ルビーロウカイガラムシとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 固有名詞の種類 > 自然 > 生物 > 昆虫類 > カメムシ目 > ルビーロウカイガラムシの意味・解説 

ルビーロウカイガラムシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/24 02:26 UTC 版)

ルビーロウカイガラムシ
ルビーロウカイガラムシ Ceroplastes rubens
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
亜綱 : 有翅昆虫亜綱 Pterygota
: カメムシ目(半翅目) Hemiptera
亜目 : ヨコバイ亜目(同翅亜目) Homoptera
上科 : カイガラムシ上科 Coccoidea
: カタカイガラムシ科 Coccidae
: ロウムシ属 Ceroplastes
: ルビーロウカイガラムシ C. rubens
学名
Ceroplastes rubens , 1892
和名
ルビーロウカイガラムシ、ルビーロウムシ
英名
red wax scale

ルビーロウカイガラムシ学名Ceroplastes rubens 、別名:ルビーロウムシ)は、カメムシ目ヨコバイ亜目カタカイガラムシ科に属するカイガラムシの1種。和名は成虫の背面を包むロウ状物質が赤いことから、宝石ルビーにたとえたものである。

特徴

形態

成虫もほとんど退化し、一つの塊になって、宿主植物に密着している。背中は厚くロウ物質に覆われており、その外見からは昆虫としての特徴は一切見られない。ロウ物質を含めた雌成虫の大きさは4〜5mm。しかし、ロウ物質の中から虫体を取り出して顕微鏡で観察すると、しっかりした形の小さな脚が腹面にへばりついた状態で存在することがわかる。

その名の由来であるロウ物質は赤紫色で、半球形に盛り上がり、周辺が少し帽子の庇状にまくれ上がって広がる。ルビーロウカイガラムシやこれに近縁なツノロウカイガラムシ、カメノコロウカイガラムシのロウ物質は、水分などが含まれた一種のエマルジョン質の複雑な構成で、圧力を加えると可塑性のある粘土状になる物質である。虫体の気門の部分に対応して、この赤紫色粘土状のロウ物質は植物体との接触面で溝状に欠損し、そこには白色粉状のロウ物質が充填される。そのためこの溝は背面からでもロウ物質の縁の帽子の庇状の部分にくっきりと白く浮かび上がって見え、呼吸に必要な空気は、この粉状のロウ物質の隙間を通って、気門に達すると考えられる。

生活史

秋に成虫となる。雄は1対の前翅の生えた成虫となり、雌と交尾して死ぬ。ただし、日本では雄の出現数は少なく、単為生殖をする雌が多い。雌成虫は冬を越し、翌年初夏、6月上旬ごろに腹面の下に産卵する。卵を産み終わると母虫は死亡し、ロウ物質で出来たドーム状の覆いの天井に張り付いた扁平なミイラ状の死骸になる。その結果、ロウ物質のドームは内部の空洞にが詰まった一種の卵のうとなる。5月下旬から7月上旬にかけて、孵化した幼虫はこのドーム状の被覆の下から這い出て活発に移動するが、宿主植物上に定着すると、長い口針を維管束師管に突き刺し、その後は動かなくなる。寄生を始めた当初は、外向きに刺のようなロウ物質の突起が放射状に分泌され、三葉虫のような姿であるが、次第に虫体全面にロウ物質が厚く分泌され、成虫と同じ姿となる。なお、成虫の死後もロウ物質は残り、次第に色が悪くなって脱落するが、しばらくの間は生きているものと見分けがつかない。

分布・食性など

原産はインドと言われるが、世界的に広がって、かつては農業上の大害虫であった。日本では関東地方以西に定着しており、チャツバキミカン類・カキゲッケイジュモチノキなど多くの樹木に寄生する。その北限は、ほぼ年平均気温14℃の等温線と一致する。また、大気汚染にも強く、都会地の街路樹にも出現する。樹木から吸うのは師管液であるため排泄物には余剰の糖分が多量に含まれる。そのため、汁を吸うことによる被害があるだけでなく、分泌する排出液が植物にかかると、そこにスス病が発生し、全体が黒ずんでくる。そのため、宿主植物の光合成を妨げ、また美観を損なう。表面にロウ物質を被っているので、農薬は直接虫体に接触しがたく、効果があがりにくい。また、活動している天敵を殺すことになり、逆にカイガラムシの増加を引き起こすことがある。現在では[いつ?]天敵の寄生バチの活動によって、その数が大きく抑えられているので、 むしろ農薬を多用する耕作地の方がハチが殺されてしまうことから、カイガラムシの発生が多いとも言われる[誰によって?]

防除の歴史

このカイガラムシは、 現在では[いつ?]さほど問題にならないほどしか見ることがない。これは天敵による防除が成功したためであるが、その歴史はなかなか奇妙なものである。

このカイガラムシは、日本には明治中期に侵入した。 明治30年に長崎で発見されたのが最初と言われている[誰によって?]。当時の農薬では駆除が困難であったため、天敵を移入することが検討されたが、適当なものが見つからず、アメリカから持ち込まれた寄生バチも定着しなかった。ところが、第二次世界大戦の最中の1945年九州大学安松京三は、九州大学農学部植物園でゲッケイジュの枝に寄生したルビーロウカイガラムシを採集してガラス管に入れておいたところ、トビコバチ科の新種の寄生バチが出てきたのを発見した。このハチは1954年石井悌と連名の論文で新種記載され、ルビーアカヤドリコバチ Anicetus beneficus Ishii & Yasumatsu と命名された。くわしく調べて見ると、福岡市では既にこのハチによって、このカイガラムシの数が減少を始めていた。そこで、このハチを防除に使えるかとの実験が行われ、良好な結果が得られたことから、九州各地で放飼が行なわれ、防除の効果は大きかった。こうして次第にその名が知られるようになり、九州ではこのカイガラムシの被害がほとんどなくなった。

そのうわさを聞いた本州・四国の園芸や農業関係者が九州からハチを持ち帰り、各地で放飼したため、このハチは全国に広がり、昭和30年代にはルビーロウカイガラムシの被害は非常に少なくなった。放飼が行われた場所では、たいていは約3年でカイガラムシの被害はほとんど収まっている[1]

余談

なお、この間、ハチを手にいれようとした人達が九州に集中したため、ちょっとした騒動になった例もあるという。というのも、ハチを手にいれるには、カイガラムシが着いている枝を取ってくればよい。それを生けておけば、かなりの確率でカイガラムシからハチが出て来たからである。ところが、その頃は既にカイガラムシはほとんど制圧され、たくさん寄生している枝を探すのが難しくなっていた。そのためにミカン畑で無断で枝を切ろうとしたのを発見されて騒ぎになったり、神社のモチノキの枝を切られたりといったことがあちこちで起きたという。ついには、カイガラムシが寄生した苗木に高い値がつくという珍現象もあったらしい。さらには、島根県のミカン園主が九州からこのハチを10頭500円で購入した例もある。ちなみに、そのミカン園でも、ほぼ完全にこのカイガラムシは駆逐された[2]

また、このハチは日本特産であり、インドに近縁種がいるものの、明らかに別種と判断されている。どのような経路で侵入、あるいは発生したのかは全くもって不明である[3]

出典

  1. ^ この項は主として安松 (1960) 、p.87-96
  2. ^ 安松 (1960) 、p.91-94
  3. ^ 安松 (1960) 、p.95

関連項目

参考文献

  • 安松京三、『天敵 生物防御へのアプローチ』、(1970) 、NHKブックス、日本放送出版協会
  • 安松京三、『昆虫物語 -昆虫と人生-』、(1965) 、新思潮社

外部リンク


「ルビーロウカイガラムシ」の例文・使い方・用例・文例

  • ルビーロウカイガラムシという動物
Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。



固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ルビーロウカイガラムシ」の関連用語

ルビーロウカイガラムシのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ルビーロウカイガラムシのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのルビーロウカイガラムシ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS