がんの浸潤、転移における上皮間葉転換
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/05 01:16 UTC 版)
「上皮間葉転換」の記事における「がんの浸潤、転移における上皮間葉転換」の解説
転移の開始には浸潤が必要であり、これは上皮間葉転換により引き起こされる。原発腫瘍におけるがん細胞は、Eカドヘリンの減少や基底膜の崩壊により、細胞接着を喪失するとともに浸潤能を増強し、脈管侵襲(英語版)を介し全身の血流へと浸潤する。その後、循環腫瘍細胞(英語版) (Circulating tumor cell: CTC) が全身の血流から脱出し、微小転移巣を形成した時、これら循環腫瘍細胞は間葉上皮転換を起こして、転移部での増殖を開始する。つまり、上皮間葉転換および間葉上皮転換は浸潤-転移のカスケードにおいて、その開始と終了を担っているのである。また、上皮間葉転換はがん遺伝子によって引き起こされる成熟前老化に対する抵抗性をもたらす。ZEB1と同様、Twist1やTwist2はヒトの細胞やマウスの胚性線維芽細胞の老化を防いでいる。同じく、TGF-βはがんの進行期における浸潤能と、免疫の監視からの回避をもたらす。TGF-βが活性化Rasを発現した哺乳類の上皮細胞に作用した時、上皮間葉転換が引き起こされ、アポトーシスは阻害される。また、薬剤耐性が上皮間葉転換を引き起こすことが示されている。上皮間葉転換のマーカーは卵巣がん上皮細胞培養細胞のパクリタキセル抵抗性と関連していることが知られている。同じように、Snailはp53により誘導されるアポトーシスを阻害することで、パクリタキセルやアドリアマイシン、放射線治療に抵抗性をもたらす。さらに、がん化や線維化に関連している炎症は、最近、炎症誘導性の上皮間葉転換を介したがんの進行と関連していることが示されている。つまり、上皮間葉転換は、細胞を移動可能な形質へと変換するだけではなく、様々な免疫抑制や薬剤耐性、アポトーシスからの回避、および宿主と腫瘍の異常反応を引き起こしているのである。 最近の研究では、上皮間葉転換を起こしている細胞は、幹細胞様の機能を獲得し、これによりがん幹細胞を生じることが示唆されている。ヒト上皮細胞にRasの活性化を導入すると、CD44high/CD24lowを示す不死化した細胞集団が上皮間葉転換の誘導を伴い増加する。これは、幹細胞様の機能をもったがん細胞と同様の変化である。ZEB1もまた、幹細胞様の機能を付与することができ、上皮間葉転換と幹細胞らしさの関係を強くする。上皮間葉転換によりもたらされるこの機能は、浸潤能と増殖・腫瘍化能の増大という2点で患者に不利益をもたらす。
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