マン島語 マン島語の概要

マン島語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/16 05:18 UTC 版)

マン島語
Gaelg
話される国 イギリス
地域 マン島
言語系統
表記体系 ラテン文字
公的地位
公用語 マン島
言語コード
ISO 639-1 gv
ISO 639-2 glv
ISO 639-3 glv
Glottolog manx1243[1]
消滅危険度評価
Critically endangered (Moseley 2010)
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アイルランド島グレートブリテン島との間がアイリッシュ海。赤く印が付けられているのがマン島。

言語の名称

マン島語での名称

マン島語ではこの言語は Gaelg ないし Gailck と呼ばれる。この語は北アイルランドのゲール語から英語へと借用された Gaelic という語を語源を同じくしている。姉妹語であるアイルランド語およびスコットランド・ゲール語はそれぞれ自分の言語を、Gaeilge (また方言差により Gaoluinn, Gaedhlag, Gaelge, Gaelic) および Gàidhlig としている。アイルランド語やスコットランド・ゲール語と同様、マン島語でも定冠詞を伴った形 y Ghaelg ないし y Ghailck がしばしば用いられる (アイルランド語では an Ghaeilge, スコットランド・ゲール語では a' Ghàidhlig である)。

これをほか 2 つのゲール語から区別するために、Gaelg/Gailck Vannin (マンのゲール語) や Gaelg/Gailck Vanninagh (マン人のゲール語) という表現も用いられる。

加えて、Çhengey ny Mayrey (母の言葉) という愛称もときおり使われる。

英語での名称

マン島語は英語ではふつう Manx と呼ばれる。またたとえば 3 つのゴイデル語 (ゲール語、すなわちアイルランド語、スコットランド・ゲール語、マン島語) のあいだの関係を論じるときや、マン島で話される英語の方言であるマン島英語 (Anglo-Manx) との混同を避けるために、Manx Gaelic という名もよく使われる。英語ではスコットランド・ゲール語がしばしば単純に Gaelic と呼ばれるが、マン島語やアイルランド語をこう呼ぶことはスコットランド・ゲール語ほど一般的でない。

マン島英語のカルクでは、標準英語でふつう見られない the Manx や the Gaelic といった定冠詞の使用がある。

Manx という語は歴史的文献では、とりわけ島の住民によって書かれたものでは、しばしば Manks とつづられている;この語は「マン人の Mannish」を意味し、ノルド語Mannisk に由来している。島名の Man はしばしば Mann とつづられる。これにはこの語が第 1 音節に強勢のある 2 音節語 “MAN-en” であるという補足説明が伴うことがある。これはケルト神話の神マナナーン・マクリール (Manannán mac Lir) の名からきている。

歴史

マンクス博物館所蔵の、石に刻まれたオガム碑文原アイルランド語で書かれており、DOVAIDONA MAQI DROATA 「ドロアタの息子ドヴァイドの」と読める[3]
ウィリアム・クリスチャン、別名イリアム・ドーン英語版 (茶髪のウィリアム)
Cronk ny Arrey Laa (見張りの丘) にある Lag ny Keeilley (教会のくぼみ);マン島語はこの島の地名の名づけに相当の影響をもってきた。

マン島語はアイルランド語およびスコットランド・ゲール語と密接な関係にあるゴイデル語 (ゲール語) のひとつである。概してこれらは相互に理解可能ではないが、話者たちは互いの言語の受動的能力や、さらには会話能力をも得ることは容易である。

知られているマン島の最初の言語は、ブリソン語 (ウェールズ語コーンウォール語ブルトン語に発展した言語) の一形態である。しかし、スコットランド・ゲール語および現代アイルランド語と同様、マン島語は紀元4世紀以降にオガム碑文に文証されている原アイルランド語に由来している。こうした文章はアイルランド全域およびブリテン島西海岸で発見されている。原アイルランド語は5世紀を通して古アイルランド語へと遷移した。6世紀以来の古アイルランド語はラテン文字で書かれ、もっぱらラテン語写本の欄外注記に文証されているが、マン島からは現存する例は見つかっていない。10世紀までに古アイルランド語は、アイルランド全域、スコットランドおよびマン島で話された中期アイルランド語に変化した。スコットランドおよびアイルランドの海岸部と同様、マン島にはノース人が入植し、若干の借用語や人名、ラクシー (英 Laxey, マン島語 Laksaa) やラムジー (英 Ramsey, マン島語 Rhumsaa) といった地名にその痕跡を残している。

中世後期のあいだ、マン島はしだいにイングランドの影響下に入り、それ以来英語がマン島語の発達において主要な外部要因であった。マン島語は 13世紀ころに近世アイルランド語 (Early Modern Irish) から、また15世紀ころにスコットランド・ゲール語から分岐を始めた[4]。マン島語は19世紀のあいだに急速に衰退し、英語に取って代わられた。

マン島語の書籍は18世紀初頭まで印刷されたことがなく、さらに19世紀までマン島語=英語辞典は存在しなかった。16世紀に作られた少数の物語詩と若干の宗教文学を除いて、マン島語に20世紀以前の文学はない。マン島語は口承で伝えられてきた民間伝承や歴史などを持つ、いかなる意味でも口頭の社会 (oral society) であった[5]

1848年に J. G. カミングは「英語を話さない人はほとんど(若者ではおそらくまったく)いない」と書いている。ヘンリー・イェナー英語版1874年に、人口の約30%が習慣的にマン島語を話していると推定している (41,084人の人口のうち12,340人)。公式な国勢調査の数字によると、1901年には人口の9.1%がマン島語を話すと主張したが、1921年にはこの割合はわずか1.1%になった[6]。マン島語の威信(プレステージ)は低落していたので、親たちはマン島語を英語に比べて無用のものと考え、子どもたちに教えない傾向にあった。


  1. ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Manx”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/manx1243 
  2. ^ 原聖, ed (2012). ケルト諸語文化の復興. ことばと社会 別冊4(多言語社会研究). 三元社. ISBN 978-4-88303-309-6 
  3. ^ The Ogham Stones of the Isle of Man”. BabelStone (2011年6月30日). 2013年11月11日閲覧。
  4. ^ Broderick 1993, 228
  5. ^ Cumming 1848:315–316 Appendix M
  6. ^ Gunther 1990, 59–60
  7. ^ Ager, Simon. "A Study of Language Death and Revival with a Particular Focus on Manx Gaelic." Master's Dissertation University of Wales, Lampeter, 2009. PDF.
  8. ^ a b c How the Manx language came back from the dead”. theguardian.com (2015年4月2日). 2015年4月4日閲覧。
  9. ^ UN declares Manx Gaelic 'extinct'”. bbc.co.uk. 2015年4月4日閲覧。
  10. ^ Isle of Man Census Report 2011 Archived 2012年11月8日, at the Wayback Machine.. Retrieved 2012-10-19.
  11. ^ Manx Gaelic revival 'impressive'. Retrieved 2008-11-30.
  12. ^ a b c d e Censuses of Manx Speakers”. www.isle-of-man.com. 2015年10月27日閲覧。
  13. ^ Belchem, John (2000-01-01). A New History of the Isle of Man: The modern period 1830-1999. Liverpool University Press. ISBN 9780853237266. https://books.google.com/books?id=yjHHVG_aiOAC 
  14. ^ 2001 Isle of Man Census: Volume 2”. 2016年2月7日閲覧。
  15. ^ 2011 Isle of Man Census”. 2016年2月7日閲覧。


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