ホレーショの哲学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 23:39 UTC 版)
遺書にある「ホレーショの哲学」のホレーショは、シェイクスピア『ハムレット』の登場人物であろう(藤村は『ハムレット』を原文で読んでいた)。同作中でホレーショが哲学を語るわけではないが、ホレーショにハムレットが次のように語るシーンがある(第1幕、第5場、166-167行):There are more things in heaven and earth, Horatio, Than are dreamt of in your philosophy.(坪内逍遙訳:「此天地の間にはな、所謂哲学の思も及ばぬ大事があるわい」。)。遺書5行目の「不可解」に通じる不可知論的内容を含むセリフである。"your philosophy"の"your"を二人称と解釈し、「ホレーショの哲学」という一節になったのであろう。しかし、この"your"は、話し手本人も含まれる「一般人称」(general person)で、「世にいわゆる」の意味である(先に引用した逍遙訳もそのように訳している)。遺書のこの箇所を捉えて藤村による「誤訳」をあげつらう向きもあるが、これより以前に徳富蘆花や黒岩涙香も同様(yourを二人称)に訳しているし、それらの訳を藤村が参照した可能性もある。なお、西洋古典学者の逸身喜一郎は、「ホレーショ」はローマ詩人ホラティウス(英文表記:Horace)ではないかと指摘している。当時のエリート青年たちに流行していた悲観主義的厭世観はショーペンハウアーを受容し、この遺書に漂う人生への懐疑と煩悶は、時代の雰囲気をありありと反映したものであった。
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