タマネギ 種類

タマネギ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/21 09:18 UTC 版)

種類

大別すると、東欧系の辛味品種と南欧系の甘味品種があり、日本で栽培されるものは、ほとんど辛味品種である[32]。甘味品種には、紫タマネギの湘南レッドがある[32]。一方で、辛味品種には黄タマネギ、ペコロスなどがある[32]

鱗茎の外側の薄皮の色は銅黄色、紅紫色、白色の3色があって[32]、それぞれ黄タマネギ、赤タマネギ、白タマネギと分けている[33]。玉の形は、偏球形、球形、紡錘形などに分けられる[32]。出荷時期や栽培地によって多くの栽培品種があるが、辛味を抑えて品種改良されたものなど、地方に適した系統のものが栽培されている[34][32]

日本で栽培される品種の主流は「黄タマネギ」といわれる系統で[34]、アメリカ合衆国から導入された春まき栽培用の「イエロー・グローブ・ダンバース(Yellow globe danvers)」という品種が「札幌黄」という品種に、秋まき栽培用は1885年(明治18年)に大阪へ「イエロー・ダンバース(Yellow danvers)」という品種が導入されて「泉州黄」に、フランス系の「ブラン・アチーフ・ド・パリ」が「愛知白」に名を変えて、それぞれ地域に定着化した。さらに農家や農協単位で自家採種・選抜を行い、農家や地域ごとに特徴のある品種が作られた。

いわゆる「新タマネギ」と呼ばれるものは、春に出回るもので、水分が多く肉質が柔らかい[32]

黄タマネギ
最もポピュラーで薄皮が赤茶色の品種。秋冬に収穫する秋冬タマネギと、春に収穫する新タマネギがある。秋冬玉ねぎは、保存性を高めるため収穫後に風干しして1か月ほど皮を乾燥して出荷しているため[33]、水分量は少なめで、肉厚で辛味がある[34]。新タマネギは、皮が白っぽい黄タマネギの早採りもので[33]、水分量が多く軟らかい食感で辛味が少なく、生食にも向いている[34][35]。また、干さずに出荷するため、保存性は悪い[34]
サラダオニオン
辛タマネギで、早生種。一般に玉は偏平で、水分量が少なく貯蔵性は低い。柔らかくて辛味は少ないため、生食に向いている[36]
白タマネギ
辛味を抑えて品種改良した早生種。早春から春にかけて出回り、日本の代表品種に愛知白がある。甘味が強く水分量が多く、貯蔵性は低い[36]サラダ和え物に向く[34]
紫タマネギ(赤タマネギ、レッドオニオン)
赤タマネギの輪切り
薄皮や表層が鮮やかな紅紫色の品種で、輪切りすると赤い縞の輪が出る[36]。複数の品種があり、日本では湘南レッドが代表種[35]。タマネギ特有の刺激臭は少なく、辛味が少ないのが特徴。サラダなどの生食に向いている[34]
エシャロット
フランスの香味野菜。各国で様々な呼び名がある[34][注釈 2]
ペコロス(小タマネギ、プティオニオン)
黄タマネギを密植して直径3 - 4 cmほどに小さく育てた、小タマネギのこと。辛味は少なく煮崩れしにくいため[36]、丸ごとシチューなどの煮込み料理や、ピクルスに利用する[34]。色が赤い種類もある[35]
パールオニオン
直径1 - 2 cmほどの小粒の小タマネギの一種。収穫時期によって、小指大からピンポン球大まである[36]。皮が白くて辛味が強く、ピクルスや肉料理の付け合わせなどに使われる[35]
ルビーオニオン
皮が光沢があり鮮やかな赤色の小タマネギの一種。辛味は弱く、スライスしてサラダの彩りや、丸のままピクルスに使われる[36]
葉タマネギ
極早生の白タマネギを土寄せして栽培して茎葉を太くしたもので[36]、葉が青い春のうちに、葉つきで収穫する。葉や鱗茎はともに軟らかく食用でき、葉はビタミンが豊富で、玉ねぎの部分も甘味がある[35]。葉の部分は青ネギの代用にできる[36]

F1交配種

タマネギは、トウモロコシに次いで雑種第一代(F1品種)が開発された作物である[37]。大部分のタマネギの花には、雄の部分と雌の部分があるが、1924年にアメリカ合衆国カリフォルニア州デイビスにある育種場で、雄性不稔[注釈 3]のため自家受粉できないイタリアンレッドという品種の赤タマネギが発見された[37]

この品種は、様々なF1品種の親となり、別の雌株と交配して常に予想通りの結果を生み出すことから、良い種子が取れる株が選抜されて、品種改良が行われた[37]。その結果、べと病、黒穂病、紅色根腐れ病、病害虫に対する耐性などに優れた商業的に価値がある雄株も開発され、DDTなどの農薬の使用も減らすことができた[37]

1950年代は、安全で耐病性があり、収穫量が多いF1品種が初めて開発された時代であり、農業の未来を明るく照らすものと思われていた。だが現代においては、二代目ができないF1品種の使用は種の遺伝基礎を脅かし、栽培品種が1部だけの品種へと縮小して、単一栽培に進んでいくことにつながるのではという懸念が、科学者の間で広がっている[38]

実際に、商業目的で栽培されているアメリカの品種は大きく分けて、大きくて甘い鱗茎をつける品種と、乾燥が早くて色が白い加工用の品種、および長期保存ができる品種の3種類である[38]。栽培品種が減少することによって、未知の新しい病気が発生して、広く栽培されている品種に耐性がなかったときに、世界のタマネギが壊滅しかねないことも懸念材料になっている[38]


注釈

  1. ^ 最新の分類体系であるAPG体系ではヒガンバナ科に区分されるが、古い分類体系のクロンキスト体系新エングラー体系ではユリ科に分類されている[1]
  2. ^ 日本では、生食用に軟白栽培されたラッキョウが「エシャット」や「エシャロット」の名で呼ばれている[34]
  3. ^ 遺伝子に欠損があるため、花粉ができない状態[37]
  4. ^ 庫内の温度と空気成分の調整によって、青果物の呼吸を最小限に抑え、鮮度の低下を防止するシステム[11]

出典

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