を持つ」ということを前提にしなければ、帰納は集められたデータから一意的な決定ができない。複数の法則に帰結するようであれば帰納は意味をなさないが、実際は多様性につきまとわれる。そのために、簡潔な法則を選択するという前提があるのだが、その原理自体を帰納では証明できない。
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