NASCAR 規格

NASCAR

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/14 00:20 UTC 版)

規格

コース

NASCARはインディカーと同じようにアメリカ独自のレースであり、ヨーロッパや日本のレースとは大きく異なっている。その主な理由は、多くのサーキットが、ヨーロピアンスタイルのロードコースではなく、アメリカンスタイルの楕円型をしたオーバルトラックであることに由来し、ロードコースでの開催は年間わずか2レースのみとなる。1周0.5マイル(約0.8 km)のショートオーバルから、2.66マイル(約4.3 km)のスーパースピードウェイのコースをひたすら超高速で周回する。オーバルサーキットの場合、その速度は各マシンのドラフティング効果も相まって時速300 km以上にも達する世界でも稀にみる超高速レースである。

車体

誤解されがちであるが、NASCARマシンはマルチメイクである。メーカー・チームごと車両は組み立て・開発をするか、他チームから購入する。ただしレースの成り立ちがアマチュアによる市販車レースであったため、NASCARは車体製造のコスト高騰を極端に嫌う。そのため高価なチタンカーボンファイバーの使用を禁止している。競技用四輪車としては非常に重く、レギュレーションによって最低重量は3,450ポンド (≒1,560 kg) と規定されており、そもそも前述のような特殊材料を使ってまで軽量化をするメリットがない[注 6]。これはレースのイコールコンディション化に大きく貢献している。

しかし〝ストックカー〟という名前が付いているものの、それ以外の実態については、ワンオフのパイプフレームに金属外板を貼りつけ市販車を模した外観で、燈火類は無く、それに当たる部分はステッカーや塗装で表現、ドアも無く乗り降りはガラスは無く、乗車後保護ネットを張った窓部分から行うなど、市販車とは全く異なるレーシングマシンである。1950年代から1960年代にかけて、アメリカ車にはどの車種にも非常に高出力なエンジンを搭載したスポーツモデルが設定され、頂点のモデルとしてファストバックスタイルのマッスルカーが若者の人気を集めていた時代には、メーカーの販促の意味もあり市販車ほぼそのままの形態で参戦していたが、より高度なエアロダイナミクスを求めて大型の空力付加物の装着が試みられた1969年から1970年シーズンのエアロ・ウォーリア英語版と呼ばれる特殊モデルの台頭により、レース速度の高速化と車両価格の高騰が顕著となった事から、1971年シーズンからは空力付加物の制限とホモロゲーション英語版取得のための最低販売台数が大幅に引き上げられたため、膨大な開発費用が掛かるエアロカーは僅か2シーズンで姿を消した。同時期に発生した第一次石油危機の影響と自動車排出ガス規制の強化、若者向け自動車保険の懲罰的高騰などにより、1960年代のような有鉛ガソリンの使用を前提とするフルパワーエンジンのマッスルカーの市販が次第に難しくなった事情なども重なり、その後はパイプフレームに金属製カウルを架装し、レース専用エンジンを積む現在のような車体が主流となった。

タイヤはそれほどでもなく、アルミホイールマグネシウムホイール等の軽量ホイールを使用せず、一般のアルミホイールよりも軽量に作られているNASCAR用スチールホイールを使用し、なおかつレーシングカーによく見られるセンターロックホイールではなく、装着を容易にするためにナットはあらかじめホイールに接着された昔ながらの5穴ホイールであったが、2022年シーズンから実装されたGen7carではセンターロックホイールが採用された。

リアサスペンションは長らく車軸式が一般的であったが、2022年以降カップ戦では独立懸架式が採用されるようになっている。

車検の際には「テンプレート」を使用して空力チェックを行うユニークな場面が見られる。これはかつてスモーキー・ユニック1923年5月25日 - 2001年5月9日)という規定違反すれすれの行為を繰り返していた悪名高いエンジニアが、他のマシンより空力的に勝る一回り小さいマシンを走らせ失格となったというエピソードから始まっている。車輌ごとに決められたテンプレートをあてがうことにより、空力的な違反が無いか細かくチェックされる。

エンジン

エンジンは近年では珍しい存在となりつつあるOHVを使用している。しかし、358立方インチ (≒約5,866 cc) のOHVエンジンは軽く10,000 rpm近くまで回り、840馬力以上を搾り出す。これはDOHCエンジンを20,000 rpm近くまで回したNAエンジン時代のF1エンジンと同様に、最先端の技術によって作られたレーシングエンジンであることを窺い知ることができる。設計の自由度についてはむしろF1よりも大きいという[2]。 ギアボックスはG-Force製Hパターン4速MTが組み合わされ、コースごとにギアレシオの変更を行う。

供給はGMフォードに加え、2000年代に入ってトヨタが積極的な参入姿勢を示しており、2001年からNASCARマシンであるにもかかわらずDOHCエンジン搭載車であるセリカで下位カテゴリーへの参入を開始したのを皮切りに、2004年からはクラフツマン・トラック・シリーズにタンドラで参戦している。タンドラについては本来4カムSOHCのV型エンジンを、わざわざOHVに改造して参戦している。2007年からはカムリでスプリントカップ・シリーズ、ネイションワイド・シリーズの両シリーズに参戦している。

2011年までは燃料供給にキャブレターを使用していたが、環境保護アピール等の要因から、スプリントカップシリーズでは2012年よりフリースケール・セミコンダクタとF1のマクラーレンの関連会社であるマクラーレン・エレクトロニック・システムズが開発した電子制御式の燃料噴射装置が導入された。ただしレース中にエンジンマッピングを書き換えるような行為は禁止されており、ドライバーの腕による燃費制御等の余地を残している[3]

2012年までは米ビッグスリーの一角であるクライスラーダッジブランドで供給を行ってきたが、有力チームのペンスキーを同年限りで失うなど近年勢力の衰退が著しく、結果的に同年限りでスプリントカップ・シリーズ及びネイションワイド・シリーズから撤退することになった[4]

ホイール

2021年から長年の5穴仕様から変更され、次世代カップカーでセンターロックホイール[5]が採用される。

安全対策

NASCARで使用されるリストリクタープレート

現在ではオーバルコースの外側やトラックによっては内側にも緩衝帯が設置されている。2001年デイトナ500でのデイル・アーンハートの死亡事故の後にはHANSの着用も義務付けられた。さらに2007年からは、カー・オブ・トゥモロー(CoT)と呼ばれる新型車がスプリントカップシリーズにおいて採用され2008年より全面移行、より安全性が強化された。

平均時速が高いデイトナタラデガの二箇所でレースが行われる場合、リストリクタープレートが装着される。これによって馬力は500馬力前後、レブリミットは7000rpm程度までに落ちる。

屋根にルーフフラップと言う空力ブレーキの設置が義務付けられている。これはスピンの際マシンが後ろ向きになると後ろ向きの空気の流れで立ち上がる小型の板で、この板が屋根から立つことにより車体上方の空気の流れを乱流にして揚力を小さくさせ、車体が浮き上がらないようにすることで、転倒やそれ以上の大事故となることを防ぐものである。


注釈

  1. ^ 2003年まではウィンストンカップ、2004年 - 2007年はネクステルカップ、2008年 - 2016年はスプリントカップ、2017-2019年はモンスターエナジーNASCARカップと年のタイトルスポンサーによって名称が異なる。
  2. ^ 2008年-2014年はネイションワイド・シリーズ、2007年まではブッシュシリーズ。
  3. ^ 2009年から2018年まではキャンピング・ワールド・トラック・シリーズ、2008年まではクラフツマン・トラック・シリーズ。
  4. ^ 2005年現在はDivision I - IVの4つに分かれているが、各Divisionは同等のものという扱いであり、最もシリーズポイントを稼いだ者が全体のシリーズチャンピオンとなる
  5. ^ イギリスの自動車番組トップ・ギアのシーズン15エピソード7にて、取材で発祥の地とされるノースカロライナ州のウィルケスボロにあるアメリカ初のオーバルコースを訪れたジェレミー・クラークソンが、市長らからそのような説明を受けている。
  6. ^ 参考として、F1では最低728 kg(ドライバーの体重を含む)、SUPER GTでは最低1,020 kg(ドライバーを含まない)となっている。
  7. ^ インディカーでも同様に採用されるルールだが、レース展開に応じてコーションが出されるのはNASCAR独自のものである。

出典

  1. ^ Venerable old tracks endure after NASCAR Cup Series' departureUSA Today, 2017.8.30
  2. ^ 『SUPER GT file ver.8 技術こそ、生命線。』75ページ 三栄書房刊行 2021年9月20日閲覧
  3. ^ EFI opens a wealth of possibilities to competitors - NASCAR・2012年2月7日
  4. ^ NASCAR勢力図に異変。ダッジが今季限りの撤退 - オートスポーツ・2012年8月8日
  5. ^ ワNASCAR、2021年からの次世代カップカーでセンターロックホイールを採用”. as-web.jp (2020年3月3日). 2021年9月2日閲覧。
  6. ^ FAST FACTS FOR NASCAR'S 2016 PROCEDURAL CHANGES”. NASCAR.com (2016年2月11日). 2017年6月8日閲覧。
  7. ^ NASCARタラデガ:ゴール目前に“ビッグワン”発生 - オートスポーツ・2012年10月9日
  8. ^ NASCAR第24戦:カイル・ブッシュがシリーズ初の偉業達成。トヨタはトップ4独占
  9. ^ [1]
  10. ^ National Guard extends sponsorship of No. 88 - NASCAR・2012年8月17日
  11. ^ Navy Cancels as a NASCAR Sponsor; With This Economy, Who's Next? - HuffingtonPost・2008年7月9日
  12. ^ Navy puts brakes on NASCAR sponsorship - NavyTimes・2008年7月11日
  13. ^ U.S. Army to discontinue NASCAR sponsorship in 2013 - USA Today・2012年7月10日
  14. ^ 反バイデン「レッツゴー、ブランドン」-右派の間で大流行”. ワシントンポスト日本語版 (2021年10月15日). 2021年11月9日閲覧。
  15. ^ 反バイデン大統領の俗語を機内放送か、内部調査開始”. CNN (2021年11月4日). 2021年11月9日閲覧。
  16. ^ NASCAR第24戦:カイル・ブッシュがシリーズ初の偉業達成。トヨタはトップ4独占
  17. ^ 2016 Coca-Cola 600”. Racing-Reference. USA Today Sports Media Group. 2017年5月20日閲覧。
  18. ^ NASCAR Race Results at Suzuka East - Nov 24, 1996NASCAR Race Results at Suzuka East - Nov 23, 1997
  19. ^ Result 1999 NASCAR Winston West Series Coca-Cola 500 1998 NASCAR THUNDER SPECIAL MOTEGI Coca-Cola 500
  20. ^ 【3つの原因】NASCARやインディ なぜアメリカでモータースポーツが地盤沈下しているのか”. AUTOCAR JAPAN(2020年1月1日作成). 2020年2月17日閲覧。
  21. ^ 【小林可夢偉 電撃参戦】NASCARカップ・シリーズ2023”. 株式会社GAORA. 2023年7月3日閲覧。
  22. ^ “From F1 TV to WRC+: Assessing the leading OTT platforms in motorsport”. SportsPro Media. (2022年11月28日). https://www.sportspromedia.com/analysis/f1-tv-wrc-motorsport-tv-indycar-live-motogp-videopass-nascar-trackpass-ott/?zephr_sso_ott=WExD93 2023年3月9日閲覧。 





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