並びと異名
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/09/08 07:36 UTC 版)
『源氏物語』の巻名には、いくつかの特定の巻についてのみ通常の巻名とは別の「異名」とされるものが存在する。寺本直彦は、『源氏物語』の巻名や巻序を記した文献において、ある文献ではある巻の異名とされる巻名が別の文献ではその巻の並びの巻とされていることがあるなど、並びと異名しばしば「接触」している状況が存在することを明らかにし、そこから現存する文献の範囲内ではそのような現象が認められない異名や並びの巻についても同じような可能性があるとして、「源氏物語の巻には、54帖からなる現在の巻序が確定する前には1巻にまとめて扱われたり、数巻に分けて扱われたりする、巻数として流動的な存在である巻がいくつかあった。源氏物語における巻名の異名とは、元々は別々の巻であったものが一つの巻になったときの統合された方の巻の名前が残った痕跡であり、並びの巻とはかつて一つの巻であったものが分割されたことの痕跡である。」とした。 「若菜」巻について、かつては白造紙のように全体を1巻と数える数え方が主流であったが、その後この巻を2巻に分割して若菜上・若菜下とした上で、若菜下を若菜上の並びの巻とするという数え方が主流となっており、また上巻が「箱鳥」の異名で、下巻が「諸鬘」の異名で呼ばれる(『河海抄』)のに対し、上下巻を合わせたときも「箱鳥」の異名で呼ばれること(異本紫明抄)がある。また『源氏秘義抄』や『源氏抄』(明応二年奥書本)では巻名目録において「わかな 上下もろかずら二巻」としている一方で、その後の各巻の巻名歌を挙げる部分では「わかな」の巻名歌を挙げたあとで「ならひもろかずら」の巻名歌を挙げている。 「貌鳥」巻について、「宿木」巻の異名とする文献(『紫明抄』・『河海抄』・『源氏大鏡』・『源氏小鏡』)が主流と言えるものの、「宿木」巻の並びの巻であるとする文献(『源氏秘義抄』(宮内庁書陵部蔵)、『源氏抄』(桃園文庫旧蔵東海大学現蔵・明応二年(1493年)奥書本)、『光源氏抜書』(桃園文庫旧蔵))もいくつか存在する。
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