引力的および斥力的な曲面
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/17 21:34 UTC 版)
「ポテンシャルエネルギー曲面」の記事における「引力的および斥力的な曲面」の解説
化学反応のポテンシャルエネルギー曲面には「引力的」と「斥力的」の区別がある。反応物の結合長が活性錯体になるとき伸びる量と、生成物の結合長が活性錯体のときから見て短くなった量を比べてどちらが大きいかによる分類である。A + B-C → A-B + C の型の反応では、新しく形成されたA-B結合の結合長変化が R*AB = R0AB − RAB と定義される。ここで RAB は遷移状態の、R0AB は生成分子のA-B結合長を表す。同様に切断される結合の結合長変化が R*BC = RBC − R0BC と定義される。R0BC は反応物分子のB-C結合長である。 発熱反応においては、R*AB > R*BC ならば反応物どうしが互いに近づくと遷移状態に達する。よってこのPESは「引力的」である。遷移状態を超えたのちもA-B結合長は減少し続けるので、解放された反応エネルギーの多くはA-B結合の振動エネルギーに変換される。例としては銛打ち反応(英語版)K + Br2 → K-Br + Br がある。この反応では反応物どうしの長距離引力が原因となってK+ ••• Br− ••• Br と近似できるような活性錯体が生まれる。振動的に励起された生成分子は赤外線化学発光によって検出できる。 逆に R*AB < R*BC ならば、生成物が遠ざかることで遷移状態に達するため、斥力的なPESである。反応 H + Cl2 → HCl + Cl は斥力的PESの例である。原子A(Hにあたる)がBやC(Clにあたる)より軽いこの反応では、反応エネルギーは主に生成物の並進運動のエネルギーとして放出される。F + H2 → HF + H のように原子AがBやCより重い反応になると、PESが斥力的であっても、放出されるエネルギーは振動と並進が混在している。 吸熱反応の場合、反応を引き起こすのに適したエネルギーの種類がPESの型によって決まる。引力的な曲面で反応を誘起するには反応物が持つ並進エネルギーが効果的であり、斥力的な曲面では反応物が振動的に励起されている方が効果的である。後者の例として、HCl の全エネルギーが同じならば、F + HCl(v=1) → Cl + HF の反応は F + HCl(v=0) → Cl + HFよりも約5倍速い。
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