恐慌と過剰資本の価値破壊
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/10/26 15:14 UTC 版)
恐慌局面では、企業倒産、株価下落、信用制度崩壊、デフレーション等を通じて、多すぎる資本(過剰資本)の価値が破壊され、社会的総資本の量が縮小する。この結果、消費制限に対して過剰となっている生産力が破壊され、消費と生産の均衡が取り戻される。過剰資本とは、利潤率が低いために資本として運動できない資本のことである。生産力の上昇は資本の有機的構成の高度化をもたらし、利潤率の傾向的低下をもたらして(利潤率の傾向的低下の法則)、過剰資本を生み出す。恐慌は過剰な資本と生産力を破壊して、資本による生産の再活性化を準備する。すなわち景気回復するためには、恐慌による過剰資本の価値破壊が必要条件となる。この意味では、恐慌は資本主義的生産の総過程を更新するプロセスであり、資本の生命力の発露である。 旧ソ連の教科書的なマルクス主義経済学では、恐慌を資本主義の全般的危機の現われであるとしていたが、これはマルクスの理解とは異なる。恐慌そのものは資本主義の諸矛盾の爆発であるが、恐慌がそのまま資本主義体制の危機につながらないことは、これまでの資本主義経済の歴史を見ても明らかである。マルクスによれば恐慌は資本主義が理想的な経済体制ではないこと、資本主義的生産関係が生産力の発展にとって桎梏となっていること、資本主義は永遠ではなく歴史的に一時的に成立する経済関係にすぎないこと、を示す現象にすぎない。
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