黒部ダム 概要

黒部ダム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/27 23:00 UTC 版)

概要

日本を代表するダムの一つであり、富山県東部の長野県境近くの黒部川上流に関西電力が建設したコンバインダム[注釈 3]水力発電専用ダムで貯水量2億立方メートル(東京ドーム160杯分)[注釈 4]、高さ(堤高)186メートル、幅(堤頂長)492メートルである[11]。日本でもっとも堤高の高いダムで、富山県で最も高い構築物でもある。黒部ダム完成により、総貯水量2億トンの北陸地方屈指の人造湖黒部湖(くろべこ)」(ダム湖百選)が形成された。

総工費は建設当時の費用で513億円[8]。これは当時の関西電力資本金の5倍という金額である。作業員延べ人数は1,000万人[8]、工事期間中の転落やトラックトロッコなど労働災害による殉職者は171人にも及んだ[4](ちなみに黒部第三ダム建設時には、建設現場以外で宿舎(飯場)が2度の泡雪崩の被害を受け108名、ダイナマイト自然発火事故で8名が死亡した)。

1956年昭和31年)着工当時、「電力開発は1万kW生むごとに死者が1人出る」と言われていた[7]。完成時、25万kWを生み出した黒部ダムの建設工事で171人の殉職者を出したことは、人が行くこと自体が当時命がけだった秘境の黒部峡谷でのダム建設の困難さを示している。また当時、黒部峡谷のダム建設現場では「黒部にケガはない」と言われていた。しかしその言葉の意味は、工事での労働災害が無いという意味ではなく、「落ちたらケガでは済まない」という意味であり、工事のミスは即死を意味した[7]

前述のように「黒四ダム」の別称もあるが、関西電力は公式サイトなどでも「黒部ダム」としている[13]。また、日本ダム協会によれば、「黒四ダム」の名は仮称として用いられ、後に正式名称が「黒部ダム」となった[9]。完成時には「黒四ダム」と呼ばれることが多かったが、最近では一般に「黒部ダム」と呼ばれるようになっている。また、かつては図鑑などで「黒部第四ダム」と書かれていたこともある。


注釈

  1. ^ 大正時代の初めから何度もダム計画がたてられ現地調査を行い垂直の断崖に足場を作ってきたが、重機を搬入できず計画はその都度失敗してきた[11]
  2. ^ 当時のダム設計担当者であった近藤信昭によれば、人間が行くことも出来ないような場所に作る、関西電力には大正時代の黒部峡谷の現地調査資料が残されていた、豊富な雪解け水による“ダムと発電所の落差545m”での予想発電量は関西の電力不足を一気に解消できる25万kW、しかしダム建設の決断に必要な調査の10%~15%程度しか行なわれていなかったが、この調査資料のみで社長が建設を決断された、普通ではないことだ。と、関西電力も太田垣社長も追い込まれていた[7]
  3. ^ 黒部ダムは長野県との県境近くにある。黒部ダムから直線距離で約3km東に県境がある。長野県大町市の「扇沢駅」(標高1425m)から専用電気バス関電トンネル電気バス)で西に、全長6.1kmの「関電トンネル」で後立山連峰を抜けると、富山県立山町の「黒部ダム駅」に到着する(所要時間16分)。トンネル中央付近が富山県と長野県の県境である[8][12]
  4. ^ 貯水量2億トンの全ての水が水量発電に使用される。東京ドーム160杯分にあたる。雪解け水など、年間を通して安定した水量で、黒部ダムの湖の水は1年間に4~5回入れ替わり、年間約8億トンの水が入ってくるとされる[8]
  5. ^ 第二次大戦後の復興期、特に関西では、渇水火力発電石炭の不足で、昭和30年代すなわち1955年以降も慢性的な電力不足で、工場で週2日、一般家庭では週3日、使用制限(休電日すなわち計画停電)が行なわれ、深刻な社会問題となり、また復興への深刻な妨げにもなっていた[11]
  6. ^ 当ダムでは110mの高さから毎秒10トン以上の水が放流されていて、その巨大な力によって川底が大きく削れると、ダムの運営に影響を与える可能性があった。
  7. ^ 世界遺産候補としたのは厳密には黒部峡谷と戦前に建造された第二・第三発電所や小屋平・仙人谷ダムなどが主体であった。しかし産業遺産に詳しい内閣官房参与加藤康子は黒部ダムの可能性を示唆している[41]
  8. ^ なお、中島はこの時、歌詞を間違えるハプニングを起こしている。詳細は地上の星の当該項目を参照のこと。

出典

  1. ^ 順位表[全て] 総貯水容量順」一般財団法人日本ダム協会
  2. ^ a b 吉田裕一「関西支部だより 黒部川第四発電所・黒部ダム」『電気設備学会誌』第35巻第1号、電気設備学会、2015年、58-59頁、doi:10.14936/ieiej.35.58 
  3. ^ a b 『くろよん50周年記念誌』(2014年3月31日、関西電力株式会社北陸支社発行)68頁。
  4. ^ a b 黒部ダム、完成50年 殉職171人の慰霊祭開く」『日本経済新聞』2013年6月5日
  5. ^ 立山黒部アルペンルート(富山県立山駅-長野県扇沢駅)参照
  6. ^ 『富山県の歴史散歩』(山川出版社、2013年3月31日1版3刷発行)31頁。
  7. ^ a b c d e 2005年10月11日放送 NHKプロジェクトX 第179回『シリーズ黒四ダム 秘境へのトンネル 地底の戦士たち』。
  8. ^ a b c d e f g 2017年10月7日放送 ブラタモリ『#86 黒部ダム ~黒部ダムは なぜ秘境につくられた?~』[出典無効]
  9. ^ a b c 黒部ダム[富山県] - ダム便覧”. damnet.or.jp. 一般財団法人 日本ダム協会 (2003年). 2021年7月22日閲覧。
  10. ^ 日本の各電力会社の事業地域」参照。
  11. ^ a b c d 2000年6月27日放送 NHKプロジェクトX 第14回『厳冬黒四ダム 断崖絶壁の輸送作戦』。[出典無効]
  12. ^ はじめての黒部ダム”. 黒部ダムオフィシャルサイト. 関西電力. 2021年7月22日閲覧。
  13. ^ 黒部ダムオフィシャルサイト”. www.kurobe-dam.com. 関西電力. 2021年7月22日閲覧。
  14. ^ a b c d e f g h i j 村串仁三郎「中部山岳国立公園内の黒部第四発電所建設計画と反対運動 : 戦後後期の国立公園制度の整備・拡充(4)」『経済志林』第76巻第4号、法政大学経済学部学会、2009年3月、287-374頁、doi:10.15002/00004879ISSN 00229741NAID 120001645955 
  15. ^ 大阪はガス燈時代 東北六県中国も深刻」『朝日新聞』昭和26年10月6日
  16. ^ 「出力実に二百万キロ 雪解水で三県境開発」『日本経済新聞』昭和25年7月5日3面
  17. ^ 『新聞に見る20世紀の富山 第2巻』(1999年7月30日、北日本新聞社発行)124、127頁。
  18. ^ 『くろよん50周年記念誌』(2014年3月31日、関西電力株式会社北陸支社発行)69頁。
  19. ^ 黒部ダム着工50年水力発電再評価の機運も」『朝日新聞』2006年9月21日。
  20. ^ a b 守田光良, 吉田登「黒部川第四発電所について」『電氣學會雜誌』第85巻第918号、電気学会、1965年、376-383頁、doi:10.11526/ieejjournal1888.85.376ISSN 0020-2878NAID 130003435609 
  21. ^ 2017年10月14日放送 ブラタモリ『#87 黒部の奇跡』
  22. ^ 景観デザインと色彩-ダム、橋、川、街路、水辺』技報堂 平成14年, ISBN 9784765516259
  23. ^ 熊沢伝三「ダム・ハンドレールと景観」『電力土木』233号 p.97-101、1991年7月号, 電力土木技術協会, NAID 40004176979
  24. ^ ダムの書誌あれこれ(50)~ダムの景観~ 5ページ - ダム便覧”. damnet.or.jp. 日本ダム協会. 2021年7月22日閲覧。
  25. ^ 土木学会 令和2年度選奨土木遺産 黒部ダム”. www.jsce.or.jp. 2022年6月9日閲覧。
  26. ^ 交通アクセス”. 黒部ダムオフィシャルサイト. 関西電力. 2021年7月22日閲覧。
  27. ^ 富山県観光・交通・地域振興局 (2017年10月11日). “黒部ルート見学会の一般開放・旅行商品化プロジェクトについて” (PDF). 富山県. p. 4. 2022年4月24日閲覧。 “平成8年度公募定員1,000人でスタート”
  28. ^ 黒部ルート見学会のご案内”. 関西電力 (2022年). 2022年4月24日閲覧。
  29. ^ 黒部ルート見学会”. 富山県 (2022年4月18日). 2022年4月24日閲覧。
  30. ^ 黒部ルート 立山黒部の新しい観光周遊ルート一般開放”. 富山県地方創生局 観光振興室 (2021年4月13日). 2022年4月24日閲覧。
  31. ^ 乗りものニュース編集部 (2018年10月17日). “「黒部ルート」2024年に一般開放へ 関電の物資輸送路が観光ルートに”. 乗りものニュース. メディア・ヴァーグ. 2022年4月24日閲覧。
  32. ^ 迫力の観光放水 黒部ダム公式サイト
  33. ^ 黒部ダムを見る・楽しむ”. 黒部ダムオフィシャルサイト. 関西電力. 2021年7月22日閲覧。
  34. ^ 新展望広場特設会場”. 黒部ダムオフィシャルサイト. 関西電力. 2021年7月22日閲覧。
  35. ^ 黒部ダムレストハウス”. 黒部ダムオフィシャルサイト. 関西電力. 2021年7月22日閲覧。
  36. ^ 黒部湖遊覧船ガルベ”. 黒部ダムオフィシャルサイト. 関西電力. 2021年7月22日閲覧。
  37. ^ 「凍る前に冬ごもり」『読売新聞』朝刊2020年11月17日(社会面)
  38. ^ 湖畔遊歩道”. 黒部ダムオフィシャルサイト. 関西電力. 2021年7月22日閲覧。
  39. ^ a b 昭文社 山と高原地図36 剱・立山
  40. ^ 沢増水、登山道寸断『朝日新聞』1976年8月15日朝刊、13版、19面
  41. ^ 世界遺産登録に尽力した加藤康子内閣官房参与」(47NEWS
  42. ^ 世界遺産暫定一覧表候補の文化資産”. www.bunka.go.jp. 我が国の世界遺産暫定一覧表への文化資産の追加記載に係る調査・審議の結果について. 文化庁 (2008年9月26日). 2021年7月22日閲覧。
  43. ^ 日本放送協会『厳冬 黒四ダムに挑む〜断崖絶壁の輸送作戦〜 - 新プロジェクトX〜挑戦者たち〜https://www.nhk.jp/p/ts/P1124VMJ6R/episode/te/34X3X7733Z/2024年4月27日閲覧 
  44. ^ サントリーコーヒー「BOSS」新TV-CM「宇宙人ジョーンズ・宇宙人からのアドバイス」篇 公開 | ニュースリリース一覧”. サントリー食品インターナショナル. 2021年7月22日閲覧。
  45. ^ “宇宙人ジョーンズ”中島みゆきの名曲「地上の星」に男泣き”. ORICON NEWS (2008年8月21日). 2021年7月22日閲覧。






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