擬態環の形成過程
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/17 07:19 UTC 版)
「ミューラー型擬態」の記事における「擬態環の形成過程」の解説
ヤドクガエルの一種Ranitomeya imitator は斑紋多型を示し、それぞれの斑紋型が別の種に擬態していると考えられている。すなわち、縦縞を持つものは同属のR. variabilis の黄色の縞を持つ個体に、水玉状の模様を持つものは同じR. variabilis の青緑色の水玉模様を示す高地型個体に、そして横縞を持つ個体はやはり同属のR. summersi に擬態している。 したがってR. imitator はそれぞれの個体群で別々の対象に似せるように進化したことになる。つまり、この種が地域によって擬態の対象を一方的に変えたことになるが、この過程はミューラーが熱帯のチョウについて提唱していたような、お互いがお互いの姿に似せ合うという擬態の進化の過程とは異なるものである。 実際にはそのような一方的な擬態の進化過程も頻繁に起こっている可能性がある。これは昆虫学者F. A. Dixeyによって1909年に提唱された理論であるが、いまだに結論が出ていない。Malletは2001年に、ミューラー型擬態環の進化過程においては双方向的な進化よりも、一方的な進化の方が一般的であるという見解を示した。一方的な進化においては、擬態者がある擬態の対象(モデル)に自らの姿を似せていくことによって、捕食のリスクを下げていく。従って、初期の段階では、擬態者のみが得をすると考えられ、これはミューラーが当初想定していた擬態の互恵的性質とは乖離している。しかしながら、ひとたび擬態者とモデルが非常に似通った姿になれば、上述の数理モデルでも記述されたような互恵的な作用が生じる可能性が高い。この理論に基づけば、擬態関係にある全ての種が最終的にはひとつの擬態環を形成することが予想される。しかし、自然界では必ずしもそれが当てはまるわけではなく、例えばドクチョウ属では単一の地理的範囲で複数のミューラー型擬態環がみられる。このことは、擬態環の形成を左右する他の進化的要因が存在することを示唆している。
※この「擬態環の形成過程」の解説は、「ミューラー型擬態」の解説の一部です。
「擬態環の形成過程」を含む「ミューラー型擬態」の記事については、「ミューラー型擬態」の概要を参照ください。
- 擬態環の形成過程のページへのリンク