ヒメジ科
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/10 14:44 UTC 版)
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| 分類 | |||||||||||||||||||||
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| 学名 | |||||||||||||||||||||
| Mullidae Rafinesque, 1815[1] |
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| 英名 | |||||||||||||||||||||
| Goatfish |
ヒメジ科(ヒメジか、学名:Mullidae)は、ヨウジウオ目の下位分類群の一つ。本科のみで Mulloidei 亜目を構成する[2]。暖かく浅い海に適応した魚で、鮮やかな体色や下顎下面に2本の「あごひげ」(触鬚)があることなどを特徴とする。全世界の暖海に6属約100種が分布し、日本近海からは3属25種が知られる[3]。
下顎に2本の「あごひげ」がある。英名"Goatfish"(ヤギ魚)はここに由来し、日本でもオジサン(小父さん、 P. multifasciatus)、オキナヒメジ(翁比売知、 P. spilurus)といったあごひげに因む標準和名を付けられた種類が存在する。
分類
体型にあまり特徴が無く、スズキ系に属すること以外、系統的な位置は長らく不明であった。以前はスズキ目のスズキ亜目に分類されていた[4][5]。系統学的研究の結果、ヨウジウオ目に分類された。本科はヨウジウオ目の中で「benthic clade (底魚のクレード)」に属し、このクレードにはセミホウボウ科、ウミテング科、ネズッポ科が含まれる。本科はネズッポ科と近縁であることが明らかになっている。本科は他のヨウジウオ目魚類と体形が大きく異なり、これまで分類が困難であった。これは本科が白亜紀後期という古い時期に他のヨウジウオ目魚類と分岐し、急速に放散したためである[2][6][7]。
下位分類
分類と種数はFishBaseに従う[8]。ここでは和名のある種を挙げる。
- アカヒメジ属 Mulloidichthys - 7種
- モンツキアカヒメジ Mulloidichthys flavolineatus
- キセンアカヒメジ Mulloidichthys martinicus
- リュウキュウアカヒメジ Mulloidichthys pflugeri
- アカヒメジ Mulloidichthys vanicolensis
- メダマヒメジ属 Mullus - 4種
- アカメヒメジ Mullus argentinae
- メダマヒメジ Mullus auratus
- ウミヒゴイ属 Parupeneus - 35種
- インドヒメジ Parupeneus barberinoides
- オオスジヒメジ Parupeneus barberinus
- ミナベヒメジ Parupeneus biaculeatus
- ウミヒゴイ Parupeneus chrysopleuron
- ホウライヒメジ Parupeneus ciliatus
- フタスジヒメジ Parupeneus crassilabris
- マルクチヒメジ Parupeneus cyclostomus
- タカサゴヒメジ Parupeneus heptacanthus
- コバンヒメジ Parupeneus indicus
- フタオビミナミヒメジ Parupeneus insularis
- ロケットヒメジ Parupeneus jansenii
- オジサン Parupeneus multifasciatus
- リュウキュウヒメジ Parupeneus pleurostigma
- オキナヒメジ Parupeneus spilurus
- ベニヒメジ属 Pseudupeneus - 3種
- Upeneichthys - 3種
- ヒメジ属 Upeneus - 51種
- イワナガヒメジ Upeneus elongatus
- アカネヒメジ Upeneus guttatus
- ユカタヒメジ Upeneus heterospinus
- サクヤヒメジ Upeneus itoui
- ヒメジ Upeneus japonicus
- キスジヒメジ Upeneus moluccensis
- タイセイヨウヒメジ Upeneus parvus
- ヨスジヒメジ Upeneus quadrilineatus
- コハクヒメジ Upeneus sulphureus
- ヨコヒメジ Upeneus subvittatus
- シロガネヒメジ Upeneus taeniopterus
- ヨメヒメジ Upeneus tragula
- ミナミヒメジ Upeneus vittatus
形態
下顎に2本のあごひげを持つ。体高は高く、体は細長い。背鰭は2基あり、尾鰭は二叉する[9]。第一背鰭は6-8棘から、第二背鰭は1棘と8-9軟条から成る。臀鰭は第二背鰭よりも長く、1-2棘と5-8軟条から成る。椎骨数は24個[8]。口は頭部のやや下側に偏ってつく。最大種のオオスジヒメジは全長60cmに達し、ほとんどの種は全長30cm以下である。Upeneus francisi は成長しても全長10cmに達しない。多くの種は鮮やかな体色である。同じ個体でも昼と夜で体色や斑紋が大きく異なる。死ぬと体表の模様が変わる種類もいる。
分布と生息地
世界中の熱帯、亜熱帯、温帯海域に分布し、ほとんどの種は沿岸の海底に生息する。ヒメジ属の一部は深海でも見られ、Upeneus davidaromi は水深500mまで生息する。熱帯ではサンゴ礁で見られることが多い。ヨメヒメジなど一部の種は河口にも進出する。
生態
底魚であり、あごひげにある味蕾のような感覚器を使い、底の砂やサンゴの間を探る[9]。多毛類、甲殻類、軟体動物、その他の小型無脊椎動物を捕食する。大型種は遊泳性の小魚を捕食することもある。他の魚がヒメジ科魚類に付くことがあり、例えばインドネシアでは、マルクチヒメジと複数のウツボが協力して狩りをする。日中は群れを作り、他の種と混ざることもある。例えばアカヒメジは、ヨスジフエダイとともに群れを作ることがある。体色を変える能力があり、例えばマルクチヒメジの体色は通常黄色だが、摂食中にはクリーム色となる。
擬態
急速に体色を変える能力があり、砂の上では擬態の為に淡い色になる。数秒の間に何度も体色を変えることが出来る。Mulloidichthys mimicus と Mulloidichthys ayliffe の2種は、ヨスジフエダイに擬態する。
繫殖と成長
浮遊卵を水中に放出し、卵は海流に乗って移動する。仔魚はプランクトンであり、外洋で4-8週間浮遊生活を行う。その後は幼魚となり、あごひげが発達する。ほとんどの種は変態すると着底するが、幼魚のまま外洋生活を送る種もいる[10]。幼魚は海草の藻場を好む傾向にある。成長とともに生息環境や行動が変化する。多くの種は1-2年で性成熟する。
人との関わり
多くの地域で重要な漁業対象種となっている。古代ローマでは Mullus barbatus と Mullus surmuletus の人気が高かった。鮮やかな体色が好まれたため、客人の目の前で絞められていた[11]。中型・大型種は各地で食用に漁獲される。また、鮮やかなうえに変化する体色から、スクーバダイビングや水族館において観賞の対象にもなる。
画像
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モンツキアカヒメジの群れ
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マルクチヒメジ
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ヨメヒメジ
出典
- ^ Richard van der Laan; William N. Eschmeyer & Ronald Fricke (2014). “Family-group names of Recent fishes”. Zootaxa 3882 (2): 001–230. doi:10.11646/zootaxa.3882.1.1. PMID 25543675.
- ^ a b Eschmeyer's Catalog of Fishes Classification - California Academy of Sciences 2025年11月10日閲覧。.
- ^ 小枝圭太 (2018)「ヒメジ科」中坊徹次(編/監修)『小学館の図鑑Z 日本魚類館』p.296、小学館、ISBN 978-4-09-208311-0。
- ^ Nelson, JS; Grande, TC & Wilson, MVH (2016). Classification of fishes from Fishes of the World 5th Edition. John Wiley & Sons. p. 410. ISBN 978-1119220817
- ^ S.J. Longo; B.C. Faircloth; A. Meyer; M.W. Westneat; M.E. Alfaroe & P.C. Wainwright (2017). “Phylogenomic analysis of a rapid radiation of misfit fishes (Syngnathiformes) using ultraconserved elements”. Molecular Phylogenetics and Evolution 113 (August 2017): 33–48. doi:10.1016/j.ympev.2017.05.002. PMID 28487262. Abstract.
- ^ S.J. Longo; B.C. Faircloth; A. Meyer; M.W. Westneat; M.E. Alfaroe & P.C. Wainwright (2017). “Phylogenomic analysis of a rapid radiation of misfit fishes (Syngnathiformes) using ultraconserved elements”. Molecular Phylogenetics and Evolution 113 (August 2017): 33–48. doi:10.1016/j.ympev.2017.05.002. PMID 28487262. Abstract.
- ^ Brownstein, C D (2023-01-10). “Syngnathoid Evolutionary History and the Conundrum of Fossil Misplacement”. Integrative Organismal Biology 5 (1). doi:10.1093/iob/obad011. ISSN 2517-4843. PMC 10210065. PMID 37251781.
- ^ a b “FAMILY Details for Mullidae - Goatfishes”. FishBase. 2025年11月10日閲覧。
- ^ a b Johnson, G.D.; Gill, A.C. (1998). Paxton, J.R.; Eschmeyer, W.N.. eds. Encyclopedia of Fishes. San Diego: Academic Press. pp. 186. ISBN 0-12-547665-5
- ^ Uiblein, Franz (2007-10). “Goatfishes (Mullidae) as indicators in tropical and temperate coastal habitat monitoring and management”. Marine Biology Research 3 (5): 275–288. doi:10.1080/17451000701687129. ISSN 1745-1000.
- ^ Andrews, Alfred C. (1949). "The Roman Craze for Surmullets". The Classical Weekly 42 (12). Miami. 186–88.
参考文献
- 岡村収監修(ヒメジ科執筆者 : 山川武)山渓カラー名鑑『日本の海水魚』 ISBN 4-635-09027-2
- 井田齋他『新装版 詳細図鑑 さかなの見分け方』講談社 ISBN 4-06-211280-9
- 檜山義夫監修『野外観察図鑑4 魚』旺文社 ISBN 4-01-072424-2
関連項目
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