こどもの交響曲とは? わかりやすく解説

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おもちゃの交響曲

(こどもの交響曲 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/20 19:34 UTC 版)

おもちゃの交響曲』(: Kindersinphonie)は全3楽章からなる小交響曲。題名の通り、さまざまなおもちゃが曲の中で使用される。

最初に出版された時、作曲者としてフランツ・ヨーゼフ・ハイドンの作品とされた。その後さまざまな作曲家が候補として挙げられたが、現在も決定的な証拠は見つかっていない。

ドイツ語の題名は『こどもの交響曲』という意味である。『おもちゃの交響曲』は、英語圏でのタイトル「Toy Symphony」に由来する。シュテファン・パルセッリによって筆写された現存最古の写本であるシュタムス本では『ベルヒテスガーデンの音楽』(: Berchtolds-Gaden Musickベルヒテスガーデンの玩具店製のおもちゃを加えた音楽を意味する)と呼ばれている。

作曲者について

本作の作曲者については様々な説が唱えられた。

本曲がはじめて『こどもの交響曲』の名で出版されたのは1813年で、ホーフマイスター音楽出版社から出版され、作曲者をフランツ・ヨーゼフ・ハイドンとしていた[1]。そのため、ハイドンの研究で知られるオランダ音楽学者アントニー・ヴァン・ホーボーケンによるホーボーケン番号では「Hob. ll:47」の番号が与えられている。しかしハイドンによる自筆譜が存在せず、またこの交響曲の成立に関する手紙等の二次資料がないため、確証は得られていなかった。また、ハイドンの他の作品と比較して本作はあまりにも単純であり田園的であるため、早くから偽作説が有力であった。

手書き写本には弟のミヒャエル・ハイドンを作曲者としているものもある。また4つの写本ではファーストネームを記さずに単に作曲者を「ハイドン」としており、兄と弟とのどちらを指すのか明らかでない。写本の系統関係を研究したゾニャ・ゲルラッハは主要な写本と最古の楽譜資料はミヒャエル・ハイドンを作曲者としており、ヨーゼフ・ハイドンの名はより新しい資料にのみ出現すること、そしてウィーンではミヒャエル・ハイドンが作曲者と考えられていたと結論付けた。しかしこの説も確証は得られなかった[2]

1953年、エルンスト・フリッツ・シュミットは、レオポルト・モーツァルトの名前入りでバイエルン州立図書館に保存されていた全7曲からなるカッサシオン ト長調のうちの3曲が『おもちゃの交響曲』に対応するという発見を公刊した[3][4]。この発見はレオポルト・モーツァルトが作曲者であることを証明するもののように思われた。

レオポルト・モーツァルト本人ではなく彼の弟子のヨハン・ネポムク・ラインプレヒターも候補に挙げられた[5]。ラインプレヒターはフェリックス・リポフスキーの音楽百科の中でベルヒテスガーデンのおもちゃ楽器をつかった曲の作者にあげられていた[6]。しかしながらラインプレヒターを『おもちゃの交響曲』の作曲者とする写本は存在しない。

より新しい研究によれば、レオポルト・モーツァルトは(カッサシオンを彼が作ったというのが本当だとして)おそらく『ベルヒテスガーデンの音楽』を発見してそれを自分の曲の中に取り入れたのである[7]。カッサシオンには作曲技法上不自然な箇所があり、明らかに元はハ長調の曲だったのをト長調に移調している[8]

1992年オーストリアチロル地方シュタムス修道院(Stift Stams)の音楽蔵書の中から、1785年頃に当院の神父シュテファン・パルセッリ(Stefan Paluselli, 1748年 - 1805年)が写譜した『ベルヒテスガーデンの音楽』の楽譜が発見された。そこには同じくチロル出身で、ベネディクト会の神父エトムント・アンゲラーが1770年頃に作曲したと記されていた[注釈 1]。しかしこの説についても音楽学者の間で議論がある。たとえばオーストリアの音楽学者であるロバート・イリングは1994年に公刊されたモノグラフにおいて、アンゲラーによる手稿もやはり複製であって、彼が作曲したことを意味しないと反論した[9][10]。ゲルラッハもまた、シュタムス修道院のアンゲラーの写本が「ひどく手が加わっている」とし[11]、特にフィナーレを11小節に渡って転調なしに拡張していることは、この版もまた編曲であると仮定することで初めて説明可能であるという[12]

1982年、ヘルムート・シェーナーも上記の大作曲家たちについて本曲の「広告手段」であると言っている。しかし彼はアンゲラーではなくベルヒテスガーデンの宮廷音楽家・作曲家の一族であったFembacher家[注釈 2]が作曲した可能性をあげている[14]

楽器編成

  • 写本発見当時は次のような見解が主流であった。現在の見解と異なっている点は斜体にしてある。
    • パルセッリの写本には、弦楽器の編成としてヴァイオリンヴィオラバス(Violino, e Viola, con Basso)と記されている。これは現在ヴィオラの入らない弦楽四部の編成で演奏されることが多いことから考えると、熟慮が必要である。con Bassoは当時のスタイルで通奏低音であるから、チェロも加わっていると考えるべきである。いずれにせよチロルの片田舎のオーケストラを念頭に作曲した訳で、とりあえずその場にいる弦楽器全員が演奏するというのが自然であり、ヴィオラやチェロをあえて外す必然性はない。
  • このような判断が「弦五部原理主義」の中から生み出されてきたが、かつての弦五部にはチェロが省略された記譜が主流だったことに加えて、本当にチェロを抜いた例もある。初期のシンフォニアにはヴィオラとチェロを割愛した編成もかなり多い。またチロル地方が通奏低音を抜く最新の流行に対応していたとは考えにくい。やはりアンゲラーの念頭にあった編成は「ヴァイオリンヴィオラ、実音で演奏されるヴィオローネ、通奏低音(フォルテピアノ)」の四重奏であったと考えられる。木製楽器の玩具にフォルテピアノが混ざるのは、音色的には自然な組合わせであろう。
  • パルセッリの写本ではバイエルン州の著名な保養地ベルヒテスガーデンの玩具店製の以下のおもちゃが指定されている。カッコウ(Kuckuck)、ウズラ(Wachtel)、ラッパ(Trompete)、太鼓(Trommel)、ガラガラ(Ratsche)、雌鳥の笛(Orgelhenne)、トライアングル(Cymbelstern)。実際の演奏では、雌鳥の笛→ナイチンゲール(水笛)のように適時変更される。

出版

上記の通り、この交響曲は当初フランツ・ヨーゼフ・ハイドンの作品として出版されている。

パルセッリ写譜本に基づく新編集のエトムント・アンゲラー作曲の『おもちゃの交響曲』、あるいはアンゲラーの音楽劇、オラトリオなどの楽譜が閲覧可能。

曲の構成

全3楽章、演奏時間は反復をすべて行っても約10分ほど。時には子供がオーケストラの中で実際におもちゃを演奏するということも行われる。

音楽・音声外部リンク
ブリティッシュ交響楽団演奏(日本コロムビア社発売)
管弦楽:玩具の交響曲 - 第2楽章の演奏、歴史的音源(国立国会図書館デジタルコレクション
  • 第3楽章 フィナーレ:アレグロ・モデラート - アレグロ - プレスト
    ハ長調、8分の3拍子。
    
\version "2.18.2"
\relative c'' {
  \key c \major
  \time 3/8
  \tempo "Finale. Allegro moderato."
  \tempo 8 = 186
  c16\f (d) e (c) f (d)
  g8-. g16 (e) a (f)
  g8-. g16 (e) a (f)
  g4.
  c,16 (d) e (c) f (d)
  g8-. g16 (e) f (d)
  e8-. e16 (c) d (b)
  c4 e8-.
  c4 g'8-.
  c,4 c'8-.
  c,4
}
    アレグロ・モデラートから始まり、2回目はアレグロ、最後はプレストで合計3回繰り返し、次第におもちゃが増えていき、にぎやかに終了する。

脚注

注釈

  1. ^ ただし、この事実はアンゲラー作曲説が1992年になって突然現れたということを意味しない。それ以前にも、モーツァルトやハイドンの研究で有名な音楽学者H.C.ロビンス・ランドンがアンゲラーの署名入りの楽譜を発見しており、日本にも1960年代半ばにはその情報が入ってきていた。例えば、志鳥栄八郎著「世界の名曲とレコード クラシック編 上巻」(1967年初版)でこの問題が取り上げられており、志鳥は同書の中で「(作曲者については)今後も、あるいは二転三転するかもしれない」としながらも、「(ハイドンが町のおもちゃ屋からおもちゃを買い込んできて、新しく作曲した楽譜と一緒に楽員に渡した。楽員たちはびっくりしたが、いざ演奏してみるとたいへん楽しい音楽だったので二度びっくりした、という)微笑ましいエピソードを思うとき、せめて作曲者名が確認されるまで、ハイドンの名前をそのままそっと残しておきたい」として作曲者は「ハイドン」とし、括弧付きで「レオポルト・モーツァルト?」としている。
  2. ^ Mathias Fembacher (1673–1748), Franz Mathias Fembacher (1709–1773), Johann Baptist Paul Fembacher (1756–1809)らを指す[13]

出典

  1. ^ Hildegard Herrmann-Schneider: Zur Edition, Institut für Tiroler Musikforschung (Innsbruck), online unter musikland-tirol.at
  2. ^ Gerlach 1991, S. 155–167.
  3. ^ 国際音楽資料目録:1001307180, https://rism.online/sources/1001307180 
  4. ^ Ernst Fritz Schmid: Leopold Mozart und die Kindersinfonie. In: Mozart-Jahrbuch. 1951 (1953), S. 69–86; urn:nbn:at:at-moz:2-4345.
  5. ^ Bruno Aulich: Haydns Kinder-Symphonie – leider ein Märchen! In: Das Liebhaberorchester. 11, 1963, Nr. 3, ISSN 0460-0932, S. 27–29.
  6. ^ Ernst Hintermeier: Neue Mozart-Ausgabe Serie IV: Orchesterwerke, Werkgruppe 12: Kassationen, Serenaden und Divertimenti für Orchester – Band 1. Kritischer Bericht. Bärenreiter, Kassel 1988, S. 4; online:
  7. ^ Ernst Hintermeier: Neue Mozart-Ausgabe Serie IV: Orchesterwerke, Werkgruppe 12: Kassationen, Serenaden und Divertimenti für Orchester – Band 1. Kritischer Bericht. Bärenreiter, Kassel 1988, S. 4; online:
  8. ^ Gerlach 1991, S. 161 f.
  9. ^ Kindersinfonie (Memento vom 22. 2月 2013 im Internet Archive), ehemalige Webseite des Terzetts Terzina Salzburg mit weiterführenden Informationen zur Kindersinfonie, online unter terzina.org
  10. ^ Robert Illing: Berchtolds gaden musick: a study of the early texts of the piece popularly known in England as Haydn's Toy Symphony and in Germany as Haydns Kindersinfonie, and of a cassation attributed to Leopold Mozart which embodies the Kindersinfonie. Illing, Melbourne 1994, ISBN 0-949302-61-9.
  11. ^ Gerlach 1991, S. 157 u. 175.
  12. ^ Gerlach 1991, S. 160 f.
  13. ^ Hellmut Schöner (Hrsg.): Berchtesgaden im Wandel der Zeit. Ergänzungsband I, Berchtesgadener Anzeiger sowie Karl M. Lipp Verlag, München 1982, ISBN 3-87490-528-4, S. 345
  14. ^ Hellmut Schöner (Hrsg.): Berchtesgaden im Wandel der Zeit. Ergänzungsband I, Verein für Heimatkunde d. Berchtesgadener Landes, Verlag Berchtesgadener Anzeiger sowie Karl M. Lipp Verlag, München 1982, ISBN 3-87490-528-4, S. 352

参考文献

外部リンク

パルセッリの写譜本の表紙を閲覧できる。




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