スズメバチ科とは? わかりやすく解説

スズメバチ科

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/10 13:38 UTC 版)

スズメバチ科
 モンスズメバチ原名亜種 Vespa crabro
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: 膜翅目 Hymenoptera
亜目 : 細腰亜目 Apocrita
上科 : スズメバチ上科 Vespoidea
: スズメバチ科 Vespidae
学名
Vespidae
和名
スズメバチ科
亜科

†は化石群

スズメバチ科 (Vespidae) は、スズメバチ上科に属する膜翅目の一つ。多くの人がハチというと想起する黄色と黒の縞模様の毒針で刺す虫であるスズメバチ亜科やアシナガバチ亜科といった真社会性狩バチと、種数ではさらに多くの種を含むドロバチ亜科などいくつかの単独性(一部は亜社会性)生活する亜科からなる。 世界の亜寒帯から熱帯に広く分布し、約5400種からなる多様な種が含まれる[1]

下位分類

1980年代以降、分岐学的解析によるアシナガバチ亜科Polistinae)、スズメバチ亜科Vespinae)、ドロバチ亜科Eumeninae)、ハラホソバチ亜科[2]Stenogastrinae)、ハナドロバチ亜科[3]Masarinae)、サバクドロバチ亜科[4]Euparagiinae)の6亜科とする分類が主流であった[5][6][7]。日本の図鑑では今でもこの分類が採用されている[8]

2000年代になって分子系統解析が行われるようになると、ハナドロバチ亜科やドロバチ亜科の単系統性について疑問が出され、上記6亜科にGayellinae(ハナドロバチ亜科のGayellini族)とZethinae(ドロバチ亜科のZethini族)をそれぞれ亜科として分離した8亜科[9]、あるいはさらにRaphiglossinae(Zethini族の一部Raphiglossa属とその近縁属からなる)を認める9亜科[10][1]からなるとする見解が出されている。

日本には6亜科のうちアシナガバチ亜科、スズメバチ亜科、ドロバチ亜科の3亜科[11]が分布する。

このほか化石のみが知られる亜科として、Priorvespinae亜科と Protovespinae亜科がある[12][13]

社会性

スズメバチ科には、一匹で生活する単独性の種から、多数の個体が群れ(コロニー)で生活する種まで、さまざまな程度の社会性が見られることから、系統関係とあわせ、社会性の進化に関するモデル生物としての研究が盛んに行われている[2]。 亜科別の社会性の程度を以下に示す[6]

  • サバクドロバチ亜科:単独性
  • ハナドロバチ亜科(Gayellinaeを含む):単独性
  • ドロバチ亜科(Zethinae、Raphiglossinaeを含む):多くが単独性、一部が亜社会性を示す[14]
  • ハラホソバチ亜科:種によってさまざまな程度・様式の社会性を示す[2]
  • アシナガバチ亜科:真社会性
  • スズメバチ亜科:真社会性

Carpenter(1982)による分岐学的手法による分類では、スズメバチ科の真社会性(コロニー内部で繁殖カスト(女王バチ)と労働カスト(働きバチ)による分業がある状態)はハラボソバチ、アシナガバチ、スズメバチの共通祖先で1回進化したとされた[15]

その後、分子系統解析が行われるようになると、ハラボソバチ亜科と残りのグループとが姉妹群となるという結果が複数得られていることから、真社会性はハラボソバチ亜科と、アシナガバチ亜科とスズメバチ亜科の共通祖先とで、2回進化したのではないかと考えられるようになってきた[1][16][17]

生態

真社会性スズメバチ(大多数のスズメバチ亜科とアシナガバチ亜科、一部のハラホソバチ亜科)では、いわゆる女王バチと多数の働きバチ(不妊のメス)がコロニーを作って生活する。通常、温帯の社会性種の営巣活動は1年限りで、春に女王バチが巣を作り、不妊の娘である働きバチの労働により秋までに翌年の女王バチとなるメスとオスを生産し、冬が来るまでには営巣活動が終わり、翌年の女王のみが土中や朽木の中にもぐって越冬する。熱帯や亜熱帯に生息する種(特に南米のアシナガバチ亜科)のなかには、ミツバチのように分封によって新しい巣を作る種もいる。

ドロバチ亜科、サバクドロバチ亜科のハチは子供のためにガの幼虫などを麻酔して巣に運び貯蔵するカリバチである。ハナドロバチ亜科は花蜜と花粉を子供の餌として利用する習性をハナバチとは独自に進化させた。ドロバチなど単独性種の巣は、地面や枯れ枝の髄に坑を掘る(掘坑性)、泥などで壷や瓶を作る(築造性)、竹筒や樹幹に開いた虫の脱出坑等の既存坑を利用する(借坑性)と大きく3つのタイプがある。

巣の素材として、単独性種の多くは泥を使って巣作りするが、ドロバチ亜科の一部(Zethini族)は生きた葉などを、スズメバチ亜科やアシナガバチ亜科やハラホソバチ亜科の一部では、枯れ木などから齧り取った植物繊維を噛み潰したパルプを利用する[18][19]

アシナガバチ亜科やスズメバチ亜科では巣防衛のための高い攻撃性のため、毎年、特に夏から秋に人に対して刺傷被害をもたらす。またオオスズメバチ等のように養蜂業に対する脅威となる場合もある。しかし他方では、多くの種はチョウやガの幼虫を捕食するので、農業害虫の個体数抑制や自然生態系のバランス維持に寄与している。

  • 外来種問題

在来のスズメバチ亜科がいなかったニュージーランドでは、フランスからヨーロッパクロスズメバチ(Vesupula germanica)が侵入した結果、生態系や畜産業などに被害が出ている。中国南部原産のツマアカスズメバチ(Vespa velutina)はヨーロッパや韓国に侵入し、生態系や養蜂業に被害が出ている。日本でも対馬に定着してしまったもののそれ以外への侵入を防止するための水際対策が行われ、現在本土への定着は免れている。カナダとアメリカ合衆国では2019年にアジアからオオスズメバチ(Vespa mandarinia)が発見され問題になっている。このうちアメリカ合衆国では徹底的に駆除が行われた結果、アメリカ農務省により根絶したとの発表が2024年にあった[20]

脚注

  1. ^ a b c Li Luo, James M. Carpenter, Bin Chen and Tingjing Li (2022) First Comprehensive Analysis of Both Mitochondrial Characteristics and Mitogenome-Based Phylogenetics in the Subfamily Eumeninae (Hymenoptera: Vespidae). Insects 2022, 13, 529. https://doi.org/10.3390/insects13060529
  2. ^ a b c 斎藤歩希 (2010). “社会性狩蜂の自然史 : ハラホソバチとアシナガバチを例に(第7回日本動物分類学会奨励賞受賞記念論文)”. タクサ:日本動物分類学会誌 (日本動物分類学会) 29: 1-6. doi:10.19004/taxa.29.0_1. ISSN 1342-2367. NAID 110008441093. https://doi.org/10.19004/taxa.29.0_1 2020年11月28日閲覧。. 
  3. ^ 房総のハチ 世界のハチ 3ハチの科名一覧”. 中央博デジタルミュージアム. 宮野伸也. 2020年11月29日閲覧。
  4. ^ 企画展「敵か味方か スズメバチ」プレビュー #10”. あくあぴあブログ. あくあぴあ (2020年4月28日). 2020年11月29日閲覧。
  5. ^ James Michael Carpenter (1982). “The phylogenetic relationships and natural classificition of the Vespoidea (Hymenptera)”. Systematic Entomology 7 (1): 11-38. doi:10.1111/j.1365-3113.1982.tb00124.x. https://doi.org/10.1111/j.1365-3113.1982.tb00124.x 2020年11月28日閲覧。. 
  6. ^ a b Heather M. Hines; James H. Hunt; Timothy K. O'Connor; Joseph J. Gillespie; Sydney A. Cameron (2007). “Multigene phylogeny reveals eusociality evolved twice in vespid wasps”. PNAS 104 (9): 3295-3299. doi:10.1073/pnas.0610140104. https://www.pnas.org/content/104/9/3295 2020年11月28日閲覧。. 
  7. ^ Kurt M. Pikket; James M. Carpenter (2010). “Simultaneous Analysis and the Origin of Eusociality in the Vespidae (Insecta: Hymenoptera)”. Arthropod Systematics and Phylogeny 68 (1): 3-33. https://arthropod-systematics.arphahub.com/article/31707/ 2025年5月21日閲覧。. 
  8. ^ 寺山守(編著者)、須田博久(編著者)『日本産有剣ハチ類図鑑』(第1版第1刷発行)東海大学出版部、2016年3月30日。 ISBN 978-4486020752 
  9. ^ Patrick K. Piekarski; James M. Carpenter; Alan R. Lemmon; Emily Moriarty Lemmon; Barbara J Sharanowski (2018). “Phylogenomic Evidence Overturns Current Conceptions of Social Evolution in Wasps (Vespidae)”. Molecular Biology and Evolution 35 (9): 2097–2109. doi:10.1093/molbev/msy124. https://academic.oup.com/mbe/article/35/9/2097/5040136 2020年11月28日閲覧。. 
  10. ^ Bank, S.; Sann, M.; Mayer, C. U.; Meusemann, K. (2017). “Transcriptome and target DNA enrichment sequence data provide new insights into the phylogeny of vespid wasps (Hymenoptera: Aculeata: Vespidae)”. Molecular Phylogenetics and Evolution 116: 213–226. doi:10.1016/j.ympev.2017.08.020. 
  11. ^ 寺山守 (2016年). “日本産有剣膜翅類目録(2016年度版)Ver.5”. 2020年11月27日閲覧。
  12. ^ Qiong Wu, Hongru Yang, Chungkun Shih, Dong Ren, Yunyun Zhao and Taiping Gao 2021 Vespids from the mid-Cretaceous with club-shaped antennae provide new evidence about the intrafamiliar relationships of Vespidae. Zoological Journal of the Linnean Society, 2021, 193, 217–229
  13. ^ Adrien Perrard, David Grimaldi, James M. Carpenter. Early lineages of Vespidae (Hymenoptera) in Cretaceous amber: . Systematic Entomology, 2017, 42 (2), pp.379-386.
  14. ^ 市野隆雄「ドロバチ類の個体群動態に関する比較生態学的研究」『香川大学農学部紀要』第62号、香川大学農学部、1997年11月、1-206頁、 ISSN 04530764NAID 1100001343912021年6月1日閲覧 
  15. ^ Carpenter, J. M. (1982). “The phylogenetic relationships and natural classification of the Vespoidea (Hymenoptera)”. Systematic Entomology 7: 11–38. doi:10.1111/j.1365-3113.1982.tb00124.x. 
  16. ^ Hines, H. M.; Hunt, J. H.; O’Connor, T. K.; Gillespie, J. J.; Cameron, S. A. (2007). “Phylogeny reveals eusociality evolved twice in vespid wasps”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 104 (9): 3295-3299. doi:10.1073/pnas.0610140104. PMC 1805554. PMID 17360641. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1805554/. 
  17. ^ Bank, S.; Sann, M.; Mayer, C. U.; Meusemann, K. (2017). “Transcriptome and target DNA enrichment sequence data provide new insights into the phylogeny of vespid wasps (Hymenoptera: Aculeata: Vespidae)”. Molecular Phylogenetics and Evolution 116: 213–226. doi:10.1016/j.ympev.2017.08.020. 
  18. ^ 岩田久二雄 1971 本能の進化-蜂の比較習性学的研究-.真野書店
  19. ^ Sarah K. Gess 1996 The Pollen Wasps: Ecology and Natural History of the Masarinae. Harvard University Press
  20. ^ WSDA, USDA announce eradication of northern giant hornet from the United States  https://agr.wa.gov/about-wsda/news-and-media-relations/news-releases?article=41658



スズメバチ科

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/15 04:56 UTC 版)

ハチ」の記事における「スズメバチ科」の解説

単独生活の狩りバチであるドロバチ類と、女王蜂中心とした家族生活をするスズメバチ類とアシナガバチ類が分類されている。他の昆虫狩って幼虫の餌とする。スズメバチ類とアシナガバチ類は巣や自分防衛のためには敵に容赦ない攻撃加え性質毒針を持つことなどが知られている。人間への被害ハチ刺症)も頻繁である。

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スズメバチ科

出典:『Wiktionary』 (2021/08/21 00:11 UTC 版)

名詞

スズメバチ スズメバチ+ スズメバチか。)

  1. 分類学》 昆虫綱(wp)ハチ目ハチ亜目スズメバチ上科下位分類される膜翅類の1タクソン、一分類群(wp))。

翻訳


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