午前と午後 午前と午後の概要

午前と午後

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/13 00:06 UTC 版)

12時間制の針式のアナログ時計では、よく12111で表される。

概要

12時間制1日時刻真夜中の正子と真正午を基準にして2等分し、正子から正午までを「午前」、正午から正子までを「午後」[注釈 1]とする。正子の「子」は十二時辰の1番目に当たる子の刻(ねのこく)で、午前と午後および正午の「午」は十二時辰の7番目に当たる午の刻(うまのこく)のうちで午の正刻である。十二時辰で「午の刻」は24時間制の11時から13時までの2時間を指す。

午前と午後は単に1日の前半と後半を示すだけでなく、12時間制で0時から12時までの時刻と組み合せて時刻を表す。「○○中」は始点と終点の間を示すことから、午前は太陽の正中により終点が明確で午前中(ごぜんちゅう)とも称するが、午後はその終点が不明確なため、「午後中」とは言わない[1][2][3]

西欧語での表現

英語では午前を「ante meridian」 、午後を「post meridian」といい(ラテン語の原形はそれぞれ ante meridiem / post meridiem であり、meridiem は昼の真中を意味するので、昼の中央の前、または後という意味になる。即ち日本語の「正午」の前か後かで区分される)[4]、a.m. / p.m.と略す。A.M. / P.M.、am / pm、AM / PM、am / pm などとも書く。英語の語法では、これらは「1:00 p.m.」や「1 p.m.」のように数字の後に付けるのが正しく、「p.m. 1:00」、「p.m. 1」などは誤りである。日本語における用法でみられる、時刻と組み合わせずに単に「a.m.」/「p.m.」として午前/午後を指す表現方法は英語にはなく、午前中は「in the morning」、午後は「(in the) afternoon. 」で表される。数字との間はスペースを空けることも空けないこともある。

日本では「PM1時」というのはもちろん、その標準の短縮表記となる「午後 1:00」や「午後 1:00:00」といった書き方もあまり日常的には使われず、この場合、短縮しなければ「午後1時」と書かれたりする一方、コロンを用いてできるだけ短縮して表す場合は、日本語を敢えて使わず英語表記でPM 1:00」や「PM 1:00:00と書かれることが普通である。

また、特に日の出ごろから12時までを午前(午前中)、12時から日没ごろまでを午後ということもある。英語ではこの意味での午後を、(after noon ではなく1語で)afternoon と呼んで区別する。

ante meridiem / post meridiemというラテン語とそれに基づくヨーロッパ語それ自体に問題があると言う指摘がある[5]。正午の後、何時間という意味で、午後1時半というのはいいとしても、午前10時半は、正午の前1時間半だから理論的に午前1時半と言うべきであると言う[4]。もっとも、早乙女はこれを推奨しているのではなく、午前・午後はこのような非論理性があるから、それを止めて24時間制を採るべきだと論じているのである。この指摘はヨーロッパの多くの言語に当てはまるが、ポーランドの「時に関する法律」(1922)では、「正子後」という意味でpo północyという言葉を用いているため、この問題がない。

午前・午後の法令上の根拠

日本において、正午を過ぎてからの時間帯を「午後」と称する用例は8世紀からみられるが[6]、定時法[注釈 2]の下における午前・午後の概念の採用を明示した法令としては、「明治5年11月9日太政官布告第337号(改暦ノ布告)」[7][8][注釈 3]がある。これが定時法の初導入だったとは限らないが[注釈 4]、「午前」「午後」という語を明示している。この太政官布告は現在も法令として有効である[9][注釈 5]

この告示の箇条書きは5箇条からなるが、その第3条は次のようになっている。

時刻ノ儀是迄晝夜長短ニ隨ヒ十二時ニ相分チ候處今後改テ時辰儀時刻晝夜平分二十四時ニ定メ子刻ヨリ午刻迄ヲ十二時ニ分チ午前幾時ト稱シ午刻ヨリ子刻迄ヲ十二時ニ分チ午後幾時ト稱候事

口語訳: 「時刻はこれまで昼夜長短に従ってそれぞれを12等分してきたが、今後はこれを改めて、時計の時刻を昼夜24等分し、子の刻から午の刻までを12時に分けて午前幾時と称し、午の刻から子の刻までを12時に分けて午後幾時と称する」[9]

この詔書には次のような「時刻表」が付されている[注釈 6][11][12]

午前
零時 即午後
十二字
子刻_
0
子半刻
0
丑刻_
0
丑半刻
0
寅刻_
0
寅半刻
0
卯刻_
0
卯半刻
0
辰刻_
0
辰半刻
0
巳刻_
十一時
巳半刻
十二時
午刻_
 
午後 0
午半刻
0
未刻_
0
未半刻
0
申刻_
0
申半刻
0
酉刻_
0
酉半刻
0
戌刻_
0
戌半刻
0
亥刻_
十一時
亥半刻
十二時
子刻_

子刻(正子)については、午前の欄の最初に「(午前)零時即午後十二[注釈 7](子刻)」、つまり「午前0時=午後12時」と明記されている。そして、午後の欄の最後にも「午後12時」とあり、午前・午後の両方の欄に「子刻」が示されている。つまり正子(真夜中)については、日本における現行法令の上で「午前0時」、「午後12時」という2つの言い方が認められている。

しかし、午刻(正午)については、午前の欄にのみ「午前12時」とのみ記載されており、午後の欄には午刻を表す時刻の記載がない。つまり「午後0時」という言い方は、日本における現行法令に基づく限り、「定義上は存在しない」ということになる[13]

しかし、現行法規では、「午前十二時」の表現を用いる立法例は確認されておらず、逆に本来は定義されていない「午後零時」の表現を用いる法令は存在している[14]


注釈

  1. ^ 午後は午后(ごご)とも書くが、この「后」は「後」と同じ意味の漢字である。
  2. ^ 時刻の定義方法で、定時法は1日を等分して区切るもの、不定時法は日の出から日没までを等分に、日没から翌日の日の出までを等分に区切るもの。不定時法では1日を等分するわけではなく、季節によっても間隔が異なる。
  3. ^ 出典と原典(詔書)で一部字体などが異なる可能性がある。特に「字」と「時」。
  4. ^ 平凡社『世界大百科事典』第2版「時刻」の項によると、平安時代の『延喜式』にある記述から(一部朝廷関係に限られたものの)定時法が採用されていたことがわかり、飛鳥時代に不定時法ながら十二支で時刻を示した用例がある。
  5. ^ この太政官布告は太陰太陽暦から太陽暦への改暦(明治6年1月1日)を定めたもので、うち、閏日の置きかたは明治31年勅令第90号(閏年ニ関スル件)[10]により補正された(4年に1日→400年に97日)。「西暦」「グレゴリオ暦」の語は無いが、実質的にグレゴリオ暦の採用となった。
  6. ^ 原表は縦書き。
  7. ^ 「字」は「時」に同じ。法規分類大全 〔第2〕(後の法令全書)による印影では、「十二時」となっている。これは布告に「但是迄時辰儀時刻ヲ何字ト唱來候處以後何時ト可偁事」とあり、この布告以降は、時刻を表す漢字を「字」から「時」に改めたことによる。
  8. ^ たとえばThe American Heritage Dictionary of the English Language
  9. ^ 1:00 p.m.の1時間前。
  10. ^ 1:00 a.m.の1時間前。
  11. ^ 音による時刻表現での「分」を表し方では「時」の場合と異なり、0分の場合は無音すなわち「0回の音」で表現され、「0分-59分」の六十進法が用いられている。

出典

  1. ^ 関根健一、なぜなに日本語もっと、pp.318-319、2019-06-22、三省堂ISBN 978-4385366074
  2. ^ なぜ「午前中」とは言っても「午後中」とは言わないの? 飛ばす「ゲキ」は「激」じゃないの? 日本語の「なぜ?」「なに?」が大集合! PR TIMES、2019-06-21(三省堂『なぜなに日本語 もっと』)
  3. ^ チコちゃんに叱られる!午前中と言うのに午後中と言わないのはなぜ? 10月8日 HonuLogホヌログ/NHK『チコちゃんに叱られる!』、2021-10-08
  4. ^ a b 青木信仰『時と暦』(第4刷)東京大学出版会、1997年5月12日(原著1982年9月20日)、37頁。ISBN 4-13-002026-9 
  5. ^ 早乙女淸房「時刻の稱へ方につきて」(PDF)『天文月報』第8巻第9号、日本天文學會、1915年12月、101-103頁。 
  6. ^ 日本国語大辞典(第2版)の「午後」の項目は、これが正午から日没まで又は夜の12時(真夜中)までの時間を指すとして、経国集(827年)や高野山文書の久安6年(1150年)の用例などを載せる。
  7. ^ 太政官布告第三百三十七號 法令全書(印影版)、国立国会図書館デジタルコレクション、p.230-232
  8. ^ 明治五年太政官布告第三百三十七号(改暦ノ布告)”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2008年10月3日閲覧。
  9. ^ a b 沼田尚道「日本のインフラ・グランドデザインの時代に思いを馳せる:日本標準時施行120周年」『ITUジャーナル』第38巻第1号、日本ITU協会、2008年1月、53-54頁。 
  10. ^ 明治三十一年勅令第九十号(閏年ニ関スル件)”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2008年10月5日閲覧。
  11. ^ a b 国立天文台 2012.
  12. ^ 太政官布告第三百三十七號 法令全書(印影版)、国立国会図書館デジタルコレクション、p.232 時刻表
  13. ^ 質問4-1)正午は午前12時?それとも、午後12時? 国立天文台、よくある質問   真夜中に対しては「午前0時」「午後12時」という2つの言い方が書かれていますが、正午に対しては「午前12時」という言い方だけしか書かれていません。「午後0時」という言い方は、この中には定義されていないのです。したがって、正午を「午後0時」と呼ぶのは誤解の少ない言い方ではあるのですが、定義上は存在しないという、なんとも歯切れの悪い状況であると言わなければなりません。
  14. ^ 「午前八時三十分から午後五時十五分まで(午後零時から午後一時までを除く。)の時間帯」1997年人事院規則二〇―〇(任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例) 十二条一項”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2018年12月21日閲覧。
  15. ^ 長沢工『天文台の電話番 国立天文台広報普及室』地人書館、2001年。ISBN 4-8052-0673-X 
  16. ^ 情報通信研究機構 1989.
  17. ^ 午前12時? 午後0時?情報通信研究機構、1989年2月15日。 オリジナルの2004年8月25日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20040825041857/http://jjy.nict.go.jp/QandA/12am-or-0pm-J.html 
  18. ^ 時のハテナにせまる!! ★ キッズタイム ★ 時と時計を楽しくまなぼう
  19. ^ UNITED STATES GOVERNMENT PRINTING OFFICE Style Manual 2000 p.156, 9.54.
  20. ^ [1] GPO Style Manual, An official guide to the form and style of Federal Government publishing, 2016,p.275
  21. ^ 深夜から早朝の時間帯の民放ラジオ放送番組表では、実際には29時(=翌5時)を以って日付および時刻表示を進める「29時間制」の採用例がみられる。


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