FBIの包囲
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/13 22:20 UTC 版)
ATF捜査官は自分達の撤退後、教団施設内部にいるコレシュや他の人達との連絡を確立した。連邦捜査官が複数名死亡という結果を受けてFBIが直ちに指揮を執り、サンアントニオ支部局長のジェフ・ジャマールを現地指揮官として包囲を担当させた。FBIの人質救出チーム(HRT)は、以前ルビーリッジ事件での行動で批判を受けたリチャード・ロジャースが指揮官だった。ルビーリッジと同様、ロジャースはしばしばウェーコの現地指揮官を無視してHRT戦術2チームを同じ現場に動員し、最終的にはHRTの準備不足が原因で状況解決を困難にさせた。 はじめにダビディアンは地元のニュース媒体と電話連絡して、コレシュが電話インタビューを行なった。FBIはダビディアンによる外部との通信を切った。以降51日間、内部の人達との通信はFBI交渉人25名の一団による電話となった。司法省の最終報告書では、交渉作業を減らした件で交渉人らが戦術指揮官を批判していたことが判明した。 最初の数日間、FBIは自分達がコレシュと交渉した時に、コレシュによって記録されたメッセージが国営ラジオで放送される見返りとしてブランチ・ダビディアンが平和的に教団施設を去るつもりだとの合意が取れたことで、打開策を自分達が作ったものと信じていた。放送は行われたものの、コレシュは建物に残って「待つ」よう神が自分に伝えてきた、と交渉人に語った。それでも交渉人は、その後すぐに5ヶ月から12歳までの子供19人を何とか解放に持っていった。とはいえ、建物内には98人が居座っていた。子供たちはその後FBIやテキサス・レンジャーズからの事情聴収を受け、報道によると包囲作戦のだいぶ前から子供たちは肉体的虐待・性的虐待を受けていたという。このことが、ブランチ・ダビディアンを施設から追い出すため催涙ガス攻撃に踏み切る鍵となる、FBI(ビル・クリントン大統領とジャネット・リノ司法長官の両方)から提示された正当理由となった。 包囲中にFBIはビデオカメラをブランチ・ダビディアンに送った。コレシュ信者によって制作されたビデオテープでは、コレシュが自分の子供と「妻たち」を交渉人に紹介していた(その中にはコレシュの赤ん坊を授かったと主張する未成年者が数名いて、恐らくコレシュは教団施設内で一緒に滞在していた子供14人の父親になっていた)。幾人かのブランチ・ダビディアン信者がビデオ声明を出した。包囲九日目の3月8日、ブランチ・ダビディアンはFBIにビデオテープを送って、人質はおらず全員が自由意志で内部にいることを示し、またコレシュからのメッセージも入っていた。 交渉人記録では、テープが検証された際にメディアへのテープ公開がコレシュおよびブランチ・ダビディアンへの同情を呼んでしまう懸念があるとされた。またビデオには依然として教団施設に子供23人が映っており、外部の児童保護専門家は以前解放された19人と同様にそれら子供たちのケア準備に追われた。包囲が続くにつれ、コレシュはより時間をかけて交渉するようになり、それは降伏前に完成させる必要のある宗教文書を彼が書き上げられるようにするためだと報じられた。聖書のイメージ濃密な彼の会話は、現状を人質の危機として扱う連邦側の交渉者を無視するものだった。交渉団はコレシュの言葉を「聖書の泡沫(Bible babble)」と呼ぶことにした。 包囲が進むにつれ、FBI内に2つの派閥(交渉支持派と実力行使派)ができた。例えば夜通しの騒音放送による安眠妨害など、ブランチ・ダビディアンを強制的に追い出すための攻撃的手法が徐々に増えていった。教団施設の外では、M651催涙ガスグレネードやフレシェット弾を搭載したブラッドレー戦闘車両9台とM728戦闘工兵車5台が警ら巡回を始めていた。これらの車両は、周囲の柵や建物を破壊したりブランチ・ダビディアン所有の車両を粉砕するのに使用され、(ブランチ・ダビディアンからの抗議にも構わず)敷地内にある墓の上を走行することも度々あった。本館屋上にある貯水タンク3基のうち2基は、最初のATF強制捜査時に損傷を受けていた。FBIは施設のあらゆる電力と水を遮断し、中にいる人達は雨水と備蓄してあったMRE軍用レーションで生き抜くことを余儀なくされた。 攻撃的な戦術が増えるさなか、コレシュは信者の一団に退去を命じた。11人が退去して証人として逮捕され、1人が殺人の共謀罪で起訴された。コレシュと一緒に留まる子供たちの意向が、交渉人の障害となった。包囲が続くうちに、子供らは女性達と一緒に退去した以前の子供達がすぐに分離されて女性が逮捕されたことを認識した。 この包囲中に、政府工作員が用いる包囲戦術はブランチ・ダビディアンにとって宇宙的意義を持つ聖書の「終わりの時」の戦いの一環だというダビディアン内部の印象を強化しているに過ぎない、と宗教団体内部の黙示録を研究する複数の学識者がFBIを説得しようとした。これは、暴力的かつ致命的な結果をもたらす可能性が高い。教団の信念は極端なものに見えるが、ブランチ・ダビディアンにとってその宗教的信念には深い意味があり、彼らはその信念のために死ぬことも厭わない、と宗教学者は指摘した。 コレシュと交渉団との議論はますます困難になった。彼は自分がキリストの再臨であり、天国にいる父親から教団施設に留まるよう命じられたのだと宣言した。4月19日(急襲の1週間前)に、FBIの立案者はデビッド・コレシュやおそらく他のブランチ・ダビディアン幹部を殺すために狙撃手を使用することを検討した。FBIは、1978年にジム・ジョーンズのジョーンズタウン複合施設で起こったように、ブランチ・ダビディアンが集団自殺を犯すかもしれないという懸念を表明した。ただしコレシュは包囲中に交渉人と面談した際、集団自殺の計画を繰り返し否定しており、教団施設を退去した人達もそうした準備を目撃したことは無かった。
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