山姥の登場
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/23 15:25 UTC 版)
そこに山姥(後シテ)が現れる。山姥は、前世の悪業により鬼となった者は自らの死屍を鞭打ち、前世の善行により天人となった者は自らの死屍に散花するという説話を引くが、「いや善悪不二」と、禅的な思想を説く。 山姥(後シテ)は、山姥の面、山姥鬘を着け、装束は無紅唐織、半切、扇の鬼女出立である。鹿背杖を突いている。 シテ〽あら物すごの深谷(しんこく)やな。寒林(かんりん)に骨をうつ霊鬼。泣く泣く前生(ぜんじょう)の業(ごう)を恨む。深野(しんや)に花を供(くう)ずる天人。かへすがへすも幾生(きしょう)の善をよろこぶ。いや善悪不二(ふに)。何をか恨み何をか喜ばんや。「萬箇目前(ばんこもくぜん)の境界(きょうがい)。懸河(けんか)渺々として。〽巌(いわお)峨々たり。山又山。いづれの工(たくみ)か青巌(せいがん)の形を削りなせる。水また水。誰(たれ)が家にか碧潭(へきたん)の色を染め出(い)だせる。 [山姥]ああ、物寂しい深い谷であるよ。寒林(天竺の墓所)で自らの骨を打つ霊鬼は、泣きながら前世の業を恨む。野に花を供える天人は、返す返す前世の善行を喜ぶ。いや、善も悪も悟れば同じこと。何を恨み何を喜ぶというのか。万物はあるがままで真理を示している。急流の河は果てしなく流れ、岩壁は険しくそびえ立っている。山また山、どんな名工が青苔の岩壁の形を削り出したというのか。水また水、どんな染色家が緑の淵の色を染め出したというのか。
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