「テルマ」の系統
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/16 14:29 UTC 版)
「テルマ」(埋蔵経)の系統とはニンティク(心髄、真髄とも訳す)と呼ばれるゾクチェンの教えの系統のことである。「カンド・ニンティク」(「空行心髄」と漢訳)、「ビマ・ニンティク」(「卑摩心髄」と漢訳)、「ロンチェン・ニンティク」(「龍清心髄」と漢訳)の3つが代表的なもので、日本でゾクチェンの系統といえば「ロンチェン・ニンティク」が有名である。 「カンド・ニンティク」はニンマ派の「テルマ」に基づくゾクチェンの系統である。カンドゥ(ダーキニーのこと、空行母と漢訳)によって秘されていた教えとするところから「カンド・ニンティク」と呼ばれ、六大流派それぞれが独自のニンティクを備えている。「テルマ」というと日本では創作と思われがちであるが、「サテル」(sa gter、地下の埋蔵経)の中には歴史的な資料性の高いものが含まれている。ちなみに、ニンマ派では尊挌としての「イェシェ・ツォギャル仏母」はカンドゥの代表の一尊とされ、そのため歴史上のグル・パドマサンバヴァから直弟子のイェシェ・ツォギャルへと伝えられたとされる教えの多くは、「テルマ」として一応は「カンド・ニンティク」に収められている。その名の通り「カンド・ニンティク」はニンマ派の教えの母体であり、大きく言うと北のテルマ・南のテルマ・中央のテルマ・東のテルマ・西のテルマの五系統がある。このうち北のテルマが有名であり、東のテルマは量が少ないが古い伝承を伝えている。「カンド・ニンティク」の系統は、ドゥジョム・リンポチェ、弟子のニョシュル・ケンポ・リンポチェ、その弟子のイェシェ・サンポ・リンポチェらによって解明され、イェシェ・サンポ・リンポチェの『紅宝珠錬』(ルビー)に詳しい。 「ビマ・ニンティク」の系統は、途中パドマサンバヴァを介さずにインドの成就者からヴィマラミトラを経て直接チベットへと伝えられたゾクチェンの系統である。なお、チベット僧の中には「ビマ・ニンティク」も「カンド・ニンティク」の中に含めて考える人もいる。 「ロンチェン・ニンティク」の系統はチベットの大学者ロンチェンパ (1308-1364) の教えをジグメ・リンパ (1729-1798) が深い瞑想の中で学んだ「ゴンテル」(御心の埋蔵経)の教えの系統を指している。そして、「ロンチェン・ニンティク」はインドで密教を学んだ中国人の成就者シュリー・シンハから弟子のヴァイローチャナ、ヴィマラミトラ、パドマサンバヴァの三者に別々に伝えられたものを一つにまとめた系統の教えで、ロンチェンパまではニンマ派の伝承に基づくものであり、そしてジグメ・リンパ以降はほぼ史実を伝えていると見てよい。現在、この「ロンチェン・ニンティク」の系統は六大流派の伝統の壁を乗り越えたドゥジョム・リンポチェと弟子のニョシュル・ケンポ・リンポチェによって解明され、ニョシュル・ケンポ・リンポチェの『藍宝石』(ラピスラズリ)に詳しい。
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