盾 主な盾

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/23 10:46 UTC 版)

主な盾

西洋

スクトゥム(scutum)
古代ローマ時代、ローマの軍団兵に用いられた大型の盾。ローマ軍の歩兵戦術で重要な要素を担った。本来は戦争用であるが、一部の剣闘士は試合で使用している。
「スクトゥム(scutum)」とはラテン語で「盾」を意味する。
バックラー(Buckler
相手に突きつけるように構える小型の盾。中型の盾とは異なった技術を要する。13世紀に書かれた西洋剣術の最も古いテキスト『ワルプルギスの剣術書』はバックラーとブロードソードの扱いを述べている。
レピア(レイピア)の時代に入っても好まれた息の長い防具である。中心に長いスパイクをつけたスコットランドの物はタージュと呼ばれる。レピアが使われた時代の物は太い針金をリング状にした物をつけたバックラーが見られる。これはソードブレイカーで、リング状部分で相手の剣を絡め折り取る。
カイト・シールド (Kite shield)
11世紀から13世紀にかけてヨーロッパ・中東で広く用いられた盾。騎乗兵士用に製作された盾と考えられており、上下に長い形をしている。ノルマン・コンクエストを描いた絵巻物バイユーのタペストリーに多数のカイト・シールドが描かれていることから、ノルマン人の盾として有名である。
ランタン・シールド(Lantern shield)
これは盾と篭手、腕鎧が一つになり、ダガー、戦闘には不要なはずのランタンまでもなぜかついていた(当該項の説明にあるように、夜間接近戦の際に光で相手の目を眩ますためだったとされている)。
原形はおそらくプレートアーマーの肘を大きく強化し盾の代用としたグリニッジ甲冑。甲冑が発達すると盾はトーナメントの際の紋章(看板がわり)と馬上鎗試合用のスポーツプロテクターとなった。左の胸に固定され、中には演出のために槍が当たるとバネで盾が飛散する仕掛けのものもあった。
デュエリング・シールド(Dueling shield)
ソードシールドやスパイクシールドとも呼ばれる大形の盾。棒術に使う棒に盾が付いたようなデザインで、両端はフックやスパイクになっている。扱うのに広い場所を要し、複数対複数の戦争には向かないため、裁判決闘に使われた。

アジア

ティンベー
海亀の甲羅で出来た盾。ローチンと呼ばれる短い鉾と合わせて使われる[12]
団牌(だんぱい)
円形の盾全般。別名、蛮牌。右手に刀を持って使われる。また、模様は太極図八卦、虎の顔や鬼の顔なども描かれている。
籐牌(とうはい)
団牌の一種で籐などのかずらで籠のように編んだもの。籐とはラタンのことである。軽くて丈夫であったが突きや矢には弱い。
大袖(おおそで)
厳密には鎧を構成する備品であり、両肩に吊り下げられた。側面の保護する役目があったが、しばしば正面に向けることで弓矢に対する盾として用いられた。白兵戦にも対応した。
陣笠(じんがさ)
元来は簡易として作られた鍛鉄を紐を持って円形手盾として使用する。戦国時代以降鎧を着込む「甲冑術」には陣笠を積極的に利用する陣笠術も含まれる。
木慢
竹束 (たけたば)
竹で作った盾、攻城兵器に近い。

中南米

板状方形の木盾にキルティングを施したなめした毛皮で被い長く垂らし、頭部や胸部は木盾で、その布地部分でカーテンの原理で下方から攻める敵刃を逸らして防いだ。マカナと呼ばれる剣やホルカンカと呼ばれる槍と一対で装備されることが多い。

神話・伝説の盾

アイギス
ギリシア神話アテーナーの盾。現代英語でイージス
アキレウスの盾
ギリシア神話トロイア戦争ヘーパイストスがアキレウスに与えた盾。
スヴェル
北欧神話で名前と短い神話のみが伝わっている楯。
白楯
日本書紀』の一書に、「天神 大己貴神(大国主)にして180縫の白楯を造らしめた」という記事がある。また、赤盾・黒盾の他、「天石盾」などの名称があるが、材質は不明[13]

注釈

  1. ^ 鳥取県文化財保護センターの復元では、長さ約120センチ、モミの木製。
  2. ^ 一例として、奈良県田原本町の保津・宮古遺跡出土の木製楯は3世紀後半のもので、長さ98センチ、幅65センチで、材質はオニグルミ製。直径1ミリ前後の無数の穴があることから糸で通して飾りを施し、置き盾として祭祀に用いられたと考えられている。形状については、湾曲していたものとみられる。ただし、その薄さから革製との指摘もある
  3. ^ 物部氏が奉納した鉄盾が著名(一族の威力を示す儀礼用盾とも)
  4. ^ 岩戸山古墳(6世紀前半)、高さ70センチ、中心には靭のような刻みがある
  5. ^ 古事記』には、崇神天皇記の記述として、赤の盾と矛を宇陀の墨坂神に、黒の盾と矛を大阪の神に祀って疫病の流行を防いだとある。大和国の東西の入口を防御する意味があったと捉えられている。
  6. ^ 熊本県三角町小田良古墳(6世紀後半)
  7. ^ 研究者による呼称は「石見型盾」だが、盾ではないという見解も強まり、現在、「石見型木製品」と呼称される
  8. ^ 盾の鉤形模様は、敵兵の霊を引っ掛ける意味があったとする説(佐野大和説)もある
  9. ^ ただし、投石や弓矢など対飛道具用の危急の際に作る盾として、鞘など棒の先に陣羽織などをぶら下げる「野中の幕」があり(諸流派の巻物に記述がある)、母衣と同様、からめとる原理である。
  10. ^ 太平記』巻二に持(手)盾の記述があり、また『法然上人絵伝』には四角の木盾を持った武者が館に攻め入る姿が見られるなど、使用例はある。17世紀の事例になるが『島原陣図屏風』(斎藤秋圃作、秋月郷土館蔵)には、石垣を登る幕府軍に手盾をもった兵の姿が描かれている。
  11. ^ 例として、パプワニューギニアの部族の盾は防具であると同時に攻撃するための武器でもあった。参考・『埼玉県鶴ヶ島市寄贈 オセアニア民族造形美術品展』 早稲田大学會津八一記念博物館 2011年 p.45.高さは152cmから179cmと大き目である(pp.47 - 48)。

出典

  1. ^ 『漆で描かれた神秘の世界 中国古代漆器展』 東京国立博物館 1998年 p.63
  2. ^ 陳舜臣 『中国の歴史 (二)』 講談社文庫 (11刷)1997年 p.24
  3. ^ 尹錫暁著 兼川晋訳 『伽耶国と倭地 韓半島南部の古代国家と倭地進出』 新泉社 新装版2000年(初版1993年) p.89.
  4. ^ 『田原本町埋蔵文化財調査年報6 1996年度』
  5. ^ 『神社有職故実』86頁 昭和26年7月15日 神社本庁発行。
  6. ^ 歴史発掘⑨ 『埴輪の世紀』 1996年
  7. ^ [pref.kagoshima.jp/ab23/reimeikan/siroyu/documents/6757_20161022153039-1.pdf 隼人の楯に関する基礎的考察 76P]
  8. ^ 日本の古代5 森浩一編 『前方後円墳の世紀』 1986年 中央公論社 p.320
  9. ^ 近藤好和『騎兵と歩兵の中世史』吉川弘文館・歴史文化ライブラリー、25頁
  10. ^ 参考・『歴史人 5 2013』 pp.95 - 97
  11. ^ 『神社有職故実』86頁中昭和26年7月15日神社本庁発行。
  12. ^ ティンベー術琉球古武術保存振興会)
  13. ^ 『石上神宮寶物誌』 p.54。


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