イベリコ山系とは? わかりやすく解説

イベリコ山系

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/27 09:09 UTC 版)

イベリコ山系
アルカラ・デ・モンカヨから見たモンカヨ山塊(2313m)
所在地 スペインアラゴン州カスティーリャ・イ・レオン州ラ・リオハ州バレンシア州カタルーニャ州カスティーリャ=ラ・マンチャ州
位置 北緯41度44分45秒 西経01度46分53秒 / 北緯41.74583度 西経1.78139度 / 41.74583; -1.78139座標: 北緯41度44分45秒 西経01度46分53秒 / 北緯41.74583度 西経1.78139度 / 41.74583; -1.78139
最高峰 モンカヨ(2313 m
種類 アルプス造山運動第三紀
プロジェクト 山
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イベリコ山系スペイン語: Sistema Ibérico)は、イベリア半島北東部を北西から南東にかけて走る山系。スペインの6自治州にまたがっている。最高峰は標高2,313mのモンカヨ

水文地理学の観点ではイベリア半島でもっとも重要な山系であり、カタルーニャ州地中海に注ぐエブロ川水系の河川、バレンシア州で地中海に注ぐフカル川トゥリア川、ポルトガルを通って大西洋に注ぐドゥエロ川タホ川グアディアナ川は、いずれもイベリコ山系に源流がある。

地理

地勢

イベリコ山系の西端は広大な台地であるメセタに接しており、イベリコ山系はイベリア半島中央部のメセタと半島東部のエブロ川流域や地中海岸を隔てている。イベリコ山系は北西から南東にかけて、全長約500km、幅90kmにわたって長く伸びている。その北西端はカンタブリア山脈に近いカスティーリャ・イ・レオン州ブルゴス県のラ・ブレーバ回廊であり、その南東端は地中海岸のバレンシア州である。イベリコ山系の大部分はアラゴン州に位置し、自治州の南側半分を占めている。イベリコ山系の南端部はベティコ山系プレベティコ山系と接している。

地質

イベリコ山系の地質は複雑であり、均質な体系であると定義するのは困難である。種々雑多な山脈、山塊、台地、窪地で構成されており、はっきりと共通な岩石組成や全体的な構造を持たないが、山系を通じて貨幣石、石灰岩、大理石、砂岩などが一般的である。山系の中には地質学的に孤立したり、山系全体の連続性を分断している部分もあり、それらの部分は様々な標高の高原を通じて他の部分と接続している[1]

河川

水文地理学の観点でイベリコ山系はイベリア半島でもっとも重要な山系である。イベリコ山系はスペインの他の山系ほど標高が高くないが、イベリア半島を流れる重要な河川の分水嶺となっており、イベリコ山系に端を発する河川の河口は大きく大西洋地中海に分かれる。

自然

動物相

イベリア山系の深刻な過疎化は野生生物にとって好ましいことであり、シロエリハゲワシのヨーロッパ最後のコロニーがこの山系に築かれている。イベリアオオカミやワシ(イヌワシボネリークマタカヒメクマタカチュウヒワシ)は人里離れた高標高の場所で比較的生息数が多い。スパニッシュアイベックス、ノロジカイノシシ、ヨーロッパアナグマ、ヨーロッパジャコウネコなどの哺乳類の多くはイベリコ山系の荒涼とした山地に生息している[2]

イベリコ山系でもっともありふれた爬虫類ホウセキカナヘビ、アルジェリアカナヘビ、Psammodromus hispanicusPodarcis muralisPodarcis hispanicaなどであり、Chalcides chalcides、イツユビカラカネトカゲ、ヒメアシナシトカゲは比較的珍しい。イベリコ山系の山地に生息するヘビはクサリヤマカガシ、ヨーロッパヤマカガシ、モンペリエヘビ、Elaphe scalarisCoronella girondicaCoronella austriacaVipera latasteiなどである。

イベリコ山系全体を通じて、Rana pereziヨーロッパヒキガエル、ナタージャックヒキガエル、サンバガエル、マダライモリLissotriton helveticusなど一部の両生類は、池や小川の中または周囲に数多く生息しており、Lissotriton helveticusなどは標高の高低や水分の多寡を問わず生息している。その他には数は少ないもののヨーロッパアマガエル、ファイアサラマンダーなどが生息しており、特に湿った森林地帯にはいまだに広く分布している。一方でイベリアトゲイモリは山岳地帯でも稀にしか発見されない。Austropotamobius pallipes(ザリガニ)を含む水生無脊椎動物や、Salaria fluviatilisCobitis paludicaなど特定の魚類は、イベリコ山系を流れる河川の上流部に多く生息している[3]。何本かの渓流にはマスが生息している[4]

かつてイベリア半島中央部でとても重要な活動だった伝統的なウシの放牧は、今もこの山系の周辺の特定の村々では、乾燥した草原で生き残っている。一定数の猟師がこの山系の山地を訪れ、彼らは比較的都市部から近い山地に、特に週末に訪れる[5]

植物相

一部の山地では主にフランスカイガンショウヨーロッパアカマツモンタナマツ(それぞれマツ)、セイヨウヒイラギガシQuercus pyrenaicaQuercus faginea(それぞれオーク)からなる斑模様の森林が形成されている。湿った斜面ではヨーロッパブナシラカンバでさえも生育しており、そこではワラビ属やオオエゾデンダなどのシダ類も見られる。

多くの山地は岩がちで草木に乏しく、低木のヒースブライヤErica vagansカルーナ属)、灌木のエニシダ、草状の低木であるタイム、ウシノケグサ属やコウスイガヤなどの草が生えている。緑に乏しい森や灌木林にはセイヨウネズJuniperus thuriferaCytisus purgansErinacea anthyllis、カルーナ属などが生育している。しばしば南側斜面は北側斜面よりも乾燥し、特に夏季、長期間日照りが続くと山火事が発生することもある。

乾燥したイベリア半島で湿原は一般的ではないが、イベリコ山系の標高の高い場所には湿原が形成されていることもあり、そこでは水が流れずに留まっている。オリウエラ・デル・トレメダル英語版ブロンチャレス英語版の近く、「フエンテ・デル・イエーロ」と呼ばれる場所などであり、そこの標高は1,400mから1,550mある。このような湿原に生育する植物は、主にスギゴケ属、タチキジムシロ、ムシトリスミレセイヨウスノキカルーナ属、またモウセンゴケ(食虫植物)などであり、いずれもイベリコ山系より南部の西ヨーロッパでは生育していない。

ビコルト山地やサンタ・クルス山地には絶滅危惧種Centaurea pinnata(ダリヤの一種)が生育している[6]

人間活動

フランコ独裁時代の1959年には「安定化計画スペイン語版」が取られ、山間部の農村からの人口の移動が起こった。大都市の工業地域や観光業が成長していた沿岸部の町に人口が移動した結果、イベリコ山系では急激に人口が減少した。ヒツジやヤギの牧畜など、村の経済の大黒柱だった伝統的な農業慣習は放棄され、また20世紀後半のスペイン農村部でライフスタイルが変化したことも移住の要因となった[7]。特にアラゴン州テルエル県など、山系の様々な地域に多くのゴーストタウン廃村が見られる[8]。現存する村でも、ルーマニアやマグレブ諸国から来て農業活動に従事している契約労働者が人口の多くを占める村もある[9]

イベリコ山系はスペインでもっとも重要な鉱業地区のひとつでもあり、メネーラ山地、アルコス山地、サン・フスト山地などに鉱区がある[10][11]

山脈・ピーク

ウルビオン峰
エブロ川流域平原から見たモンカヨ
サン・フスト山地
パロメーラ山地のパロメーラ峰
アルバラシン山地
ペニャゴローサ峰

山脈

イベリコ山系は多くの山脈・山地・山塊の集合体である。

ピーク

イベリコ山系には以下のようなピークがある。

脚注

  1. ^ Entre la sierra de Caldereros y el Maestrazgo de Teruel Natura Xilocae, 2011年5月
  2. ^ Walking In Spain アーカイブ 2015年9月24日 - ウェイバックマシン High Beam
  3. ^ Número de especies y endemismos ラ・リオハ州
  4. ^ Mapa de la trucha del Sistema Ibérico アーカイブ 2012年3月25日 - ウェイバックマシン Conmosca
  5. ^ MARM / Biodiversidad - Sierra de Vicort アーカイブ 2011年8月7日 - ウェイバックマシン Marm
  6. ^ Sierra de Vicor アーカイブ 2011年5月28日 - ウェイバックマシン De Rutas
  7. ^ Despoblación en Aragon”. 2012年8月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年12月5日閲覧。
  8. ^ Collado de la Grulla (Teruel) Pueblos deshabitados
  9. ^ Un pueblo de Teruel, salvado por la inmigración Mibolso
  10. ^ Recursos minerales de España アーカイブ 2011年8月10日 - ウェイバックマシン サラゴサ大学
  11. ^ Luis Diego Arribas, Contemporary Art and Opencast Mining, University of Zaragoza, 2009

外部リンク


イベリコ山系

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ハロン川」の記事における「イベリコ山系」の解説

両側石灰岩の山となっているアラマ・デ・アラゴン(英語版付近峡谷形成している。中流部カラタユー中心とする数十キロ範囲は、北西から南東にかけて長く伸びるイベリコ山系に対してハロン川直交しており、両岸を山に挟まれ峡谷蛇行しながら流れている。カステホン・デ・ラス・アルマスではピエドラ川を集めるが、ピエドラ修道院存在知られるピエドラ川にはトランケーラ貯水池建設されている。アルテカではマヌブレス川を集めるが、ピエドラ川もマヌブレス川もイベリコ山系の山中流れてきた河川である。 流域最大の町であるカラタユーはイベリコ山系内部にある町であり、町の周囲には盆地形成されている。カラタユー南部でヒロカ川を、アンティグア・ビルビリスでリボータ川を集める。盆地を過ぎるとイベリコ山系のアルガイレン山地やビルヘン山地入り、再び峡谷の中を蛇行して流れる。

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「イベリコ山系」を含む「ハロン川」の記事については、「ハロン川」の概要を参照ください。

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