航空事故
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/30 23:57 UTC 版)
事故調査
航空機事故の再発防止のためには、徹底した原因究明が欠かせない。事故によっては、数年の歳月と巨額の資金を費やしてまで「なぜ」が追及される。
中立な立場からの事故調査を徹底するため、多くの国家では専門の事故調査機関を設置している。
調査官は残骸の散乱した現場を歩き回り、証拠品を回収することから『Tin Kincer』とも呼ばれる[15]。
国際民間航空機関(ICAO)ではシカゴ条約の批准国に対し、事故調査は再発防止を目的としており明らかな犯罪の証拠を除き事故調査の結果を刑事捜査や裁判に利用することを禁じている[16]。
アメリカ合衆国
そうした中でもアメリカ国家運輸安全委員会 (NTSB) は、長年の経験と深い専門知識から航空事故調査の権威として位置づけられており、各国の事故調査や航空行政に対しても大きな影響力を持つ存在となっている。
NTSBによる事故の調査結果は、その信頼性を高めるため報告書として一般公開されることが原則となっており、しかもこれを民事訴訟で証拠として採用することは法律で禁じられている。理由は当事者からの証言を得やすくするためであり、また、NTSBを法廷闘争に巻き込まないようにするためでもある。ただし、事故の分析、原因、勧告などを除いた「事実背景」については証拠採用が認められている。なお刑事訴訟での使用については特に規定がなく、過去には証拠採用された判例もある。
そもそもアメリカでは「故意の破壊行為」またはそれに近い「認識ある過失」がない限り、事故機の操縦や整備に関わっていた個人に対しては刑事責任や民事責任を問わないことが原則となっている。これも(自己負罪拒否特権を外すことにより)当事者からの証言を得やすくするためである。
ただし、事故を起こした航空会社が司法による犯罪捜査から免責されているわけではない。また、個人に刑事責任を問わないのは雇用者である航空会社が個人の責任と補償を請け負うことがそもそもの前提になっているからであり、原因究明と再発防止こそが至上課題という姿勢が明確に現れている。また個人に対して刑事責任が問われないといっても、問題を起こした個人が当該職務から外されることはありうる。
日本
日本では、1974年から国土交通省の審議会のひとつである航空・鉄道事故調査委員会(事故調)が、事故原因の究明や事故防止に必要な研究を行ってきたが、2008年10月1日に旧来の海難審判庁の船舶事故の原因究明事務と統合されて、新たに国土交通省の外局である運輸安全委員会が発足した。
その目的は、航空事故等の原因並びに航空事故に伴い発生した被害の原因を究明するための調査を適確に行うとともに、これらの調査の結果に基づき国土交通大臣又は原因関係者に対し必要な施策又は措置の実施を求めることである(運輸安全委員会設置法第1条)。
運輸安全委員会は調査官を派遣して、航空機の使用者・搭乗員・事故における救助者など航空事故における関係者から事情を聴取・質問し、関係物件等の留置・保全、立ち入りの禁止などの措置をとることができる(運輸安全委員会設置法13条)。運輸安全委員会の調査と、警察官・検察官による捜査は、通常同時並行的に行われるが、法制度上はそれぞれ目的を異にする独立の手続である。
刑事責任を追及するための事故調査を主導するのは警察と検察であり、調査対象は事故機の操縦や整備に関わっていた個人が、業務上過失致死罪・業務上過失傷害罪・重過失致死傷罪など、刑事処罰の対象になるか否かという点に重点を置くため、当事者や関係者の黙秘権が行使されやすい。日本はICAO批准国でありながら、警察主導の捜査や事故報告書の目的外使用などにより、事故原因の究明や再発防止に支障来していると指摘されている[16]。
これに対し、運輸安全委員会の調査は、事故の再発防止などに重点を置く行政手続であるため、調査官の処分権限は「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と法律で明記されている(運輸安全委員会設置法第13条5項)。
航空事故調査には欠かせないフライトデータレコーダー(飛行状況記録機、FDR)と コックピットボイスレコーダー(操縦室音声記録機、CVR)は、日本では1966年の全日空羽田沖墜落事故の際に、経路追跡などができず原因不明となったことを教訓に、全ての旅客機に搭載が義務づけられた。
注釈
出典
- ^ 航空法第76条、航空法施行規則第165条の2、第165条の3
- ^ “【速報】国交省は「航空事故」と判断 運輸安全委員会19日現地調査 海上保安庁の小型飛行機不時着 大分”. TBS News DEG. 2023年4月閲覧。
- ^ “航空事故・重大インシデントの概要とその対策”. 日本航空. 2023年4月閲覧。
- ^ Fatal Events and Fatal Event Rates of Airlines
- ^ a b c d 「航空機・列車における重大事故リスクへの対応」「リスクマネジメント最前線」2014,No 2, 東京海上日動リスクコンサルティング,p.5
- ^ a b 以下、Survivability of Accidents Involving Part 121 U.S. Air Carrier Operations, 1983 Through 2000 , Safety Report NTSB/SR-01/01 March 2001 PB2001-917001 Notation 7322 ,pp.2-3.
- ^ a b c d e 秋本俊二「数字に見る航空機事故の確率」2001年07月16日,ALL ABOUT.及び同記事における杉浦一機『知らないと損するエアライン〈超〉利用術』(平凡社新書,2001年)内容紹介
- ^ a b c d e 「2020年航空機事故死者が299人に増加、運航本数は激減=民間調査」ロイター2021年1月4日
- ^ a b 橋賀秀紀「重大航空事故に遭遇する確率は? 最新統計ではわずか468万分の1!」CREA2016.8.15,文藝春秋. Aviation Safety Network,https://www.jacdec.de
- ^ a b c Adrian Young ,A DIFFERENT OPERATIONAL SCENARIO, SOME OF THE SAME OLD PROBLEMS: 2020 IN REVIEW,1 JAN,To70.
- ^ 米満孝聖「世界の旅客航空機事故による人的被害」国際交通安全学会誌 Vol.27,No.3 ,2002年11月,p51.
- ^ Christine Wells (2023年1月3日). “Top Twenty Safest Airlines 2023”. Airline Ratings. 2023年12月21日閲覧。
- ^ planecrashinfo.com による統計
- ^ ボーイング社による航空事故統計
- ^ 小学館ランダムハウス英和大辞典第二版より。この場合のTin(錫)は金属の代名詞
- ^ a b “2024年1月2日に東京国際空港で発生した航空機事故に関する緊急声明 / Urgent Statement for the Aircraft Accident at Tokyo International Airport on JAN 02, 2024 | 航空安全推進連絡会議”. jfas-sky.jp. 2024年1月4日閲覧。
- ^ FAA FIlm on crash safety tests, circa 1963. [1] From the archives of the San Diego Air and Space Museum[2]
- ^ 好奇心の扉:航空機事故は解明できるのか? | ディスカバリーチャンネル
- ^ Sandia National Laboratories: Sled Track
- ^ “航空:航空安全対策 - 国土交通省”. www.mlit.go.jp. 2023年4月2日閲覧。
- ^ “令和4年交通安全白書(全文) - 内閣府”. 内閣府ホームページ. 2023年4月2日閲覧。
- ^ “空の日記念/航空安全特別大祈祷会を厳修 – 大本山成田山新勝寺”. www.naritasan.or.jp. 2023年4月2日閲覧。
- ^ “穴守稲荷、「空の日」に航空安全祈願祭復興 航空会社も参列”. Aviation Wire. 2023年4月2日閲覧。
- ^ 八幡市観光協会, 一般社団法人. “一般社団法人 八幡市観光協会”. 一般社団法人 八幡市観光協会. 2023年4月2日閲覧。
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