日本国憲法第28条
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/12 05:12 UTC 版)
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(にほんこく(にっぽんこく)けんぽう だい28じょう)は、日本国憲法の第3章にある条文で、勤労者の団結権について規定している。
条文
- 第二十八条
- 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
解説
日本国憲法第28条は、勤労者の「団結する権利」及び「団体交渉その他の団体行動をする権利」を保障するものであり、一般に「労働三権」(団結権・団体交渉権・争議権)として理解される。第28条は大日本帝国憲法には存在しなかった規定であり、戦後の占領期における経済民主化の方針と、GHQ案・政府案を経て現行条文が成立した歴史的経緯がある(制定過程の詳細は「沿革」節参照)。憲法一般の原則として、基本的人権規定は国家作用に対する拘束力を有するが(憲法は公法上の拘束を主要対象とする)、第28条の保障は労働関係における実効性確保の必要性から、労働法制や民事法理、判例を通じて私人間関係にも一定の具体的効果を及ぼしていると解される(私人間効力に関する学説・判例の整理は後掲)。
団結権
団結権とは、勤労者が労働組合その他の団体を一時的、継続的に結成・結集する権利をいう。団結権は、労働者が個々の労働条件に関して劣位に立たされることを是正し、交渉力を確保するための制度的基盤と解される。団結権は、生存権的基本権として保障されているため、自由権的基本権である『結社の自由』(憲法21条)とは本質的に異なっている。
団体交渉権
団体交渉権とは、労働者が組織として使用者と労働条件について交渉し、労働協約を締結することを含む権利をいう。文理解釈上は「団体交渉その他の団体行動をする権利」とあるが、憲法学において団体交渉権は争議行為(ストライキ等)とは区別して論じられることが通説である。団体交渉の法的効果(たとえば協約の拘束力)については労働法制と民事法上の解釈が重要である。
団体行動権〔争議権、組合活動権〕
団体行動権(一般には争議権を含む)とは、従来は争議権と同一視されていたが、組合活動権という権利の内容も包括していると考える。争議権は団体交渉権を実効化する手段として位置づけられるが、公共的性格の強い職務(例:警察・自衛隊・一部の公務)については、その行使が公共の秩序や一般国民の利益に重大な影響を及ぼすことを理由として、法律による制限が認められてきた(最高裁の判例により、公共的職務に対する争議禁止等の規制が合憲と認められた例がある)。組合活動権は争議行為や団体交渉で行われる行動(ビラ配り、集会、演説など)とは別の団結隊の行動を一定範囲保障する権利である。
私人間効力・適用範囲の論点
第28条は、労働関係の特性上、国家と私人の関係だけでなく私人間関係にも実質的な影響を与えると学説上しばしば位置づけられている。ただし、「私人間効力」の解釈には学説の違いがあり、憲法の規定が直接に私人間の法律関係を変えるのか、あるいは民事・労働法の解釈や公法規制を通じて実効が確保されるのかについては、個別の法制度・判例によって定着している。近年、非典型的な労働(委託・請負・プラットフォーム労働等)に関する権利帰属の問題が学界で議論されており、これらへの第28条適用の可否は、個別事案の実質的評価と法解釈に依存する(結論には学説の分かれる点がある)。
沿革
大日本帝国憲法
なし
GHQ草案
「GHQ草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
日本語
- 第二十六条
- 労働者カ団結、商議及集団行為ヲ為ス権利ハ之ヲ保障ス
英語
-
Article XXVI.
-
The right of workers to organize and to bargain and act collectively is guaranteed.(訳:労働者の、団結し、並びに集団により交渉し及び行為する権利は、これを保障する。)
憲法改正草案要綱
「憲法改正草案要綱」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
- 第二十六
- 勤労者ノ団結及団体交渉其ノ他ノ集団行為ヲ為スノ権利ハ之ヲ保障スベキコト
憲法改正草案
「憲法改正草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
- 第二十六条
- 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
この法文に定める権利が制限される職
- 警察官・自衛官・消防官(労働三権の否定)
- 一般国家公務員・地方公務員(団体交渉権・団体行動権の否定)
- 現業公務員(労働協約締結権の制限・団体行動権の否定)
関連訴訟・判例
憲法28条は「法律の留保」を付することなく労働三権を労働者に保障している。そのため労働三権を制限する法令は常に違憲の疑いにさらされる。特に公務員の労働基本権をめぐる訴訟が多く、1960年代には、いわゆる「二重の基準」論が最高裁でとられた(都教組事件等)が、その後この基準が否定され、現在に至っている。
関連条文
脚注
出典
関連項目
固有名詞の分類
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