ヒメスズメバチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/11 10:19 UTC 版)
ヒメスズメバチ[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Vespa ducalis[1] Smith, 1852[1] |
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和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
ヒメスズメバチ[1] |
ヒメスズメバチ(学名:Vespa ducalis)は、ハチ目・スズメバチ科の昆虫である[2]。日本産スズメバチの中では、オオスズメバチに次いで大きい。
形態
成虫
体長は働きバチで25~33mm、女王バチで32~35mm[1]。
亜種ツシマヒメスズメバチ以外は腹部末端の2節は黒く[1][3]、他のスズメバチとの区別は容易とされる[3]。
生態
巣の規模は、日本産スズメバチ属の中では最小で[2]、総育房数は100から450程度[1]。巣は木の枝のような開けた場所ではなく、土中や樹洞のような閉鎖空間に造る[1]。働きバチの数は他種に比べ非常に少ない10から40ほどで、営巣期間は短い[1]。
主にアシナガバチ属やホソアシナガバチ属の巣を襲い[2]、ヒメスズメバチの巣1つに対し150から200のアシナガバチの巣を必要とする推定もある[4]。 また、ヤブガラシの蜜を吸う姿を見かけることも多い。
ヒメスズメバチとオオスズメバチの襲撃方法の違いは、以下のとおり。
- ヒメスズメバチは、単体で時間をかけて襲撃することが多い(複数の巣群の個体同士が小競り合いをしながら襲撃していることもある)。巣の損傷は最小限で、営巣を続けるアシナガバチの巣を数回に分けて襲撃することもある。
- オオスズメバチは、複数で波状的に襲撃することが多い(常に1匹以上の個体が巣を占拠している状態)。巣の損傷は破壊的で、営巣が継続できず放棄される。
ヒメスズメバチは、襲撃し餌を取り尽くした後も以下の行動をする。
- しばらくは偵察のために来訪する。
- アシナガバチ複数が戻った巣があれば襲撃する。空の巣には見向きもしない。
- 巣を放棄したアシナガバチ群が、巣以外の場所に密集しているときは、ある程度散開するまで攻撃し続ける。そこに巣がないことを確認すると周辺の探査を始める。入念に探査する場所が何箇所かあるが、以前、休息しているアシナガバチをよく見かけた場所であり、糞尿などの臭いを感知しているのかもしれない(「嗅覚」に関しては証明する術がないので推測の域を出ない)。
上記、襲撃後の行動から、ヒメスズメバチはアシナガバチの巣の探査にあたり「空間情報」を基にしている可能性が高い。
- 地上高5m付近から、アシナガバチが複数飛行している空域を探す。
- アシナガバチの飛行密集度が高い空域を辿っていくと、巣の付近に到達する。
- 地上高3m以下まで降下し、主に視覚、副で嗅覚を利用して巣を特定。
- おおむね、威力偵察後に襲撃する。
- その後も、アシナガバチが密集し続ければ襲撃対象とする。
アシナガバチを益虫と見れば、ヒメスズメバチは害虫になる(味方の敵は敵)。 しかし、ヒメスズメバチが活発に襲撃を始める晩夏は、その年が異常気象でない限り、アシナガバチの餌になる小型のイモムシ類が減る時期と重なる(蛹で越冬するイモムシ類は大型の終齢幼虫に、また、秋に発生するアオムシを待つ余裕はない)。 仮に、数十〜百匹、無事に巣立ったとしても、近いうちに餓死することになる。
以上の観点から、ヒメスズメバチの襲撃行動を解釈すると、生態系の調整、「人外なる仕組みで間引かれることで、無駄死にする命を、別の個体が引き継いでいる」ことになる。
オオスズメバチ同様、致死温度の46℃以上を回避していることを裏付ける観察例がある(ミツバチ#天敵との関係も参照のこと)。
- 直射日光により体感40℃を超える時間帯は、威力偵察する個体が飛来することはあるが、巣を襲撃することはない。
- 巣を襲撃するのは、6-9月の曇天・弱い雨天・早朝・夕立前後など、おおむね気温30℃未満である。
- 屋外の軒下に営巣した巣は襲撃対象となったが、わずか数メートル離れた半屋外で、体感30℃を超える環境に営巣された巣は無事であった。
分布
日本(本州・四国・九州・佐渡島・伊豆諸島・大隅諸島・対馬・琉球列島)・台湾・中国・朝鮮・ロシアの沿海州[1]。トカラ列島以南では、中之島、奄美大島、徳之島、石垣島、西表島から記録があるが[5]、沖縄本島では見つかっていない[6]。
学名
種小名のducalisには、「公爵の」や「指導者」という意味がある[3]。
以前、本種はVespa tropica(ネッタイヒメスズメバチ)の亜種とされてきたが、後にVespa tropicaは本種とは別種とされている[1][3][2]。
亜種
- 対馬にのみ分布[8]
- 亜種名のesakiiは、昆虫学者の江崎悌三にちなむ[8]。
- 他の亜種では黒色の腹部末端節が他のスズメバチのように黄色であり、かつ腹部全体として黒色よりも黄色となっている[8]。性質は本土亜種同様におとなしい[8]。
人間との関わり
攻撃性は低く、スズメバチの中で最もおとなしい[3]。被害報告も最も少ない[3]。 むしろ、注意すべきは間接的な被害である。ヒメスズメバチが襲撃しているアシナガバチ等の巣に接近すると、パニックに陥った個体に刺されることがある。
出典
- ^ a b c d e f g h i j k l 『日本産有剣ハチ類図鑑』東海大学出版、328頁。ISBN 9784486020752。
- ^ a b c d “森林生物 ヒメスズメバチ”. 国立研究開発法人 森林研究・整備機構. 2018年11月12日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l 上野高敏. “ヒメスズメバチ”. 九州大学大学院 農学研究院 生物的防除研究施設. 2018年11月12日閲覧。
- ^ “アシナガバチ一家、襲撃される”. 多摩動物公園昆虫園. 東京ズーネット (2011年9月23日). 2018年11月12日閲覧。
- ^ 山根正気ほか 1999 南西諸島産有剣ハチ・アリ類検索図説.北海道大学図書刊行会 798ー799頁
- ^ a b c d 上野高敏. “リュウキュウヒメスズメバチ”. 九州大学大学院 農学研究院 生物的防除研究施設. 2018年11月12日閲覧。
- ^ a b 平嶋義宏、森本桂『新訂原色昆虫大圖鑑III』(新訂版初版)株式会社北隆館、2008年1月25日。 ISBN 978-4-8326-0827-6。
- ^ a b c d e 上野高敏. “ツシマヒメスズメバチ”. 九州大学大学院 農学研究院 生物的防除研究施設. 2018年11月12日閲覧。
外部リンク
- ヒメスズメバチ理科教材データベース 昆虫図鑑 岐阜大学
ヒメスズメバチと同じ種類の言葉
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