トウガラシ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/31 14:38 UTC 版)
品種
世界中に様々な品種があるが、大きく分けて香辛料として使う辛味種(ホットペッパー、英: Hot pepper)と、ピーマンやパプリカ、シシトウガラシなどの甘味種(スイートペッパー、英: Sweet pepper)に分けられる[19]。赤唐辛子などの辛味品種は、アメリカからヨーロッパに渡って香辛料になり、さらにアジアへと広まった[19][20]。
実の形状は、ほとんどが小さく長細いものだが、野生種チルテピンの実は小さく丸い。他に
といったものもある。
植物和名ー学名インデックス YList による分類
- Capsicum annuum L. (1753) - トウガラシの標準学名、中国名:辣椒
- Capsicum annuum L. Acuminatum group (1832) - 和名:ソラミトウガラシ、別名:トウガラシ (s. str.)、Cayenne group: Edwards[21] (1932)とする説もある。[22]
- Capsicum annuum L. Cerasiforme group (1898) - 和名:ホシトウガラシ、別名:チェリーペッパー、和名は牧野富太郎による命名で、学名(裸名)を C. glossum var. cerasiforme (Mill.) Makino (1897) とした。[23]
- Capsicum annuum L. Conoides group (1898) - 和名:ゴシキトウガラシ、別名:タバスコペッパー、中国名:朝天椒[24]
- Capsicum annuum L. Grossum group (1846) - 和名:ピーマン、別名:シシトウガラシ[25]
- Capsicum annuum L. Longum group (1846) - 和名:ナガミトウガラシ、別名:ロングペッパー、中国名:長辣椒[26]
主な品種、栽培種は次の通りで、栽培品種は5 - 6群にまとめられていている。
なお、植物種としてのトウガラシの近縁種に、多年草で茎が木質化するキダチトウガラシ(木立唐辛子、C. frutescens)があり、島唐辛子、タバスコペッパー、プリッキーヌーはこの系統の品種である[10]。強烈な辛さで知られるハバネロ、ブートジョロキアも別種カプシクム・キネンセ(C. chinense)である。(#近縁種を参照)
Cerasiforme group
榎実群、またはチェリー群とも。
- チェリー・ペッパー(ホシトウガラシ、C. a. Cerasiforme group)- 観賞用や香辛料のトウガラシで、実は小型でほぼ球形。
- ゴシキトウガラシ(五色唐辛子、C. a. var. abbreviatum)- 観賞用トウガラシのハナトウガラシの中で古くから栽培されている品種。Capsicum annuum 系統の五色群 (Celestial group) の品種に分類されている。
Conoides group
Chili groupの中の1群で、鷹の爪群、またはコーン群とも。学名は Capsicum annuum L. Conoides group。世界的に利用されるトウガラシの栽培種。日本の「鷹の爪」「本鷹」「ダルマ」や、メキシコのチリ(chilies)やアメリカのタバスコ(tabasco)など。
- タカノツメ(鷹の爪、C. a. var. conoides) - タキイ種苗が育成した日本を代表する品種。小さな果実が房状にたくさんできる。乾燥させて香辛料にする[8]。スコヴィル値は4万 - 5万SHU。
- チリペッパー - メキシコのチリ(chilies)やアメリカのタバスコ(tabasco)など。'Aci Sivri'、'Bolivian Rainbow'、'Goat Horn'、'Kung Pao'、'Pequin'、'Poblano' (aka Ancho)、'Thai Small' など。
Fasciculatum group
Chili groupの中の1群で、八房群ともいう。
- ヤツブサ(八房、C. a. ver. fasciculatum) - 早生品種で、赤い実が上向きにたくさん集まってつくのが特徴で、名前の由来になっている。「愛知三鷹」「静岡三鷹」「細八房」「静岡鷹の爪」「栃木三鷹」「八房」「磐田八房」「仰天」「立八房」「長八房」「姫とうがらし」「光輝(こうき)」などの品種がある。
- 栃木三鷹(とちぎさんたか)
Longum group (Cayenne group)
伏見群、またはパプリカ群。別名ロングペッパー(Long pepper)。
- フシミ(伏見、C. a. var. longum) - 果実が細長く、別名ロングペッパー(long pepper)とも。実は長く、長さ30 cmほどになるものもある。「あじめコショウ」「剣崎なんば」「三宝甘長トウガラシ」「清水森ナンバ」「日光」「ひもとうがらし」「伏見辛」「伏見甘」「伏見甘長」「魔女の杖」「水引とうがらし」など。
- カイエンペッパー(Cayenne pepper、ソラミトウガラシ、C. a. L. Acuminatum group) - 実は下向きに垂れ下がってつき、果長は10 - 25 cm。辛みが強いのが特徴。Cayenne groupを分けることもある。'Carolina Cayenne Pepper'、'Cayenne'、'Cayenne Carolina'、'Cayenne Iberian'、'Cayenne Indonesian'、'Cayenne Large Red Thick'、'Cayenne Passion'など。
- ハラペーニョ(Jalapeno Pepper) - メキシコの品種で「メキシコ唐がらし」とも呼ばれる[27]。実は7 - 9 cmの楕円形をしていて肉厚で、非常に辛く(30,000 - 50,000スコヴィル単位)、ピクルスなどにして使われる [28]。
- ニューメキシコチリ(New Mexico chile) - 米国ニューメキシコ州を代表する青唐辛子。チリペッパーの1種。
- チリセラーノ(Chile serrano、C. a. 'Serrano Sinahusia' ) - メキシコ産の赤トウガラシで、未熟な緑果も利用される。メキシコ料理によく使われる。
- トリニダード・モルガ・スコーピオン('Trinidad Scorpion Moruga') - ホットチリペッパーの1品種。スコヴィル値は139 - 80万SHU。
- チルテピン(チテピン、Chiltepin、C. a. var. glabrisuculum) - 野生もある多年生の低木で、高さ1 - 3 m。メキシコのソノラ州やアリゾナ州南部の砂漠の山岳地帯に分布し、9月から1月まで栽培[16]。Capsicum annuum種で最も古い品種と考えられている。野生種はハバネロよりも辛みが強く、スコヴィル値は5万 - 10万SHU。
Grossum group
大果群または青果群。別名、ベルペッパー(bell pepper)、またはスイートペッパー(sweet peppers)とも。ピーマン(ベル形の中・大果)もこのグループに含まれる。
- シシトウガラシ(獅子唐辛子) - 辛味が少なく、わずかな苦味と特有の香りがあるが、中には辛いものもある。先の形が獅子の鼻に似ていることから[29]。
- ベルペッパー(Bell pepper) - アメリカ合衆国産ピーマン、Bell pepper)、cv. angulosum あるいは、c Cv. gulosum とする説もある。
- ピメント(Pimento pepper、Sweet Salad group) - 大きくて赤いハート形のトウガラシの種類。果肉は甘くて水気が多く、他のトウガラシよりも香りが強い。辛味種のスコヴィル値は100 - 500SHU。「パーフェクション」「スイートミートグローリー」など。
- キューバネル(Cubanelle Pepper, Frying Pepper) - 小型のベル形甘味種。果実は薄緑黄色、しわのある長い円錐形。キューバ、プエルトリコ、ドミニカなどで利用が多い。
- スカッシュ(Squash pepper) - 扁平な果実で、アメリカに多い種類。「サンニー」「ブラック」など。
- ホットベル(Hot Bell Peppers) - マイルドな辛みを持つトウガラシの一種。'Mexibell' など。
- ポブラノ(Poblano Pepper、C. a. var. annuum 'Poblano') - メキシコのプエブラ州が原産のマイルドでスパイシーなトウガラシ。スコヴィル値は1,000 - 1,500SHU。
日本特産種
辛味の強い品種に『鷹の爪』、辛みの薄い品種に『八房トウガラシ[30]』や『伏見とうがらし[31]』などがある。辛味がほとんどない種の代表がシシトウと通称されるシシトウガラシで、京野菜の伏見とうがらし、万願寺とうがらしなどが有名である[10]。
- 万願寺とうがらし
- 伏見とうがらし(伏見甘長とうがらし)
- 甘とう美人 - 果実の長さ15 cmで、やさしい辛味で軟らかい品種[20]。草勢があり分枝の発生が多く、多収穫できるF1品種で、辛味果の発生は比較的少ない[33]。
- 田中とうがらし(田中ししとう) - 甘味種で濃い緑色が特徴。明治初期から京都府愛宕郡田中村(現:京都市左京区田中)でつくられていたというシシトウガラシの一種[20]。
- かぐらなんばん - 辛味種で、新潟県長岡市の伝統野菜。15世紀に入ってきた南蛮の原種に近いといわれ、形がピーマンに似ている[28]。果しんとわたが辛く、外皮は甘い[10]。
- 大和とうがらし - 甘味種で、奈良県(旧大和国)南部の伝統野菜。「紫とうがらし」ともいわれ、加熱すると紫色が淡黄緑色に変化する[28]。多収穫できる固定品種で、実の長さは5 cmで肉厚[33]。
- 篠しし唐がらし - シシトウの一種で、実は長さ14 cmほどで、黒に近い緑色で、肉厚でしっかりしている[10]。
- ひもとうがらし - 鉛筆ほどの細さと長さを持つ甘味種。実は濃緑色で、皮が軟らかく、甘味が強い[33]。
- 土佐ししとう - 高知県(旧土佐国)南部の海岸地域の農家で栽培されきたシシトウガラシの伝統品種。実は全体に細長く、果頂部は獅子頭状ではなくスマートな形をしている[33]。
- あじめコショウ - 岐阜県中津川市福岡地区の伝統野菜。細長い見かけが、地元の川に生息する魚類アジメドジョウに似ていることから、こう呼ばれる。辛味が強く、味噌や砂糖、みりん、青じそとともに炒めて辛味噌をつくる[34]。
- 牛角大王 - トキタ種苗の品種。ピーマンのような食感で、綿の部分に辛みがあり、スパイシーな味わいがある[8]。
注釈
出典
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