山姥の姿の描写
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/23 15:25 UTC 版)
百ま山姥(ツレ)と山姥(後シテ)との掛け合いの中で、山姥の姿が、髪は乱れて白髪で、眼光鋭く、顔は朱の鬼瓦のように醜いと描写される。山姥は、自らを『伊勢物語』で女を一口に喰った鬼になぞらえ、同じように物語されるのではないかと恥じる。 ツレ「恐ろしや月も木深(こぶか)き山陰(やまかげ)より。其さまけしたる顔ばせは。其山姥にてましますか。シテ「とてもはや穂(ほ)に出でそめし言の葉の。気色にも知ろしめさるべし。我にな恐れ給ひそとよ。ツレ〽此上は恐ろしながらうば玉の。闇(くら)まぎれよりあらはれ出づる。姿詞(すがたことば)は人なれども。シテ〽髪にはおどろの雪を戴き。ツレ〽眼(まなこ)の光は星の如し。シテ〽扨(さて)面(おもて)の色は。ツレ〽さにぬりの。シテ〽軒の瓦の鬼の形を。ツレ〽今宵始めて見る事を。シテ〽何にたとへん。ツレ〽古への。地謡〽鬼一口(ひとくち)の雨の夜(よ)に。雷(かみ)なりさわぎ恐ろしき。其夜を思ひ白玉か。何ぞと問ひし人までも。我身の上に為(な)りぬべき。浮世がたりも恥づかしや。 [百ま山姥]恐ろしいことだ、月の光も差さない深い山の陰から、様変わりした様子の顔つきで現れたのは、山姥でいらっしゃいますか。[山姥]既にあなたが言葉にされたとおりの有様からもお分かりでしょう。しかし私のことを恐れなさいますな。[百ま山姥]こうなった以上は、恐ろしいけれども仕方がない。暗闇から現れ出た、その姿や言葉は人であるが――。[山姥]髪は茨のように乱れ、雪のように白く、[百ま山姥]目の光は星のようで、[山姥]そして顔の表情は、[百ま山姥]朱に塗った[山姥]軒の鬼瓦のような形なのを[百ま山姥]今宵初めて見ることを[山姥]何に例えよう。[百ま山姥]昔、――(『伊勢物語』に)鬼が女を一口に喰った話がある。その雨の夜に、雷の大きな音が恐ろしかった(ので、男は襲われる女の叫び声が聞こえなかった)。夜が明けると、男は女が露を見て「白玉か何かですか」と尋ねたのを思い出して後悔したという。その話が私の身の上のこととなってしまった。世の中に同じように物語されるのも恥ずかしい。
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