ノエマ/ノエシス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/22 03:33 UTC 版)
志向性が現象学においてどのような役割を持つ概念であるのかをみたことによって、意識と対象の相関関係としての志向性の具体的な分析へと立ち入ることが可能となったわけであるが、この志向性の分析にもちいられるのが、ノエシスまたはノエマの概念である。 志向的分析は意識の本質構造である志向性の分析として展開していくが、この志向性の作用的側面をノエシス、対象的側面をノエマという。志向性の具体的形態が志向的体験であり、志向的体験の内在的な作用的側面がノエシスであり、超越的な対象的側面がノエマであるということもできる。どのような志向的体験もおのれのうちにノエマを持ち、そのノエマもまた意味を持ち、この意味によって対象と関係している。ノエシスは、まず意識に感覚与件などのヒュレー(素材)的契機が与えられ、それがノエシス的契機によって意味付与また統握されることによって活性化されることであり、これらの過程はすべて志向的体験に内在しておりその実的成素を構成している。これに対してノエマは志向的体験の実的ではない構成要素ということができ、ノエマ的意味という意味化された対象の規定の契機を持ち、このノエマ的意味という内実に、対象がいかにあるかという作用的な存在性格の様相すなわちノエマにおけるノエシス的契機をふくむことによって、充実したノエマあるいはまったきノエマとなる。つまり、たとえば林檎という対象の知覚の志向的体験をこのノエシスとノエマの分類に従って分析していくと、まずわれわれの感官にある感覚与件が与えられ、それを意味付与的なノエシス的作用が統握することによって林檎という対象が認識され、またそのさいに統握された林檎のノエマ的意味が、現実性やあるいは架空性といった様相において捉えることによって眼前にある林檎という対象へと構成される。 さらに、ノエマの存在性格の様相には原型的性格と派生的性格があり、これらの性格は意識変様のさまざまな可能性をあらわしている。この変様はノエマにおいて、ノエマ自体の段階的性格を示すものとして刻みこまれており、派生的段階にあるノエマは原型的なノエマへの内的な関係を持っている。そして、この内的な関係によってノエマ的反省が各ノエマの段階を遡及して原型へと到達することができる。このノエマ的反省の方法が確立されたことによって、意識のあらゆる潜在的志向性を顕在的な所与へともたらすことが可能となった。これは現象学におけるひとつの画期であり、のちの発生的現象学の発展を約束するものとなった。しかし、『イデーン』第一巻のなかであきらかにされたこの志向的分析の方法は、いまだ形式的かつ静態的なものにとどまっており、意識の諸変様が本来動態的なものでその意識への遡及的分析もまた動態的なものとならざるをえないことを十分に訴えてはいない。この「意識の歴史性」の展開こそが、発生的現象学へとつながる。
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