カザフ語 語彙

カザフ語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/18 09:35 UTC 版)

語彙

歴史的にカザフ語にはアラビア語ペルシア語モンゴル語の語彙がしばしば借用されていたが、アラビア語、ペルシア語はタタール語、ウズベク語、ペルシア語の一方言であるタジク語などの言語を経由して導入された[2]。他のテュルク系の言語に比べてアラビア語、ペルシア語からの借用語は少なく、ロシア語からの借用語が多い[3]。カザフスタンの独立後はロシア語からの借用語をカザフ語に置き換える(例えばロシア語に由来する「飛行機(Самолёт)」をカザフ語の「飛ぶもの(Ұшақ)」に代える)運動が行われているが、こうした新語は一般に普及していない[1]

アラビア語からの借用語
カザフ語 日本語 アラビア語
tájrıbe (тәжірибе) 経験 تجربة
áýel (әуел) 最初 أول
kitap (кітап) كتاب
ペルシア語からの借用語
カザフ語 日本語 ペルシア語
qaǵaz (қағаз) کاغذ
ádebıet (әдебиет) 文学 ادبیات
áýen (әуен) メロディー اهنگ
ロシア語からの借用語
カザフ語 日本語 ロシア語
zaýyt (зауыт) 工場 завод
oblys (облыс) область
Japonıa (Жапония) 日本 Япония

歴史

近代までカザフ人の間で文字はほとんど使用されておらず、知識と情報の伝達・共有の手段として口承文芸が発達する[3]。中央アジアのテュルク系言語の共通語であるチャガタイ語がカザフ語の文語として使用されていたが、19世紀後半からチャガタイ語の口語化が始まり、カザフ文語と呼ばれるものが形作られていく[2]。19世紀後半に刊行された「トルキスタン地方新聞」「ステップ地方新聞」などの媒体でカザフ語が使用されるにつれて、文章語としてのカザフ語も発達していく[3]。また、アルトゥンサリン、アバイらの文学作品も文章語の確立に貢献した[3]

20世紀前半に改良アラビア文字での表記、ラテン文字の採用を経て、1940年から改良キリル文字によるカザフ語の表記法が採用される。ソ連時代末期の1989年にカザフ語はカザフ・ソビエト社会主義共和国の国家語に制定される。

ソ連から独立した後もカザフスタンは他の中央アジア諸国に比べてロシア語が使用されることが多く、カザフ語は国家語、ロシア語は実質的な共通語としての地位を確立し、都市部ではカザフ語よりもロシア語を得意とするカザフ人は少なくない[1]。こうした状況下で、カザフスタン政府はカザフ語の振興を掲げていて[5]、カザフ語の急速な台頭とロシア語の重要性の低下に対して抵抗を感じる人間がいる一方で、マスメディアにおけるロシア語の支配的な地位を疑問視する意見も投げかけられている[1]

2016年にはカザフスタンの大統領であるヌルスルタン・ナザルバエフによってラテン文字表記への移行が宣言された。2017年9月11日にはその草案が提出された[6]。その後数回草案を改定した[7][8]

表記

1910年代にアフメド・バイトゥルスノフらによって改良アラビア文字による正書法が提起され、1917年と1924年に正書法は改正される。ソビエト連邦時代の1929年にラテン文字による表記法が採用され、1940年から改良キリル文字による表記に切り替えられる。2012年にカザフスタン政府はキリル文字からラテン文字への切り替えが発表され、その背景にはカザフスタンの経済力の成長、トルコアゼルバイジャントルクメニスタンウズベキスタンといったラテン文字表記を推進する他のテュルク系国家との関係の強化、これまでのロシアとの密接な関係の見直し、国内のカザフ人の比率の増加などが挙げられている[1]

モンゴル国ではカザフ語は改良キリル文字によって表記されている。中華人民共和国では1965年から1982年までの間はラテン文字での表記も使用されていたが、改良アラビア文字で表記されることが多くなっている[3]

2006年カザフスタンの大統領であるヌルスルタン・ナザルバエフはカザフ語を12年から15年のうちにラテン文字表記に変える案を発表した[9]2012年12月には2025年までにキリル文字からラテン文字表記への切り替えを行うことが発表された[1]2017年4月にはあらためて2025年までにカザフ語の表記をラテン文字に転換すると表明した[10]2021年1月にはラテン文字正書法の新しい版が発表され、移行は2023年から2031年までかけて段階的に行うと改められた[11]

カザフ語で使用されるキリル文字

カザフ語のキリル文字と対応するラテン文字(2021年版)
А Ә Б Г Ғ Д Е Ж З И Й К Қ Л М Н Ң О Ө П Р С Т У Ү Ұ Ф Х Һ Ш Ы І Ю Я
а ә б г ғ д е ж з и й к қ л м н ң о ө п р с т у ү ұ ф х һ ш ы і ю я
A Ä B G Ğ D E J Z İ K Q L M N Ŋ O Ö P R S T U Ü Ū F H Ş Y I İU İA
a ä b g ğ d e j z i k q l m n ŋ o ö p r s t u ü ū f h ş y ı iu ia

  1. ^ a b c d e f g 坂井 (2015), p. 34-38.
  2. ^ a b c 庄垣内 (1988), p. 1147-1151.
  3. ^ a b c d e f g h i 坂井 (2005), p. 117-118.
  4. ^ a b c d e Mukhamedova (2015).
  5. ^ 淺村卓生「カザフスタンにおける自国語振興政策 及び文字改革の理念的側面」『外務省調査月報』第1号、外務省、2011年、1-24頁。 
  6. ^ Каким будет новый казахский алфавит (ロシア語). zakon.kz. http://www.zakon.kz/4877319-kakim-budet-novyy-kazahskiy-alfavit.html 2020年4月26日閲覧。 
  7. ^ Kazakhstan: New Latin Alphabet Criticized as Apostrophe Catastrophe” (英語). Eurasianet. 2020年4月26日閲覧。
  8. ^ Новый вариант казахского алфавита на латинице утвердил Назарбаев (ロシア語). TengriNews. (2018年2月20日). https://tengrinews.kz/kazakhstan_news/novyiy-variant-kazahskogo-alfavita-latinitse-utverdil-338010/ 2020年4月26日閲覧。 
  9. ^ Bartlett, Paul (2007年9月3日). “Kazakhstan: Moving Forward with Plan to Replace Cyrillic with Latin Alphabet” (英語). Eurasianet. 2017年7月21日閲覧。
  10. ^ Kazakhstan: President Calls for Switch to Latin Alphabet by 2025” (英語). Eurasianet. 2017年4月19日閲覧。
  11. ^ “Kazakhstan Presents New Latin Alphabet, Plans Gradual Transition Through 2031” (英語). The Astana Times. (2021年2月1日). https://astanatimes.com/2021/02/kazakhstan-presents-new-latin-alphabet-plans-gradual-transition-through-2031/ 2022年9月30日閲覧。 


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