盾
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/11 01:41 UTC 版)
盾の文化
攻撃を象徴する刀剣に対し、盾は防御の象徴として用いられる。マケドニアに代表されるファランクスは長い槍と盾を重ね合わせて隊列を作る密集部隊であった。兵士は自分だけでなく横に並んだ戦友の右半身を盾で守ることにより、部隊全体として完全に死角をなくす必要があった。したがって個人を守る鎧兜をなくす事より、仲間を守る盾をなくす事の方がはるかに不名誉な事とされた。また、「盾に担がれて凱旋する」は名誉の戦死を遂げた者が盾に乗せられ仲間に担がれたことを意味する。
現代の盾
- 防弾盾
- 警察や軍隊の特殊部隊で見られる装備で、盾を使用する場合は突入班の前衛がこれを使う。防弾ガラスの覗き窓がついているものも多く、製品によってはライトも装着されている。拳銃などを射撃できるようにピストルポートがついたものもあるが、銃付き盾自体は15世紀には見られる。盾はその材質や形状で防弾性に差異がある。
- ライオットシールド
- ジュラルミンやポリカーボネート製の手盾。主に警察で暴動鎮圧用として使用されているもの。投石による受傷を防ぐことに力点が置かれており、防弾機能はないのが一般的。
- 籐細工の盾
- 東南アジア諸国の暴動鎮圧部隊で使用。デモ参加者を傷つけないためのもの。
盾の利点・欠点
盾の利点、主な使い方
- 敵の弓や投石などの遠距離攻撃を防げる。
- 硬さや重量を活かし、盾の面や端の部分で殴る・斬りつける[注釈 11]、体当たりに使う、攻撃を逸らす、敵の視界を塞ぐ、動きの始点を抑える等、敵の制圧に用いる。
- 目立つ装備であることは、多くの心理的な効果が見込める。利用する側は守られていることによる士気向上が、一方の利用される側は、警察や軍隊であることをアピールする盾に威圧され、士気低下が見込める。
- 敵味方の識別。盾は大きく目立つため、その形状を見ることで遠方からでも軍勢や所属がはっきりする。同士討ちを防ぐ効果が期待できた。
盾の欠点
- 遠距離攻撃を防げるが、遠距離攻撃の威力と盾の強度次第では有効ではないこともあるし、槍や矢が刺さった盾は重量増加や刺さった物が盾の動きを阻害し、使いにくくなるため適宜放棄される。古代ローマの投槍『ピルム』など、相手の盾の利用を妨害することを目的とした武器が存在する。
- 手持ちの盾は片腕を塞がれるため、重量のある武器や、反動の大きい大型の銃を使えない。ただしこれは、肩盾で対応したり、銃の普及以前の戦闘においては、攻撃力の低下を必ずしも意味しない。
- 大型盾は必然的に多くの死角が生まれる。素材の進歩した現代では、完全に透明のシールドや、持ち手側からだけ透明に見えるシールドが用いられることもある。
脚注
注釈
- ^ 鳥取県文化財保護センターの復元では、長さ約120センチ、モミの木製。
- ^ 一例として、奈良県田原本町の保津・宮古遺跡出土の木製楯は3世紀後半のもので、長さ98センチ、幅65センチで、材質はオニグルミ製。直径1ミリ前後の無数の穴があることから糸で通して飾りを施し、置き盾として祭祀に用いられたと考えられている。形状については、湾曲していたものとみられる。ただし、その薄さから革製との指摘もある
- ^ 物部氏が奉納した鉄盾が著名(一族の威力を示す儀礼用盾とも)
- ^ 岩戸山古墳(6世紀前半)、高さ70センチ、中心には靭のような刻みがある
- ^ 『古事記』には、崇神天皇記の記述として、赤の盾と矛を宇陀の墨坂神に、黒の盾と矛を大阪の神に祀って疫病の流行を防いだとある。大和国の東西の入口を防御する意味があったと捉えられている。
- ^ 熊本県三角町小田良古墳(6世紀後半)
- ^ 研究者による呼称は「石見型盾」だが、盾ではないという見解も強まり、現在、「石見型木製品」と呼称される
- ^ 盾の鉤形模様は、敵兵の霊を引っ掛ける意味があったとする説(佐野大和説)もある
- ^ ただし、投石や弓矢など対飛道具用の危急の際に作る盾として、鞘など棒の先に陣羽織などをぶら下げる「野中の幕」があり(諸流派の巻物に記述がある)、母衣と同様、からめとる原理である。
- ^ 『太平記』巻二に持(手)盾の記述があり、また『法然上人絵伝』には四角の木盾を持った武者が館に攻め入る姿が見られるなど、使用例はある。17世紀の事例になるが『島原陣図屏風』(斎藤秋圃作、秋月郷土館蔵)には、石垣を登る幕府軍に手盾をもった兵の姿が描かれている。
- ^ 例として、パプワニューギニアの部族の盾は防具であると同時に攻撃するための武器でもあった。参考・『埼玉県鶴ヶ島市寄贈 オセアニア民族造形美術品展』 早稲田大学會津八一記念博物館 2011年 p.45.高さは152cmから179cmと大き目である(pp.47 - 48)。
出典
- ^ 『漆で描かれた神秘の世界 中国古代漆器展』 東京国立博物館 1998年 p.63
- ^ 陳舜臣 『中国の歴史 (二)』 講談社文庫 (11刷)1997年 p.24
- ^ 尹錫暁著 兼川晋訳 『伽耶国と倭地 韓半島南部の古代国家と倭地進出』 新泉社 新装版2000年(初版1993年) p.89.
- ^ 『田原本町埋蔵文化財調査年報6 1996年度』
- ^ 『神社有職故実』86頁 昭和26年7月15日 神社本庁発行。
- ^ 歴史発掘⑨ 『埴輪の世紀』 1996年
- ^ [pref.kagoshima.jp/ab23/reimeikan/siroyu/documents/6757_20161022153039-1.pdf 隼人の楯に関する基礎的考察 76P]
- ^ 日本の古代5 森浩一編 『前方後円墳の世紀』 1986年 中央公論社 p.320
- ^ 近藤好和『騎兵と歩兵の中世史』吉川弘文館・歴史文化ライブラリー、25頁
- ^ 参考・『歴史人 5 2013』 pp.95 - 97
- ^ 『神社有職故実』86頁中昭和26年7月15日神社本庁発行。
- ^ ティンベー術 (琉球古武術保存振興会)
- ^ 『石上神宮寶物誌』 p.54。
盾と同じ種類の言葉
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