加群の分解における役割
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/11 04:09 UTC 版)
R の冪等元は R 加群の分解と重要なつながりがある。M を右 R 加群とし、E := EndR (M) をその自己準同型環とすると、A ⊕ B = M であることと、A = eM かつ B = (1 − e)M となるような冪等元 e ∈ E が唯一つ存在することは同値である。すると明らかに、M が直既約であることと、E の冪等元が 0 と 1 のみであることが同値である。 M = R のとき、自己準同型環は EndR (R) = R であり、各自己準同型はある 1 つの固定された環の元の左からの積として生じる。上で述べたことをこの場合に言い換えると、右加群として A ⊕ B = R であることと、eR = A かつ (1 − e)R = B となるような冪等元 e が唯一つ存在することは同値である。したがって加群としての R のすべての直和成分はひとつの冪等元によって生成される。 e が中心的冪等元であれば、corner ring eRe = Re は e を乗法単位元にもつ環である。冪等元が R の加群としての直和分解を決定するのとちょうど同じように、R の中心的冪等元は R の環の直和としての分解を決定する。R が環 R1, ..., Rn の直和であれば、環 Ri たちの単位元は、R の中心的冪等元であり、どの 2 つも直交していて、それらすべての和は 1 である。逆に、和が 1 でどの 2 つも直交しているような R の中心的冪等元 e1, ..., en が与えられると、R は環 Re1, ..., Ren の直和である。なので、とくに、すべての中心的冪等元 e ∈ R は R の corner ring eRe と (1 − e)R(1 − e) の直和としての分解を与える。したがって、環 R が環として直既約であることと、単位元 1 が中心的原始冪等元であることは同値である。 単位元の直交する中心的原始冪等元の和への分解を帰納的に試みることができる。もし単位元が中心的原始冪等元であればすでに分解できている;そうでなければ、 0 でない直交する中心的冪等元の和であり、以下、各因子に対してこの手順を繰り返す。ここで起こりうる問題は、この手順が際限なく続き、直交する中心的冪等元の無限族が得られることである。「直交する中心的冪等元の無限集合を含まない」という条件は、環に対する有限性条件の一種である。たとえば環が右ネーターであることを仮定するなど、その条件が満たされるようにする方法はいくつもある。各 ei が中心原始冪等元であるような分解 R = e1R ⊕ e2R ⊕ ... ⊕ enR が存在すれば、R はどれも既約であるような corner ring eiRei の直和である。 体上の結合多元環やジョルダン多元環(英語版)に対して、パース分解(英語版)は多元環の可換冪等元の固有空間の和としての分解である。
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