ドゥシシレンとは? わかりやすく解説

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ドゥシシレン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/15 02:04 UTC 版)

ドゥシシレン
ヨルダニカイギュウの復元骨格
地質時代
新第三紀中新世前期 - 後期
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 海牛目 Sirenia
: ジュゴン科 Dugongidae
亜科 : ステラーカイギュウ亜科 Hydrodamalinae
: ドゥシシレン Dusisiren
学名
Dusisiren
Domning1978[1][2]
模式種
Metaxytherium jordani
Kellogg, 1925[1][3]
  • D. dewana
  • D. jordani
  • D. reinharti
  • D. takasatensis

ドゥシシレン[4]またはドゥシシーレン[5]は、新第三紀中新世の前期から後期にかけて生息した、海牛目ジュゴン科に属する絶滅した海棲哺乳類[6]化石アメリカ合衆国メキシコ合衆国日本国で産出している[6]。体長4メートル程度[6]ステラーカイギュウタキカワカイギュウを含むステラーカイギュウ属英語版の直系の祖先とされる[6]

ドゥシシレン属はステラーカイギュウ属とともにステラーカイギュウ亜科(ヒドロダマリス亜科)に属する[7]。ドゥシシレン属のうち命名済みの種は生息年代の古いものから順に以下が知られる。

Dusisiren reinharti Domning, 1978
和名 - ラインハルトカイギュウ[8]
生息期間 - 中新世前期(バーディガリアン期)[6]
産地 - バハ・カリフォルニア州[1]
備考 - 種小名はRoy Herbert Reinhartへの献名[1]
Dusisiren jordani (Kellogg1925)
和名 - ヨルダニカイギュウ[9][10]
生息期間 - 中新世中期から後期(サーラバリアン期からトートニアン期)[6]
産地 - カリフォルニア州[1][3][11]
備考 - 種小名はDavid Starr Jordanへの献名[3]
Dusisiren dewana Takahashi et al.1986
和名 - ヤマガタダイカイギュウ[11]
生息期間 - 中新世後期(トートニアン期)[6]
産地 - 山形県[11][12]
Dusisiren takasatensis Kobayashi et al.1995
和名 - アイヅタカサトカイギュウ[13][14]
生息期間 - 中新世後期(トートニアン期、あるいはメッシニアン期まで生存していた可能性あり)[6]
産地 - 福島県[12][15]

ヤマガタダイカイギュウとアイヅタカサトカイギュウは同時期に生息していたと見られ、また同時代の地層ではヌマタカイギュウと呼称される本属の未定種が日本の北海道沼田町から産出している[2]。またアイヅタカサトカイギュウとヌマタカイギュウはステラーカイギュウ属のケスターカイギュウ英語版とも生息期間が一部重複したと見られる[2]

特徴

ヨルダニカイギュウの復元図

ドゥシシレン属の体長は4メートル程度であり、体長7メートル以上に達するステラーカイギュウ属と比較して小型である[6]。機能歯を完全に喪失したステラーカイギュウ属と異なり、ドゥシシレン属は歯冠の摩耗した機能歯の存在が確認されており、咀嚼を歯で行っていたと見られる[6]。その代わり、ステラーカイギュウ属が口蓋部と下顎の吻部に有するケラチン質の組織である咀嚼板はドゥシシレン属においてそれほど発達しておらず、細長い亜三角形から台形をなしていたと推測されている[6]。食餌(海藻類)の磨り潰しに適した下顎骨の形状から、咀嚼能力はステラーカイギュウ属の方が高かったと見られている[6]

鱗状骨の側方の隆起がステラーカイギュウ属に見られるL字型でなくS字型であること、外後頭骨の側方の隆起がステラーカイギュウ属と比較して発達しないこと、眼窩頬骨橋が前後に長く上下に薄いこと、の後関節窩が深いことが本属に共通する特徴として挙げられる[7]。ただし、ドゥシシレン属は種によってステラーカイギュウ属に近い特徴や中間的な特徴を示すものがおり、例えばヤマガタダイカイギュウはヨルダニカイギュウと比較して歯や指骨が縮小しており、アイヅタカサトカイギュウは歯槽が痕跡的である[7]。また、ヤマガタダイカイギュウとアイヅタカサトカイギュウは下顎骨の咀嚼面が長い長方形をなし、先に述べたステラーカイギュウ属の下顎骨に近づいている[7]

ドゥシシレン属の肩甲骨は前縁・後縁ともに頭側に凸であり、前縁が直線状をなすステラーカイギュウ属の肩甲骨と異なる[16]。また、肩峰はステラーカイギュウ属においてより後側に位置する[16]

進化と系統

より基盤的なドゥシシレン属を含むステラーカイギュウ亜科は、当時開裂していた北アメリカ大陸南アメリカ大陸との間を経由し、大西洋から太平洋へ進出した[16][8]。太平洋新出後のドゥシシレン属は北上し、アリューシャン陸橋に沿って分布を広げ、日本列島付近にも生息した[8]。ドゥシシレン属の一部は後にステラーカイギュウ属に派生しており、頭蓋骨の形態の進化によって咀嚼能力が向上したグループが大型化を遂げたと推測されている[6]。新第三紀に気候が寒冷化すると海草よりも海藻が海底の植生において優勢となり、また海藻が海草よりも軟質であることから、これがステラーカイギュウ亜科の食性や口腔の形態に影響したとも考えられている[6]

以下のクラドグラムは、ドゥシシレン属の種とステラーカイギュウ属の種、およびハリテリウム英語版属の種であるHalitherium schinziiを含めた海牛目の類縁関係を示す[17]

海牛目

Halitherium schinzii

ラインハルトカイギュウ(Dusisiren reinharti

ヨルダニカイギュウ(Dusisiren jordani

ヤマガタダイカイギュウDusisiren dewana

アイヅタカサトカイギュウ(Dusisiren takasatensis

ケスターカイギュウ(Hydrodamalis cuestae

タキカワカイギュウHydrodamalis spissa

ステラーカイギュウHydrodamalis gigas

出典

  1. ^ a b c d e Dalyl P. Domning, 1978. Sirenian evolution in the North Pacific Ocean. University of California Publications in Geological Sciences 118: 1-176.
  2. ^ a b c 古沢仁「北海道・沼田町の上部中新統から発見された新たな海牛類化石」『化石』第60巻、1996年、1-11頁、doi:10.14825/kaseki.60.0_1 
  3. ^ a b c Remington Kellogg, 1925. A new fossil sirenian from Santa Barbara County, California. Carnegie Institution of Washington 348: 57-70.
  4. ^ 札幌市博物館活動センター. “古沢博士に聞いてみよう!その2 ~カイギュウの進化~”. 札幌市. 2025年5月13日閲覧。
  5. ^ 冨田幸光、伊藤丙雄、岡本泰子『新版 絶滅哺乳類図鑑』丸善出版、2011年1月30日、145頁。ISBN 978-4-621-08290-4 
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n 古沢仁「海牛の大型化に関する考察」『化石研究会会誌』第45巻第2号、2013年、55-60頁、doi:10.60339/kasekiken.45.2_55 
  7. ^ a b c d 小林昭二、田崎和江「ヒドロダマリス亜科Hydrodamalinae(海牛目:ジュゴン科)における下顎と脊柱の運動機能に関する進化的変化」『地球科学』第60巻第1号、2006年、49-62頁、doi:10.15080/agcjchikyukagaku.60.1_49 
  8. ^ a b c 札幌市博物館活動センター. “古沢博士に聞いてみよう!その1~カイギュウってなーに?~”. 札幌市. 2025年5月13日閲覧。
  9. ^ 美術自然史館について”. 滝川市美術自然史館. 2025年5月13日閲覧。
  10. ^ 小林昭二「群馬県安中市の板鼻層(中期中新世後期〜後期中新世前期)産のハリテリウム亜科の海牛目化石」『地球科学』第56巻第3号、2002年、179-190頁。 
  11. ^ a b c Shizuo Takahashi, Daryl P. Domning & Tunemasa Saito, 1986. Dusisiren dewana, n. sp. (Mammalia: Sirenia), a new ancestor of Stellers sea cow from the upper Miocene of Yamagata prefecture, northeastern Japan. Transactions and Proceedings of the Palaeontological Society of Japan N. S. 141: 296-321.
  12. ^ a b 古沢仁「北太平洋海牛類(ヒドロダマリス亜科:Hydrodamalinae)の進化と古環境」『化石』第77巻、2005年、29-33頁。 
  13. ^ 第144回化石研究会例会講演抄録」『化石研究会会誌』第49巻第1号、2016年、46頁。 
  14. ^ 犬塚則久「海牛とクジラの話」『化石』第49巻第2号、2016年、63-71頁、doi:10.60339/kasekiken.49.2_63 
  15. ^ Shoji Kobayashi, Hideo Horikawa & Shigeo Miyazaki, 1995. A new species of sirenia (Mammalia: Hydrodamalinae) from the Shiotsubo Formation in Takasato, Aizu, Fukushima Prefecture, Japan. Journal of Vertebrate Paleontology 15(4): 815-829.
  16. ^ a b c 古沢仁「カムチャッカ州ベーリング島のステラーカイギュウ」『化石』第58巻、1995年、1-9頁、doi:10.14825/kaseki.58.0_1 
  17. ^ Furusawa, Hitoshi (2004). “A phylogeny of the North Pacific Sirenia (Dugongidae: Hydrodamalinae) based on a comparative study of endocranial casts”. Paleontological Research 8 (2): 91–98. doi:10.2517/prpsj.8.91. 



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