相鉄8000系電車 概要

相鉄8000系電車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/29 07:23 UTC 版)

概要

老朽化した6000系の置き換えを目的に、「21世紀になっても通用する車両」をコンセプトに開発された。

内外装ともに従来の車両とは大きく変化したが、直角カルダン駆動方式、外から見えるディスクブレーキなどの特徴は、従来の相鉄通勤車と同様の特徴を残している。製造は日立製作所が担当した。

1990年(平成2年)12月に営業運転を開始[1]し、以後1999年(平成11年)までに10両編成13本(130両)が登場し、6000系を順次置き換えた。1993年の9000系登場後も、並行して本系列の増備が進められた。

車両概説

この節では主に製造当初の状態を示す。

車体

旧塗装の頃の8000系(2008年10月4日)

アルミニウム合金製で、20m級4ドア車で、2,930mm幅の拡幅車体とした。また、全編成が10両貫通編成で導入され、幅広の車体とともに乗客の増加に対応できるように配慮されている[注 1]

外観は「ダイナミックでシャープな近代的イメージ」をコンセプトにしている。前面は従来の切妻形のデザインを一新して「く」の字型となり、曲線を多用し左右非対称の立体感のあるデザインを採用し、従来車両のイメージとは一変している。ライト類の配置も一新され、前照灯は車体中央下部に、尾灯は車体上部に設置された[注 2]。車体と一体感のある白色の排障器の採用などは後の9000系にも影響を与えている。

配色としては、前面はオフ・ブラックでシンプルにまとめ、警戒色の赤を左右非対称に配することでアクセントとした[1]。周囲はスカートを含め白とすることで一体感を演出している[1]。側面は地の色を活かしたクリア塗装が施されており、赤・白の帯を車体下部に配色しスピード感を表現し[1]、また先頭部側面で縦帯に変化させることで新しさと力強さを表現している[1]

車体側面の表示は従来は「急行」や「各停」といった列車種別だけであったのに対し、本系列は相鉄で初めて行き先の駅名を表示した。字幕の車両では種別と行き先が別々に表示されるが、LED表示の編成は一つの表示器でまとめて表示される。

屋根上には登場当初から集中式冷房装置を搭載しており、従来搭載していたベンチレーター(通風器)は本系列以降は搭載されていない。

車内設備

蛍光灯の数が多いこと、白色の化粧板を多用していることにより、車内は従来車両よりもかなり明るく、設計段階で「走る応接室」をコンセプトに目指したとも言われている[2]。化粧板は従来は金属むき出しであった客室扉内側や連結面の貫通扉など細かい部分にも使われており、統一感を出したものとなっている。新7000系と同様、床には駆動装置点検蓋が設けられている。

座席はロングシートを基本とするが、新7000系で試験的に採用されたセミクロスシートが本格的に採用されており、各編成の5号車と8号車に組み込まれている。新7000系のものよりもシートピッチが50mm広げられている。編成内でのセミクロスシート車の位置は新7000系最終増備編成と変わらず、同じ設備を持つ9000系も同じである。7人掛けのロングシートはオレンジ色を基調とし、3+1+3人分に色分けされて着席区分を明確化している。また、従来の車両同様、側窓は下降式1枚で電気指令油圧式自動窓を採用した。自動窓は、乗務員室からの操作で全ての窓を一斉に昇降することが可能である。

客用案内設備として、LEDにより文字を表示するタイプの案内装置が設置され、行先や次の停車駅のほか文字広告の表示も可能。

妻引戸はモハ8100形の海老名方のみに設置されている[1]

走行機器

制御装置は日立製でPWM方式のGTO-VVVFインバータを採用した[3]。これらは新7000系と同様だが、本系列では4500V/3600Aの大容量素子を使用することで[3]1C8M制御[注 3]となっている[3]回生ブレーキを備える[3]。形式はVF-HR128[3]。後述の機器更新により、5次車以降は日立製VFI-HR2820T(1C4M2群)へ改装された。

補助電源装置は、4次車までは140kVAのサイリスタ式ブラシレス電動発電機[4](BLMG/HG-634[3])をモハ8200形に搭載し編成で3台となっていたが[4]、6次車からは170kVAの静止形インバータ(SIV/HN-2520A)[5]をサハ8600形に搭載し編成で2台となっている[3]。5次車に関しては、当初はBLMGとSIVの双方を搭載、後に6次車以降の仕様に揃えられた[3]。詳細は後述。

集電装置は菱形パンタグラフのPT1600-B[1]で、モハ8100形とモハ8200形の海老名方に搭載する。

台車はロールゴム式空気ばね台車[1]で、新7000系VVVF車の実績を踏襲している[1]。電動台車がKH132B[3]、付随台車がKH135A[3]となる。基礎ブレーキ装置はディスクブレーキで、踏面清掃・増粘着装置を全軸に取り付けた。駆動方式は、従来車と同じ直角カルダン駆動方式である。

ブレーキ方式は相鉄の車両で初めて電気指令式ブレーキを採用した。非常時に在来の電磁直通ブレーキ採用車両と連結可能になるようにブレーキ読み替え装置を各先頭車に搭載する。

運転機器

更新車の運転台(クハ8511)

運転台マスター・コントローラーとブレーキ設定器を有するツーハンドルと呼ばれるものである。相鉄の車両として初めて車両情報処理装置(日立製作所製のATI)が設置された[6]。保安装置は相鉄形ATS[注 4]列車選別装置デッドマン装置列車無線として誘導無線[注 5]が搭載されている。

製造時期による違い

パンタグラフや表示器などに違いが認められる。(2007年3月15日 上星川駅)

1次車(8701×10/1990年入籍)[3]2次車(8702×10・8703×10/1991年入籍)[3]

3次車(8704×10 - 8706×10/1992年入籍)[3]

  • 運行番号表示器が7セグメントマグサイン式となった[3]
  • 運転台仕切り扉の窓寸法が拡大された。
  • 車内の鏡、案内表示器の配置が変更された[3]

4次車(8707×10/1993年入籍)[3]

  • 同時期製造の9000系にあわせ、車椅子スペースが両先頭車の妻部山側に設置された[3]
  • 車椅子スペースに関連し、非常通報装置を双方向通話型に変更[3]
  • 誘導無線装置本体とアンテナが、横浜方先頭車にも設置された。

5次車(8708×10/1994年入籍)[3]

  • 試験的に、両先頭車の行先表示器をLED式とした[3]。書体は小田急電鉄1000形ワイドドア車の登場時に類似する。
    • 後年、幕式へ変更された。
  • 試験的に、8615号車へ補助電源装置としてSIV(HN-2520A)を搭載した[3]
    • その後1998年に、編成全体でSIV化された[3]。機器配置も6次車以降に準じるものとなっている。

6次車(8709×10/1995年入籍)[3]

  • LED式行先表示器が本格採用された[3]。表示窓が行先側へ統合されている。行示器の書体は明朝体に改められた。
  • 補助電源装置がSIV(HN-2520A)となり、T車への搭載へ変更された[3]

7次車(8710×10/1996年入籍)[3]

  • 車内案内表示器の設置位置を妻面から側面鴨居部の千鳥配置に変更[3]
  • 全てのドアにドアチャイムを設置した[7]

8次車(8711×10/1997年入籍)[3]

  • 蛍光灯と吊り手棒の位置を変更[3]
  • 案内装置の設置してない鴨居部のカバー形状を変更。

9次車(8712×10/1998年入籍)[3]10次車(8713×10/1999年入籍)

  • 車内の車両番号表記の書体が変更された。
  • 集電装置をシングルアームパンタグラフ(PT-7103A)とした[3]
  • 優先席のモケットを灰色からネイビーブルーへ変更した[3]

当初は8712×10で製造を終える予定であったが、3000系相模大塚駅構内脱線事故により廃車となり、代替車として8713×10が製造された。


注釈

  1. ^ 導入当時はバブル景気崩壊直後であるが、増え続ける乗客数やいずみ野線いずみ中央駅までの延伸に伴う沿線の住宅地の開発などでさらに乗客の増加が見込めたことによる。
  2. ^ 尾灯の隣には急行灯が設置されているが2000年代初頭より使用しなくなった。
  3. ^ 1つのインバータで8基=2両分の電動機を制御する。
  4. ^ 磁気飽和形検知器付き半連続高周波移動回路式デジタルATS - 車両技術194号より
  5. ^ 大地帰路方式一複信式誘導無線 - 鉄道ピクトリアル 672号「保安設備について」(p.41 - p.43)より
  6. ^ a b 「大手私鉄車両ファイル」にはスタンションポール設置について記載なし
  7. ^ a b c 「大手私鉄車両ファイル」には優先席部のスタンションポール設置について記載なし
  8. ^ JR型保安装置・7人掛け部スタンションポール設置・鴨居部案内表示器準備
  9. ^ 座席バケット化・ドアチャイム設置・案内表示器変更
  10. ^ 袖仕切り・優先席部スタンションポール設置/扉交換・新塗装化と同時
  11. ^ 妻部に表示機器を持つ初期編成のみ施工。劣化が激しいものについては更新前にすでに撤去され、化粧板でふさがれていたものもあったが、更新の際に化粧板のビスの交換が行われ、見栄えが改善されている。
  12. ^ 従来よりも静かになり、8711×10 - 8713×10に近いものとなった。
  13. ^ 10000系TIMS(Train Information Management System)などとは別物であり、表示は東武50000系列使用されている日立製作所製のATIに近い。
  14. ^ 鉄道ファン』2016年8月号の「大手私鉄車両ファイル」(8710×10の分のみ記載)では、VVVFの形式についてVFI-HR2820Qとされているが、誤植と思われる。
  15. ^ 東京メトロ10000系などに近いものとなった。
  16. ^ 当初は1月上旬までの予定であったが延長された。
  17. ^ 2014年度は当初8編成のLED化が予定されていた。
  18. ^ このため、8710×10と8711×10は5~10号車のみ未交換という状態、また8712×10はセミクロスシート車のみ未交換という状態がごく短期間見られた。
  19. ^ 床材・化粧板・照明器具・自動窓ボタンの交換、クロスシート部の改装、LCDの設置などは行われていない。
  20. ^ 相鉄線内のみ。ただし、西谷駅 - 羽沢横浜国大駅での回送で1往復定期運用がある。

出典

  1. ^ a b c d e f g h i 「車両技術」1991年6月号(通巻194号)「相模鉄道8000形通勤電車」p.88 - p.99
  2. ^ 「そうてつの安全・安心を教えて vol.4 11000系ができるまで」 (PDF) の11ページ参照
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af 鉄道ピクトリアル」1999年7月臨時増刊号(通巻672号)「私鉄車両めぐり 各論 8000系」p.175 - p.176
  4. ^ a b 鉄道ファン」1991年3月号(通巻359号)「新車ガイド 相模鉄道8000系登場」p.42 - p.45
  5. ^ 「鉄道ピクトリアル」1999年7月臨時増刊号(通巻672号)「相模鉄道 現有車両主要諸元表」p.180 - p.183
  6. ^ 日立製作所『日立評論』1994年5月号「最近の車両情報制御システム (PDF) 」p.35。
  7. ^ 「鉄道ピクトリアル」1999年7月臨時増刊号(通巻672号)「車両総説 8000系」p.33 - p.34
  8. ^ a b c 相模鉄道創立90周年記念事業 全鉄道車両に相鉄グループカラーを導入し、デザインを統一 (PDF) - 相模鉄道株式会社 2007年3月15日(Wayback Machine
  9. ^ a b c d e f g 「鉄道ファン」2008年9月号(通巻569号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2007年度分の車両のうごき
  10. ^ a b c d e 「鉄道ファン」2009年9月号(通巻581号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2008年度分の車両のうごき
  11. ^ a b c 「鉄道ファン」2012年8月号(通巻616号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2011年度分の車両のうごき
  12. ^ a b c d e 「鉄道ファン」2013年8月号(通巻628号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2012年度分の車両のうごき
  13. ^ 「鉄道ファン」2014年8月号(通巻640号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2013年度分の車両のうごき
  14. ^ 「鉄道ファン」2015年8月号(通巻652号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2014年度分の車両のうごき
  15. ^ 「鉄道ファン」2010年9月号(通巻593号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2009年度分の車両のうごき
  16. ^ a b c d 「鉄道ファン」2011年9月号(通巻605号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2010年度分の車両のうごき
  17. ^ 『鉄道ピクトリアル』No.923 2016年10月臨時増刊号「特集:鉄道車両年鑑2016年版」p.153 アーカイブ 2020年1月28日 - ウェイバックマシン
  18. ^ a b c d e 「鉄道ファン」2017年8月号(通巻676号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2016年度分の車両のうごき
  19. ^ 相模鉄道株式会社8000系電車更新車用補助電源装置 アーカイブ 2022年9月25日 - ウェイバックマシン(PDF) - 東洋電機技報132号(2015年)
  20. ^ a b 「鉄道ファン」2016年8月号(通巻664号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2015年度分の車両のうごき
  21. ^ 「鉄道ファン」2018年8月号(通巻688号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2017年度分の車両のうごき
  22. ^ a b 「鉄道ファン」2019年8月号(通巻700号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2018年度分の車両のうごき
  23. ^ a b c d 「鉄道ファン」2020年8月号(通巻712号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2019年度分の車両のうごき
  24. ^ 「鉄道ファン」2004年9月号(通巻521号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2003年度分の車両のうごき
  25. ^ 「鉄道ファン」2005年9月号(通巻533号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2004年度分の車両のうごき
  26. ^ 相鉄線全駅にホームドアを設置 (PDF) - 相模鉄道株式会社 2017年11月2日
  27. ^ 2019年度 鉄道・バス設備投資計画 安全対策とサービスの向上に総額213億円 (PDF) - 相鉄グループ 2019年4月25日
  28. ^ 本革製クロスシート試験使用について アーカイブ 2015年11月24日 - ウェイバックマシン - 相模鉄道ニュースリリース 2015年10月21日
  29. ^ 相模鉄道、「8000系」電車に本革シートを試験設置 アーカイブ 2022年10月6日 - ウェイバックマシン - 鉄道新聞 2015年10月21日
  30. ^ 相鉄8709編成がネイビーブルー色に”. 交友社鉄道ファン』railf.jp:鉄道ニュース (2020年3月18日). 2020年5月23日閲覧。 アーカイブ 2020年3月19日 - ウェイバックマシン
  31. ^ a b 「鉄道ファン」2023年8月号(通巻748号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2022年度分の車両のうごき
  32. ^ 「鉄道ファン」2006年10月号(通巻546号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2005年度分の車両のうごき
  33. ^ 「鉄道ファン」2007年9月号(通巻557号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2006年度分の車両のうごき
  34. ^ 「鉄道ファン」2021年8月号(通巻724号)付録「大手私鉄車両ファイル」※2020年度分の車両のうごき
  35. ^ ジェー・アール・アール編『私鉄車両編成表 2022』交通新聞社、2022年、202頁。ISBN 9784330041223






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