市房ダム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/24 05:24 UTC 版)
歴史
市房ダムは、球磨川の最上流域、支流の湯山川との合流点に位置する。その1.2キロメートル下流に幸野ダムがある。市房ダムの背後には霊峰として知られる市房山がそびえる。市房湖の周辺には1万本もの桜が植えられ、日本有数の規模の名所として知られる[3](日本さくら名所100選)。
戦後、1949年(昭和24年)のデラ台風・フェイ台風・ジュディス台風、1950年(昭和25年)のキジア台風は球磨川流域に大きな被害をもたらした。一方、沿岸の農業(灌漑)用水不足や電力不足は深刻で、治水・利水両面での開発が求められていた[4]。市房ダムは熊本県による球磨川総合開発事業の中心事業として、建設省(現・国土交通省)直轄で建設が進められた[3]。1949年(昭和24年)に調査を開始し、1953年(昭和28年)に工事着手。ダム本体工事には1957年(昭和32年)に着手し、1958年(昭和33年)8月から1960年(昭和35年)2月にかけてコンクリートを打設、同年3月に完成した[4]。下流の幸野ダムも同年2月に竣工している[5]。2ダムとも西松建設が施工を担当した[6][7]。その後、1961年(昭和36年)5月16日に熊本県へと移管となった[8]。2003年(平成15年)には湖水の水質改善を目的とした高さ約80メートルの噴水が設置されている[6]。
目的
本事業の目的は、洪水調節、農業用水の確保、水力発電の3つである[4]。
- 洪水調節
- ダム地点における計画高水流量を1,300立方メートル毎秒とし、これを650立方メートル毎秒に半減する。これにより、下流の人吉地点における基本高水流量4,500立方メートル毎秒を4,000立方メートル毎秒に抑える。市房ダムには日本で初めて、自動水位維持装置・自動洪水調節装置を設置[4]。製造した日立製作所によると、1964年(昭和39年)8月の台風14号の際、300立方メートル毎秒から600メートル毎秒の急な流入増に対し、放流量は400立方メートル毎秒までの増加に抑え、下流の安全を確保したという[9]。
- 農業用水の確保
- 農業用水路の幸野溝、百太郎溝が流れる球磨川左岸3,578ヘクタールの農地に最大15.6立方メートル毎秒の水を供給する[4]。灌漑面積の内訳は、水田2,572ヘクタール、畑地1,006ヘクタールである[3]。
- 水力発電
- 熊本県企業局の市房第一発電所(最大15,100キロワット)・市房第二発電所(最大2,300キロワット)において年間平均約5,000万キロワット時の電力量を発生する[10]。市房第一発電所の放流水は、幸野ダムにて逆調整を行う[11]。
補償
本事業において132.6ヘクタールの用地取得が必要となり、208戸の家屋が移転した。水上村役場や小学校・中学校、水力発電所、漁業に対しても補償が行われた[4]。
市房ダム建設に伴い廃止となった水力発電所に、九州電力・新橋発電所がある。1927年(昭和2年)、当時の球磨川電気によって発電を開始し(当初最大1,920キロワット、1932年に1,850キロワット)、九州電気・九州配電を経て九州電力が継承。1959年(昭和34年)5月に廃止された[12]。
- ^ 右岸所在地は「ダムカードを配布します!」より市房ダム管理所所在地を記した。ダム湖名は『角川日本地名大辞典 43 熊本県』144ページ、堤体積は「市房ダムの概要」、電気事業者・発電所名は「水力発電所データベース」、その他は「ダム便覧」による(2020年7月28日閲覧)。
- ^ 右岸所在地は「幸野ダムの概要」、堤高・堤頂長・堤体積・総貯水容量・有効貯水容量・電気事業者・発電所名は「水力発電所データベース」、その他は「ダム便覧」による(2020年7月26日閲覧)。
- ^ a b c 「角川日本地名大辞典」編纂委員会、竹内理三 1987, pp. 144–145.
- ^ a b c d e f “ダムの書誌あれこれ 市房ダム(球磨川)の建設”. 日本ダム協会. 2020年7月26日閲覧。
- ^ 熊本県企業局 2019, p. 40.
- ^ a b “ダム便覧 市房ダム”. 日本ダム協会. 2020年7月26日閲覧。
- ^ “ダム便覧 幸野ダム”. 日本ダム協会. 2020年7月26日閲覧。
- ^ a b c “第44回河川整備基本方針検討小委員会 資料2 市房ダムの洪水調節”. 国土交通省. 2020年7月26日閲覧。
- ^ 日立製作所 1964, p. 132.
- ^ “市房ダムの概要”. 熊本県 (2014年6月19日). 2020年7月26日閲覧。
- ^ 熊本県企業局 2019, p. 4.
- ^ 九州電力 2007, pp. 773.
- ^ a b 国土交通省 2007, p. 3.
- ^ “川辺川ダム問題 住民が心配する緊急放流 熊本県知事「市房ダム改良」表明に波紋”. 毎日新聞 (2020年11月15日). 2020年11月5日閲覧。
- ^ “市房ダム 緊急放流、寸前で回避 予備放流も”薄氷”の運用”. 熊本日日新聞 (熊本日日新聞社). (2020年7月8日) 2020年7月26日閲覧。
- ^ 国土交通省 2007, p. 10.
- ^ “川辺川ダム建設事業の経緯”. 国土交通省九州地方整備局川辺川ダム砂防事務所. 2020年7月26日閲覧。
- ^ “令和2年2⽉7⽇ 第6回球磨川⽔系⽔防災意識社会再構築会議 資料 球磨川における国土交通省の取組”. 国⼟交通省九州地⽅整備局 ⼋代河川国道事務所. 2020年7月26日閲覧。
- ^ “球磨川水系の利水ダム5基、事前放流実施されず…突発的な豪雨は対象外”. 読売新聞オンライン (読売新聞社). (2020年7月4日) 2020年7月26日閲覧。
- ^ “球磨川治水対策協議会・ダムによらない治水を検討する場 球磨川治水対策協議会の検討に関する意見募集について (1/6~2/6) 別紙4 (5/7) ダム再開発案・放水路案”. 国土交通省. 2020年7月26日閲覧。
- ^ “「やばい…280m超える」寸前で回避された緊急放流、緊迫の所長メモが歴史公文書に”. 読売新聞オンライン (2021年6月29日). 2021年8月13日閲覧。
- ^ “ダムカードを配布します!”. 熊本県 (2020年2月3日). 2020年7月26日閲覧。
- ^ “ダムカードを配布します”. 熊本県 (2019年11月14日). 2020年7月28日閲覧。
- ^ 地球丸 2006, pp. 184–185.
- ^ “『夏目友人帳』の聖地巡礼!熊本県人吉球磨地方に行ってきました!”. にじめん. (2018年9月30日) 2020年7月26日閲覧。
- 市房ダムのページへのリンク