彼の世は親し風鈴がひとつ鳴り
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夏 |
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評 言 |
「彼の世」は知るすべもないが、夏・秋の彼岸そしてお盆と「彼の世」との交信が密になる時期のほかは、日々の生活の中では仏壇に朝晩手を合わす時でさえも忙しさにかまけ、なおざりに鉦を打つことで済ませてしまう事が多いのではないだろうか。 鉦は「彼の世」との交信手段であり、亡き人と自分の心が一つになれる手段と思える。 今は少なくなったが迎え盆の頃、ご近所の軒先から聞える風鈴の音は一時忙しさを忘れさせる。 昔は沢山のガラス風鈴を手押し車に下げた風鈴売りが路地まで入り、売り声に合わせゆっくりと歩を進めたものだ。手押し車にあちこちから子供が群がり風鈴は一斉に鳴り始める。 今の風鈴は現代人の好みを映し個性的なデザインと柄で目を楽しませてくれる。しかし音色は昔のままに夏の風を受け取り心地よい響きを送り返してくる。 この句にはすんなりと信仰につながる景が見えてくる。親しい人、大切な人が亡くなり日々の中に埋もれても毎日の鉦は彼岸と此岸を繋いで心を送り出す確かさになり伝わってくる。 「親し風鈴」は故人が親しんだ風鈴だろうか、南部風鈴などの鉄器と江戸風鈴のガラスをこする音の違いはあるが、この句では江戸風鈴の軽やかな懐かしい響きが読み手に音と奥行きを感じさせる。「ひとつ鳴り」が効いている一句。 |
評 者 |
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備 考 |
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