イタモジホコリ
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イタモジホコリ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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子実体(培養下で濾紙上に形成されたもの)
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Physarum rigidum (G.Lister) G.Lister, 1925[2] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||||||||
イタモジホコリ(学名: Physarum rigidum)は、モジホコリ目モジホコリ科モジホコリ属に分類される変形菌の1種である。子実体は円盤状の胞子嚢(子嚢)と細い柄からなる。細毛体の石灰節は長い。種小名の rigidum は、ラテン語で「硬い」を意味する。しばしばキノコを摂食し、マイタケなどの栽培キノコに害を与えることがある。培養が容易であり、ときに実験に用いられる。
特徴
子実体は高さ 1–2 mm、柄をもつ単子嚢体(子嚢がそれぞれ独立している型)であり、群生する[3][4]。変形膜は褐色[3]。柄は先端に向かって細くなり、基部は残留物を含んで暗色、上部は橙色から黄色[3][4]。子嚢(胞子嚢)はレンズ形で上面はしばしばくぼんでへそ状、黄色からくすんだ橙色だが、石灰が少ない場合は金色や銀色を呈する[3][4]。軸柱はなく、細毛体が子嚢底から放射状に生じており、細毛体の石灰節は長くくさび形からさお形、黄色から橙色、その間をつなぐ連絡糸は長くあまり分岐しない[3][4]。胞子は直径 9–10 µm、反射光ですみれ色、透過光で藤色を帯びた褐色、表面は細かい刺形[3][4]。
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濾紙上に形成された子実体群
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子実体の拡大像
変形体は黄色[3](下図)。条件が悪くなると休眠構造である菌核を形成するが(下図)、飼育下で形成された本種の菌核を7年半保管(冷蔵庫の野菜室)して復活を確認した例がある[5]。
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培養中の変形体
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菌核化した変形体(左の変形体はこれに水を与えて半日後のもの)
分布・生態
汎世界種であり、タイプ産地は日本の和歌山県[3]。日本では本州、四国、九州、琉球諸島から報告されている[3]。
春から秋に、朽ち木やキノコの上にややふつうに出現し、ときに大発生する[3][4][6][7]。代表的なキノコ摂食変形菌(キノコを細胞外消化して吸収する)であり、しばしばキノコを摂食する[7]。マイタケやヒラタケなどの栽培キノコに害を与えることもあり[8]、イタモジホコリによるマイタケに対する病害は、イタモジホコリ粘菌病とよばれる[9]。
飼育・培養
イタモジホコリは、オートミールを餌として容易に培養できる[要出典][10]。増井真那は5歳の頃から変形菌に興味を持ち、イタモジホコリを含む変形体の飼育・研究をしていることで知られている[11][12][13][14]。増井 (2017) はイタモジホコリの変形体は「敏感で臆病なところがある」と表現しており、別種の変形体との接触をさせた実験で本種が逃げ出す様について「こういう気まぐれなところが、すごくイタモジっぽい」としている[14]
さらに、人工培地による本種の培養もかなり早くに成功している[15]。一般に、粘菌類の変形体を培養するのは簡単でなく、1968年時点で全変形菌の内の10%以下しか培養されていなかったが、それらはごくおおざっぱな方法でのものである[15]。培地中に餌になる生きた微生物、あるいはその死骸を含まない培地での培養が成功していたのは、モデル生物として知られるモジホコリを含む数種しかなかった[15]。そんな中 Henney & Henney (1968) は本種をグルコースやヘマチン、酵母エキスなどを含む培地で培養することに成功した[15]。この培地は酵母エキスなど天然の素材を使っているために完全な合成培地ではないが、その後、Henney & Lynch (1969) はグルコースとビオチンの他数種のアミノ酸を含む完全な合成培地で本種などを培養することに成功している[16]。
分類
類似種のアオモジホコリ(Physarum viride (Bull.) Pers., 1795)は、子嚢がより厚いレンズ形で上面がへそ状にはならず、細毛体の石灰節は小さい紡錘形である点で異なる[3][4][7]。ベテルモジホコリ(Physarum bethelii = Badhamia bethelii (G. Lister) J.M. García-Martín, J.C. Zamora & Lado, 2023)は、子嚢に石灰が少なく帯青色から帯黄色、切開節は不規則、胞子はやや大きい(直径 11–12 µm)[3][4]。キカミモジホコリ(Physarum flavicomum Berk., 1845)は、柄が半透明で赤褐色、細毛体は網状になり石灰節は小さく、胞子はやや小さい(直径 8–10 µm)[3][4]。アシナガモジホコリ(Physarum tenerum Rex, 1890)は、子嚢がより球形に近く、柄は石灰を含有し、細毛体は網状[3]。
脚注
注釈
出典
- ^ García-Martín, J. M., Zamora, J. C., & Lado, C. (2023). “Multigene phylogeny of the order Physarales (Myxomycetes, Amoebozoa): shedding light on the dark-spored clade”. Persoonia - Molecular Phylogeny and Evolution of Fungi 51 (1): 89-124.
- ^ a b Robert, V., Stegehuis, G. & Stalpers, J.. “Physarum rigidum”. MycoBank. 2025年8月22日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 山本幸憲 (2021). “イタモジホコリ”. 日本変形菌誌. 日本変形菌誌製作委員会. p. 1015. ISBN 978-4-600-00729-4
- ^ a b c d e f g h i 萩原博光, 山本幸憲, 伊沢正名 (1995). “イタモジホコリ”. 日本変形菌類図鑑. 平凡社. p. 105. ISBN 978-4582535211
- ^ 増井真那 (2017). 世界は変形菌でいっぱいだ. 朝日出版社. p. 47. ISBN 9784255010304
- ^ 松本淳 & 伊沢正名 (2007). 粘菌:驚くべき生命力の謎. 誠文堂新光社. p. 42. ISBN 978-4416207116
- ^ a b c 川上新一 (2017). Graphic voyage 変形菌. 技術評論社. pp. 124, 126. ISBN 978-4774191430
- ^ 倉持眞寿美 & 小倉健夫 (2005). “きのこ栽培における珍しい病害虫の発生事例”. 茨城県病害虫研究会報 44: 42-46 .
- ^ “イタモジホコリ粘菌病”. 日本植物病名データベース. 農業生物資源ジーンバンク. 2025年8月24日閲覧。
- ^ “イタモジホコリでいろいろ実験”. 南方熊楠記念館 (2021年10月4日). 2025年8月24日閲覧。
- ^ 増井真那. “変形菌の研究 2008~2014年”. 筑波大学. 2025年8月24日閲覧。
- ^ 増井真那. “変形菌の研究-9 変形体の自己拡張的自他認識力”. 平成28年度 野依科学奨励賞 受賞作品概要. 国立科学博物館. 2025年8月24日閲覧。
- ^ 増井真那 (2024年3月27日). “第2回 共に生きる”. ミクソヴァース 変形菌たちの世界. 集英社. 2025年8月24日閲覧。
- ^ a b 増井真那 (2017). 世界は変形菌でいっぱいだ. 朝日出版社. pp. 126-127. ISBN 9784255010304
- ^ a b c d Henney, H. R. & Henney, Mary R. (1968). “Nutritional requirements for the grouth in pure culture of the myxomycete Physarum rigidum and related species”. Microbiology 53 (3): 333-339. doi:10.1099/00221287-53-3-333.
- ^ Henney Jr, H. R. & Lynch, T. (1969). “Growth of Physarum flavicomum and Physarum rigidum in chemically defined minimal media”. Journal of Bacteriology 99 (2): 531-534. doi:10.1128/jb.99.2.531-534.1969.
外部リンク
- “イタモジホコリ”. たじまのしぜん. 但馬情報特急 (2022年5月6日). 2025年8月20日閲覧。
- イタモジホコリのページへのリンク