イスパノ・スイザ HS.404 イスパノ・スイザ HS.404の概要

イスパノ・スイザ HS.404

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/04 15:09 UTC 版)

イスパノ・スイザ 20mm航空機関砲
イギリスによって独自改良されたモデルである、イスパノ Mk.V(Hispano Mark V)

イギリスでライセンス生産/独自改良されたものは“Hispano Mark *”、アメリカでライセンス生産/独自改良されたものには“20mm M1/AN-M2/AN-M3”および“M24”の制式名称がつけられている。

概要

20世紀に幅広く使用された航空兵器の1つで、イギリスアメリカフランスなどを始めとする多くの軍隊で採用された。

開発国のフランスの他、イギリスとアメリカ、その他にスウェーデンスイスアルゼンチンそしてユーゴスラビアで開発された航空機に搭載されて広く用いられたが、第二次大戦後はDEFAなどのリヴォルヴァーカノンM61を筆頭としたモーターガトリング砲の搭載機が増加していき、旧式機の引退と共に航空機搭載用としてはその姿を消していった。

なお、HS.404は原型を開発したのはスペインで創業されスペインとフランスに拠点を持った多国籍軍需企業であるイスパノ・スイザ社であるが、広く用いられた型は、いずれもイギリスとアメリカでライセンスを所得した後に両国において独自に改良されたもので、それらの改良にはイスパノ・スイザ社は間接的にのみ関わっている。このため、原型のイスパノ・スイザ HS.404とイギリスで改良された"Hispano Mark II"以降のイギリス製モデル、およびアメリカで改良された"AN-M2/3"および"M24"は、設計の祖を同一とする独自の発展型と捉えたほうが適切である。

開発に至る経緯

イスパノ・スイザ社フランス支社(HSF)は、スイスエリコン社が開発したエリコン FFSライセンス生産権を取得し、HS.7およびHS.9として生産を行った[1]。これは、イスパノ・スイザ 12Y 液冷V型エンジンの上に砲を搭載し、ギアボックスを介して軸を上方に偏移させたプロペラ駆動軸を中空にしてその軸内に砲身を通す、という“モーターカノン(Moteur-canon)”方式に用いるものとして、大口径かつコンパクトな機関砲を求めていたためであった[注 2]。しかし、HS.7/9の生産開始直後、エリコン社との間に特許を巡る係争が発生し、両社の取引関係は解消された[2]

1933年、イスパノ社の技術者マルク・ビルキヒト(Mark Birkigt)は、アメリカの機関銃設計者、カール・スウェビリウス(Carl Swebilius)が1919年特許を取得した機構、およびイタリアの銃器設計者であるアルフレド・スコッティ(Alfredo Scotti)が70口径20mm機関砲に組み込んだ機構に基づいて、HS.7/9の作動方式を変更し[1][2]、連射能力と砲口初速の向上といった改良を施し、弾薬もほぼ同規格ながら仕様の異なる20×110mm弾を使用するものとして、タイプ 400(HS.400)を完成させた。更に、タイプ402(HS.402)、更に実銃の製作は行われず図面上のみのものであったがタイプ 403(HS.403)を経て、1936年にはタイプ 404(HS.404)を完成させた。エリコンFFSではAPI ブローバックだった作動方式は、ブローバックの基本動作に加えて、ボルト開放にガス圧を用いたピストンを使用する併用方式に改められている。

HS.404シリーズは1938年にアメリカで特許を所得した後、まずフランス空軍向けに製造が開始された。モーターカノン用の20mm HS.404の他、銃身長を1,000mmに短縮して爆撃機他の銃塔/防御機銃用としたHS.405、23mm口径とした銃塔/防御機銃用(銃身長 1,150mm)のHS.406、23mm口径でモーターカノン用の長銃身(銃身長 1,600mm)型HS.407も開発された。ただし、HS.404以外は第二次世界大戦の開戦時で試作品が1丁ずつ完成していたのみである [2]

元来の装弾数は多くても60発装弾のドラム型弾倉のみであったため、飛行中に弾倉を交換することができない航空機では装弾数不足が問題になり、160発装弾のドラム型弾倉も開発されたが、この大容量弾倉は150発以上を装填すると途端に信頼性の低下を起こした[3]1940年にはベルト給弾システムの開発で解決が試みられたが、フランスの降伏で計画は頓挫し、最終的にはベルト給弾型は試作品と設計図が密かにイギリスに持ち出されて、イギリスによる改良型として実現した。

設計

アメリカでの特許申請書に記載されているHS.404の機関部の図

HS.404の大きな特徴として、2種類(ブローバックおよびガス圧作動方式)の作動方式を併用していることと、発砲時に前後作動する部分が非常に大きいことが挙げられる。

通常のブローバック方式の場合、撃発すると遊底は銃身と噛み合ったまま反動により後退し、所定の距離を後退したところでカムもしくはラッチの働きで遊底と銃身の結合が開放され、以後は遊底のみが後退して排莢するが、HS.404では銃身と遊底の結合の開放は銃身に開けられたガス導入孔から導かれた発射ガスがピストンを動かし、ピストンに連動するロッドが遊底と銃身の結合を解除することによって行われる。この併用方式はAPI方式に比べて発射速度を高いものとしつつ銃身を長くすることが可能であったため、航空機銃では重要な要素となる砲口初速と発射速度を向上させることができた[3]

なお、ブローバック方式の銃器は遊底(ボルト)のみ、もしくはボルトと銃身(※ショート/ロングリコイル方式)が撃発に伴い前後に動くことで動作し、撃発に伴って後退した機関部と銃身を複座させるばね(リコイルスプリング)は遊底の後方、もしくは銃身に並行あるいは銃身を取り巻くように配置されているが、HS.404ではリコイルスプリングが砲口部のすぐ後方にある設計になっている。これはモーターカノン方式に用いることを前提として設計されているためで、高初速を求めて長砲身としたため、長大になった砲身のぶれを砲口部で保持することで極力小なくするためと、通常の自動火器では前後に駆動する作動部を保持する部分(レシーバー)を、エンジンおよびそれに砲をマウントする部分に兼用させることでエンジンと砲を一体化させ、機関砲としては軽量小型な設計としていたためである[3]

この構造のため、HS.404には「砲口部を固定しなければ安定して動作しない」「砲単体で発砲すると作動部分の慣性重量が大きいために射撃時の動揺が大きい」という欠点があった。

これらの問題は本来の開発目的である“モーターカノンの搭載銃”として用いる限りさして問題とならないはずであったが、エンジンの振動が砲の作動に干渉して作動不良の原因になることや、モーターカノンではなく翼架や単独の銃架に装備する際に特別な銃架が必要になる、といった問題が生じた[3]


注釈

  1. ^ 原語のスペインおよびフランス語では語頭の「H」を発音しないため、"Hispano"の日本語表記は“イスパノ”とするのが原音に忠実であるが、イギリスやアメリカなど英語圏では英語読みで語頭のHが発音され、日本でも“ヒスパノ”と表記されている例が多々ある。特にイギリスがライセンス生産したモデルは“ヒスパノ”とされることが多い。
  2. ^ この方式は機首に武装を搭載するにも関わらず同調装置を必要とせず、発砲反動をエンジンブロック全体で受け止めることができるため、大口径機銃を比較的小型の単発機に安定して搭載することが可能となった。“モーターカノン”方式の武装を持つ戦闘機は第二次世界大戦の勃発前からフランスで採用され、フランス以外でも注目を集めた。日本でも1935年(昭和10年)に研究用としてドボワチン D.510とともにモーターカノンをフランスから輸入している。
  3. ^ この「薬莢の張り付きを防止するために薬室内壁に溝を設ける」構造は“フルーテッドチャンバー(Fluted Chamber)”と呼ばれる。
  4. ^ 当時の正式な社名は「Dansk Industri Syndikat A/S」で、“マドセン(社)”はこの時代にはブランド名もしくは通称である。
  5. ^ なお、M1は書籍等によっては“AN-M1”の名称で記載されていることがあるが、M1開発の段階では陸軍航空隊にのみ採用されているため、「陸海軍(統一)」を意味する"AN"の接頭記号(後述)はつけられていない。このアメリカ製HS.404、"Gun,Automatic,20 mm"シリーズにおいて、"AN-M1"の統一形式番号は、装弾システム(Mechanism, Feed, 20-mm, AN-M1)や電磁式撃発機構(Electric Trigger, AN-M1)といった付随装備にのみ用いられている。
  6. ^ これはアメリカ軍においては口径0.60インチ(15.24mm)より口径の大きなものは「砲」として分類されるためである。砲の製造公差は「銃」よりは緩く規定されていた。
  7. ^ アメリカにおいて製造されたHS.404シリーズには、MG42機関銃のアメリカ製コピーであるT24MG 151 機関砲のコピーであるT17と並んで「メートル法で作図されていた設計図をヤード・ポンド法に修正して設計図を描き直したために部品の精度に問題が生じ、コピーに失敗した」と解説されていることがある。しかし、本砲も含め、それらの説はいずれも別の複数の要因でアメリカにおける製造が失敗したことの誤認もしくは誤解に由来するもので、本砲においても“作図の際に単位の換算を誤った”ことのみが失敗の原因ではない。
  8. ^ AN-M*の“AN”とは"Army & Navy"の略で、「陸海軍(統一)」を意味する。
  9. ^ なお、P-38では再装填装置が機体側の装備として備えられていたため、他の機種に搭載されたものに比べて飛行中に不具合の対処が可能で、信頼性が高かった。
  10. ^ ただし、MK-12もF-8 クルセイダー艦上戦闘機に搭載されてベトナム戦争で用いられた際には「信頼性に難がある」との評価が出されている。
  11. ^ HS.404系列とは弾薬の互換性はない。
  12. ^ AN-M3 (T-31):26.1875lbs (11.8785kg)

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