航空事故
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/08 13:12 UTC 版)
概要
航空事故についての定義は様々であるが、日本の航空法では「航空機の墜落、衝突又は火災」、「航空機による人の死傷又は物件の損壊」、「航空機内にある者の死亡(自然死等を除く)又は行方不明」、「他の航空機との接触」「航行中の航空機が損傷(発動機等のみの損傷を除く)を受けた事態」と定義されている[1]。この定義に基づいた場合、単純に不時着をしただけで機体に大きな損傷がないときはいずれの要件にも該当しないため、重大インシデント扱いとなり航空事故扱いにならない[2]場合や、通常の着陸の衝撃で骨折しただけでも「航空機による負傷」の要件を満たすために航空事故となる[3]場合がある。
発生確率
航空事故を引き起こすリスク、事故確率の多寡は、航空会社や、その運航地域によって異なる。また(大雑把な傾向としては)先進国では低く、経済的な余裕のない発展途上国では高い傾向が見られる[4]。だが国によって決まるのではなく、各航空会社、一社一社ごとに大きく異なる。
アメリカの国家運輸安全委員会 (NTSB) の行った調査では、航空機に乗って死亡事故に遭遇する確率は0.0009%である[5]。米国内で自動車に乗って死亡事故に遭遇する確率は0.03%なので、その33分の1以下の確率となる[5]。
NTSBによる1983年から2000年にかけての航空事故データ集計によれば、航空事故における死亡率が最も低いのは1998年の飛行距離100万マイルあたりの死亡率0.0001%である[6]。下記に見るように、飛行時間、飛行距離、出発回数(departure、便数)ごとに割合は異なる。
10万飛行時間あたりの事故発生率 | 0.146%(1992年)〜0.315%(1983年) |
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10万飛行時間あたりの死亡率 | 0.006%(1998年)〜0.098%(1989年) |
飛行距離100万マイルあたりの事故発生率 | 0.0036%(1992年)〜0.0076%(2000年) |
飛行距離100万マイルあたりの死亡率 | 0.0001%(1998年)〜0.0024%(1989年) |
10万出発回あたりの事故発生率 | 0.228%(1992年)〜0.475%(1997年) |
10万出発回あたりの死亡率 | 0.009%(1998年)〜0.144%(1989年) |
日本の文部科学省による1983年~2002年の国内事故統計に基づく推計では、今後30年以内に航空機事故で死亡する確率は0.002%で、交通事故で死亡する確率(0.2%)の100分の1以下となった[5]。
航空事故における輸送実績1億人キロあたりの死亡乗客数は0.04人である[7]。これは東京─ニューヨーク間約1万キロを12万5,000回往復して死亡事故に遭う確率となり、週に1度往復したとすると2,404年に1度という計算になる[7]。また、10万飛行時間あたりの死亡事故件数は0.07件であり、これは飛行時間10時間のホノルル─福岡間を14万3,000回往復して事故に遭う確率となり、週に1度往復したとすると2,750年に1度という計算になる[7]。
航空事故の死者数と自動車事故による死者数を比較すると、自動車事故が航空事故を遥かに上回る。1998年の全世界での航空事故による死亡者数は909人であった[7]。これに対して米国の自動車事故による死亡者数は41,967人(1997年)、日本の自動車事故死は10,805人(1998年)、ドイツの自動車事故死は8,547人(1997年)、フランスの自動車事故死は7,989人(1997年)であり、国際航空運送協会広報部長I・グラードは「米国1国の車による1年間だけの死者の数でも、ライト兄弟が初飛行に成功して以来の航空機事故の死者よりも多い」と述べている[7]。
2005年の航空事故による死者数は1015人だった[8]。
オランダの航空事故調査機関アビエーション・セーフティー・ネットワークによれば、2015年の航空機事故は560件、死亡事故は16件であった[9]。これは485万7000回に1件の確率であり、1日1回飛行機に乗ったとして1万306年に1回の可能性となる[9]。
2017年の死亡事故は地域間ターボプロップ機の2件、死者は13人、旅客機の死亡事故はゼロで、航空業界の記録上最も安全な年となった[8]。
2019年は航空事故件数86件、うち死亡事故8件、死者数は257人だった[10][8]。
2020年は運航数が前年比42%減少したが、航空事故件数は40件、うち死亡事故は5件、死者数は299人だった[10][8]。半数以上がイラン軍によるウクライナ国際航空752便撃墜事件での犠牲(死者176人)で、5月のパキスタン国際航空8303便墜落事故では98人が死亡した[8]。
オランダの航空コンサルティング会社To70によれば、大型飛行機の死亡事故率は100万便あたり0.27件で、これは370万回の飛行回数ごとに1回の割合である[10]。
こうしたことから、航空機は様々な交通手段の中でも最も安全な手段のひとつとされる[5]。ただし、事故の最大要因が人的要因であること、ダイヤの過密化、航空機の大型化などを考慮すると、将来における航空機事故による人的被害の大幅な減少は期待できないとも指摘されている[11]。
- 安全度ランキング
2023年1月にAirline Ratingsが発表した「世界で最も安全な航空会社20社(2023年版)」では、以下の航空会社がランクインした[12]。
- カンタス航空
(ワンワールド) - ニュージーランド航空
(スターアライアンス) - エティハド航空
- カタール航空
(ワンワールド) - シンガポール航空
(スターアライアンス) - TAPポルトガル航空
(スターアライアンス) - エミレーツ航空
- アラスカ航空
(ワンワールド) - エバー航空
(スターアライアンス) - ヴァージン・グループ
- キャセイパシフィック航空
(ワンワールド) - ハワイアン航空
- スカンジナビア航空
(スターアライアンス) - ユナイテッド航空
(スターアライアンス) - ルフトハンザドイツ航空
(スターアライアンス)- スイス国際航空
(スターアライアンス)
- スイス国際航空
- フィンエアー
(ワンワールド) - ブリティッシュ・エアウェイズ
(ワンワールド) - KLMオランダ航空
(スカイチーム) - アメリカン航空
(ワンワールド) - デルタ航空
(スカイチーム)
航空事故はさまざまな要因が複合して事故に至るものであり、多くの航空機や人命を失った航空会社に安全性の問題があるとは必ずしも言い切れない。たとえば一機の事故としては史上最多の死者を出した日本航空123便墜落事故の場合、その原因は過去に製造元が機体に施した修理のミスだった(異論も存在、当該項を参照のこと)。また、アメリカ同時多発テロ事件においてはハイジャックにより4機が犠牲になった。
事故の原因
航空事故の原因には、不適切な修理、空中分解・急減圧、空間識失調、CFIT、エンジントラブル、機体の設計ミス、地上・空中衝突事故、機内火災、燃料切れ、乗務員の自殺(自殺未遂)・精神異常(日本航空350便墜落事故等)、機体の爆発、爆破テロ、撃墜などがある。
航空事故のおよそ8割は、飛行機が離陸・上昇を行う際と進入・着陸を行う際の短い時間帯に起こっている。このなかでも「離陸後の3分間」と「着陸前の8分間」の「クリティカル・イレブン・ミニッツ (魔の11分)」と呼ばれる時間帯に事故は集中している。巡航中に発生する事故も少なくはない。 事故原因の大半は、人為的なミス(操縦ミス、判断ミス、故意の操作ミス、定められた手順の不履行、正しくない地理情報に基づいた飛行、飲酒運転による過失など)、または機械的故障(構造的欠陥、製造不良、整備不良、老朽化など)に端を発するものとなっている。
航空事故を専門に追跡する planecrashinfo.com が1950年から2004年までに起った民間航空事故2147件を元に作った統計によると[13]、事故原因の内訳は以下の通りとなっている。
- 37% - 操縦ミス
- 33% - 原因不明
- 13% - 機械的故障
- 7% - 天候
- 5% - 破壊行為(爆破、ハイジャック、撃墜など)
- 4% - 操縦以外の人為的ミス(不適切な航空管制・不適切な荷積・不適切な機体整備、燃料の汚濁、不適切な言語(言葉の選択、表現)、意思疎通の不良、操縦士間の人間関係の不良など)
- 1% - その他
またボーイングが行っている航空事故の継続調査によると[14]、1996年から2005年までに起こった民間航空機全損事故183件のうち、原因が判明している134件についての内訳は以下の通りとなっている。
- 55% - 操縦ミス
- 17% - 機械的故障
- 13% - 天候
- 7% - その他
- 5% - 不適切な航空管制
- 3% - 不適切な機体整備
なお主要原因を経年で分析すると、「操縦ミス」は1988年 - 1997年期には70%もあり、過去20年間に着実に改善されてきてはいるが、依然として航空事故原因のほぼ半数を占めている。
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機械的故障のため前輪が横向きに固定されてしまい、緊急着陸を決行するエアバスA320(詳細は「ジェットブルー航空292便緊急着陸事故」を参照)
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部品脱落のため燃料タンクが破損し機体火災を起こしたボーイング737-800(詳細は「チャイナエアライン120便炎上事故」を参照)
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製造段階から部品が欠落していたため、車輪が出なくなり胴体着陸を余儀なくされたボンバルディア Q400(詳細は「全日空機高知空港胴体着陸事故」を参照)
注釈
出典
- ^ 航空法第76条、航空法施行規則第165条の2、第165条の3
- ^ “【速報】国交省は「航空事故」と判断 運輸安全委員会19日現地調査 海上保安庁の小型飛行機不時着 大分”. TBS News DEG. 2023年4月閲覧。
- ^ “航空事故・重大インシデントの概要とその対策”. 日本航空. 2023年4月閲覧。
- ^ Fatal Events and Fatal Event Rates of Airlines
- ^ a b c d 「航空機・列車における重大事故リスクへの対応」「リスクマネジメント最前線」2014,No 2, 東京海上日動リスクコンサルティング,p.5
- ^ a b 以下、Survivability of Accidents Involving Part 121 U.S. Air Carrier Operations, 1983 Through 2000 , Safety Report NTSB/SR-01/01 March 2001 PB2001-917001 Notation 7322 ,pp.2-3.
- ^ a b c d e 秋本俊二「数字に見る航空機事故の確率」2001年07月16日,ALL ABOUT.及び同記事における杉浦一機『知らないと損するエアライン〈超〉利用術』(平凡社新書,2001年)内容紹介
- ^ a b c d e 「2020年航空機事故死者が299人に増加、運航本数は激減=民間調査」ロイター2021年1月4日
- ^ a b 橋賀秀紀「重大航空事故に遭遇する確率は? 最新統計ではわずか468万分の1!」CREA2016.8.15,文藝春秋. Aviation Safety Network,https://www.jacdec.de
- ^ a b c Adrian Young ,A DIFFERENT OPERATIONAL SCENARIO, SOME OF THE SAME OLD PROBLEMS: 2020 IN REVIEW,1 JAN,To70.
- ^ 米満孝聖「世界の旅客航空機事故による人的被害」国際交通安全学会誌 Vol.27,No.3 ,2002年11月,p51.
- ^ Christine Wells (2023年1月3日). “Top Twenty Safest Airlines 2023”. Airline Ratings. 2023年12月21日閲覧。
- ^ planecrashinfo.com による統計
- ^ ボーイング社による航空事故統計
- ^ 小学館ランダムハウス英和大辞典第二版より。この場合のTin(錫)は金属の代名詞
- ^ a b “2024年1月2日に東京国際空港で発生した航空機事故に関する緊急声明 / Urgent Statement for the Aircraft Accident at Tokyo International Airport on JAN 02, 2024 | 航空安全推進連絡会議”. jfas-sky.jp. 2024年1月4日閲覧。
- ^ FAA FIlm on crash safety tests, circa 1963. [1] From the archives of the San Diego Air and Space Museum[2]
- ^ 好奇心の扉:航空機事故は解明できるのか? | ディスカバリーチャンネル
- ^ Sandia National Laboratories: Sled Track
- ^ “航空:航空安全対策 - 国土交通省”. www.mlit.go.jp. 2023年4月2日閲覧。
- ^ “令和4年交通安全白書(全文) - 内閣府”. 内閣府ホームページ. 2023年4月2日閲覧。
- ^ “空の日記念/航空安全特別大祈祷会を厳修 – 大本山成田山新勝寺”. www.naritasan.or.jp. 2023年4月2日閲覧。
- ^ “穴守稲荷、「空の日」に航空安全祈願祭復興 航空会社も参列”. Aviation Wire. 2023年4月2日閲覧。
- ^ 八幡市観光協会, 一般社団法人. “一般社団法人 八幡市観光協会”. 一般社団法人 八幡市観光協会. 2023年4月2日閲覧。
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